第73話 着任と最初の命令 2

「こ、こんなの絶対使えないぜ。鳥なのに地面を歩いて・・・。まあ、これだけ太ってるんだ、非常食にはもってこいかもな。」


 ランズベルクは、ドワイトに渡されたバートル号の首についたリードを強く引きながら訴えと、バートル号は人間の言葉が理解できているのか、ランズベルクを睨んで、騒ぎ立てた。


 すると、幕僚はランズベルクにこう告げた。


「貴様は階級章からすると新兵か?何もわかっていないな。軍では犬、鳥などの長距離伝令を出来る動物は不足している。バートル号は、太っているがスズメだ。貴重だぞ?それにな、スズメはとても帰巣本能の強い動物だ。テイムされているし、調教も済んでいる。今回の任務の距離であれば、優秀なバートル号であればすぐに戻ってこよう。任務に全く支障はない。」


 確かにスズメは、帰巣本能の強い動物である。

 かなり長い距離においても迷うことなく、巣や餌場にたどり着くことが出来る。

 テイムと言うのはビーストテイマーや魔獣使いなどに代表されるスキルで、モンスターや動物の同意を経て、それらを使役することが出来るスキルだ。

 そうなると、このバートル号は、この天幕内の誰かに使役されていることになる。

 それを裏付ける様にその幕僚は続けた。


「バートル号には戦闘能力はないが、一端放てば、天幕の飼い主の元に必ず戻る。つまりだ、何か用が無いとき以外はどこかに括り付けておいてくれ。ここに戻ってしまうのでな。」


 幕僚がそう言って、再度天幕内に戻るのを確認すると、マイトランド達ドワイト分隊は10人と1匹で北の警戒地点へと向かった。


---


 隊列を組んで移動していた時は、大人数、荷物、物資などの理由から、歩いて4日程掛かったが、今度は10人と少人数。受け取った糧食も少なかったため、速度を上げ行軍すると、翌日には警戒地点に到着した。


 警戒地点に到着したドワイト分隊は、戦闘糧食を必要最低限と、それ以外の物も戦闘に必要でない物は、ドワイトの指示で街道脇に埋設し、仮指揮所の建設をする。


 イブラヒム、アダムス、ランズベルクは掩蔽壕の建設。

 マイトランドは敵方向山岳地帯の警戒。

 ポエル、アツネイサは近場の警戒。

 セリーヌ、ミシェル、トーマスは偽装の為の草や木の回収。


 指揮官のドワイトは、指示を出すと、昼寝でもするのかと思いきや、自らエンピを持ち、腕をまくると、ランスベルク達3名の穴の掘削を手伝った。


「ランズベルク、貴様、エンピの使い方を知らんのか。」


 エンピとは携帯用のシャベルの事である。


「は、はあ、普通に使えてると思うぜ。分隊長。なんか問題でもあるのか?」


 ランズベルクが上官に悪態をつくのも無理はない。

 ランズベルクの掘削の速度は、その有り余る体力のせいか、掘削スキル持ちのイブラヒムと比べて、少し早く、決して遅いと言えるレベルではない。


「ああ、他の2人も俺が掘るのを見ろ。俺はランズベルクより魔力量は低いが、この通り素早く掘れる。お前達だったらもっと早く掘れるだろう?」


 そう言って。サクサク穴を掘るドワイトに、ランズベルクは、


「おお、魔法でエンピの先端に魔力を流してるんすか。芋を切るみたいに早いっすね。なんで新兵教育隊で教えてくれなかったんだよ。」


 目から鱗を言った感じで、ドワイトの掘削作業を食い入る様に見つめるも、


「理解したならすぐに再開しろ。」


 と言うドワイトの一言で、嫌々作業に戻った。


 その後、張り切ったランズベルクの活躍もあり、街道から少し外れたところに建設していた仮指揮所の設置が、ドワイトの予定よりも大分早く終わると、セリーヌ、ミシェル、トーマスの集めた木、草などをを周りに設置し、遠目からはそれが指揮所だと分らないように偽装を施し、指揮所の建設を完了した。。


 指揮所が完成すると、ドワイトはポエルとアダムスの2人を警戒に付かせ、作戦会議の為に他の全員を指揮所に集めた。

 全員が集合すると、ドワイトは開口一番、


「偵察、強行偵察に関する作戦は、マイトランドが立案するのがいいだろう。」


 そう言って、マイトランドいじめを知る、ランズベルクとアツネイサ、イブラヒムを驚かせた。

 当然マイトランドはドワイトへ疑問を投げかける。


「作戦の立案は分隊単位では、中隊、もしくは大隊、連隊の作戦計画に沿って分隊長が決めるはずですが?」


 マイトランドがそう言うと、ドワイトはにやりと笑って答える。


「ああ、だが任務に関して、完遂の為には自由にしていいと指示は出ている。それとも不満か?」


「いえ、不満はありません。」


「だったらお前が考えろ。分隊という戦場の一つの駒を使って、うまく敵軍団を倒すくらいの作戦をな。ネイ将軍には色々世話になってな。仇を取ってやりたいと言うのが本音だ。」


「どんな方法でも良いんですか?期間は?どれくらいです?」


「もちろんだ。ドワイト分隊は敵の大規模侵攻を、連隊指揮所に知らせれば良いだけだからな。それ以外は何をしても良い。貴官はそうだな2ヶ月ほどは自由にやってみろ。無論の事だが、俺が全責任を負ってやる。」


「わかりました。」


 マイトランドは、目を閉じ腕組みをすると、少しの間上を向いて考えた。

 しばらくして、閉じていた目を開くと、不意にドワイトの後ろにある包みを指差し尋ねた。


「分隊長。そこに立てかけてある物を借りても?」


「これか?使い方がわかるなら使ってもいいぞ。」


 マイトランドが指差したものは、通常、銃歩兵や指揮官にのみ持つことを許された、ハイデンベルグ製の旧式ドルトン銃であった。

 ドワイトから、火薬と弾丸の袋、それに槊杖が付いた弾帯を受け取ると、指揮所机に両手を置き、作戦を説明した。

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