第76話 初任務 3
『いいか、ランズベルク。マイトランドを絶対に守るんだぞ。どんなことがあってもだぞ。いいな?特に、・・・には絶対に捕まるなよ。絶対にだぞ。』
「はぁはぁ、前もこんなことあった様な気がするな。あの時、先生なんて言ってたんだっけな。」
ランズベルクは走りながら、ふと、師であるアランとの会話を思い出し、それに返すように一人呟いた。
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「おい!おい!ランズベルク!聞いてんのか?」
「ああ、すまん。なんか、昔の事思い出してたわ。」
マイトランドの数度の呼びかけに、ようやく反応したランズベルクは、我に返ると続けた。
「なぁ、マイトランドよぉ。前にもこんなこと・・・。」
「そんなのはどうでもいい!後でいくらでも聞いてやるから、今の事だけ考えろ!もうすぐ帝国の観測所の視界に入る。帝国兵に気付かせる様に振り向きざまに一発撃て。」
マイトランドは、ランズベルクの話を遮ると、自分を担ぎながら走るランズベルクに指示を出した。
「はぁはぁ、そんなのって。銃はさっき撃ってから装填してないぜ?」
「そうか、なら銃をくれ。弾帯から火薬と弾を取って俺が装填する。」
ランズベルクは、首と左腕を通してかけてあった銃を左手で取ると、マイトランドが伸ばす右手に渡した。
「敵との距離はまだ結構ある。ゆっくり走ってくれ。」
マイトランドは銃を受け取ると、そう言って揺れるランズベルクの腰から火薬を取り、銃口を顔手前で、空に向け火薬を流し込む。そのまま弾を込めると、槊杖で一気に押し込む。
「ほら、できたぞ!指示を出したら、当たらなくていいから振り返って適当に撃て。指示を出すまで打つなよ。」
「はあ、はあ、わかったよ。」
大勢の敵に追われているのだ。ランズベルクの息が、先ほどよりも上がってきていることに気付いたマイトランドは、即座に気配察知を使い周囲の状況を探る。
ランズベルクの後方に膨大な数の敵が近ずいているのを感じると、進行方向の近いところにある高台に、それとは別の反応を4つ確認した。
「よし、今だ!振り返って撃て!」
マイトランドがランズベルクの背を叩き、そう小さく呟いた。
ランズベルクは肩を叩かれると、即座に立ち止まると振り返り、少し離れた敵の松明の大群に向かって引き金を引いた。
バーン。
「クソ。当たるわけもないぜ。」
撃った瞬間、一瞬火薬の発光で、僅かに光るランズベルクの顔は歪んでいた。
それはランズベルクが敵に当たらないと確信したからに他ならない。なにせ引き金を引く勢いが”がく引き”であったのだから。
通常、引き金という物は、ゆっくりに引くものである。”がく引き”とは射撃の際に、反動を予期し体をこわばらせたり、勢いよく引き金を引きすぎて、銃の保持が崩れて照準がズレてしまうことを指す。
つまり、ランズベルクは振り返りざまに、勢いよく引き金を引きすぎた為、自分で”がく引き”をしたと理解していたのだろう。
一瞬の発光後、すぐに暗闇に戻り、乾いた発砲音が鳴り響くと、弾は真っ直ぐに敵集団に向かって飛んで行く。
敵の追っ手に向かい飛んで行った弾は、当たることなく敵の上方を抜けて行く。ランズベルクの読み通り命中しなかったのだ、当然のことながら敵の追跡は弱まることは無い。射撃が下手くそと知って、余計に速度を上げる始末だ。
「ランズベルク、銃を貸せ。装填する。もう一発だ。」
「はいよ。」
ランズベルクは振り向くと、再び走り出し、銃をマイトランドに渡す。
マイトランドは銃を受け取ると、火薬を流し込み、続いて弾丸を込めようとするも、弾が丸い為、走るランズベルクの振動で何度か落としてしまうことになる。
4度目で弾を込めることに成功し、それを槊杖で一気に押し込むと、次の瞬間その場が急に明るくなり、敵に向かって何かが飛来した。
ドガーン!
敵に命中こそしなかったものの、敵の足を一瞬止めるには十分であった。
ランズベルクは突然の爆発音に立ち止まり、膝に手をつくと口を開く。
「はあ、はあ。なんだ、お前撃ったのか?」
「いや、違う。見てなかったのか?これは範囲攻撃魔法だ。」
そう言って、銃をランズベルクに渡すと、先ほどの気配察知で反応があった方向から声がする。
「そこのお前!こっちだ!早くこっちに来い!」
ランズベルクはマイトランドを担いだまま、マイトランドの服を引く方に走り出す。
「いいか。後は作戦通りだ。戻ったら分隊長に、うまくいったと報告してくれ。」
マイトランドがランズベルクにだけ聞こえるほどの大きさで呟くと、ランズベルクもまた小声で反応した。
「はあはあ。わかった。」
少し走ると、草のついた扉を上に持ち上げるハイデンベルグ帝国の軍服を着た軍人が2人を誘導する。
「おい、早く入れ!次弾が来るぞ!!」
ランズベルクは言われるがまま、その扉の中に入った。
扉の中には帝国軍人4名がおり、それぞれ小さな窓から機材を使って外を見ている帝国軍人が2名、巻貝の様な魔道具に向かって何かを喋っている軍人が1人、扉を閉めた帝国軍人の計4人であった。
ドガーン!
先程と同じ大きな音がすると、外を見ている帝国軍人の内1人が、その音に反応して叫んだ。
「第二射命中!」
その報告を聞いた、巻貝の様な魔道具を持った帝国軍人が魔道具に向かって喋り出す。
「こちら前進観測班、第二射命中、第二射命中、同一諸元に効力射!」
すると、今度はその魔道具から声が聞こえてくる。
「こちら射撃指揮所、同一諸元、効力射、了解!」
マイトランドと、ランズベルクは、こんな末端の部隊にまで通信用の魔道具が行き渡っていることに、ウェスバリアと帝国の国力の差を感じていたのか、その光景を呆然と見ていると、観測所の扉を開け2人を誘導した帝国軍人が声をかける。
「お前達。そこの観測用の小窓から、お前達を追っていたカルドナ王国兵がどうなるか見ていろ。特にお前はな、ウェスバリア兵。国力と戦力の差を知ることになるぞ。」
そう言って、ランズベルクを指差すと、観測用の小窓に案内をされた。
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