第74話 初任務 1

 マイトランドは、師であるアランの言葉を思い出す。


『味方の戦力を把握したら、先ずは敵と戦場を知る事。偵察、監視により入手する敵情及び、作戦地域の把握が何よりも重要である。』


 監視とは受動的、つまり動かずに自部隊の位置を秘匿し、発見した敵の情報を集めること。対して偵察とは能動的、つまり自分から動き、作戦地域を巡り、敵を発見、情報を収集する事である。

 又、偵察には主に2種類あり、隠密偵察と威力偵察が存在する。

 隠密偵察とは、読んで字の如く自分の位置を可能な気限り秘匿し、敵に察知されないように行う偵察のことである。

 威力偵察とは、敵の装備や、敵の詳細位置など、実際に交戦しないと分らない情報を手に入れる為、敵と交戦し情報を得る偵察の事である。ただし、威力偵察の主目的は敵の撃破にはない。交戦の後、直ちに撤退が必要である。


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 ウェスバリア、ハイデンベルグ帝国、カルドナ王国、その3国の国境が交わる地域、ウェスバリア南東部グルノブルットの街北側の森林地帯。


 カルドナ王国に宣戦布告をされると、ハイデンベルグ帝国はカルドナ王国との国境を守備する3個軍団に加え、予備兵力であった後方の2個軍団を投入。合計5個軍団を1個軍として国境守備にあたらせた。

 カルドナ王国10個軍団に対し、5個軍団というハイデンベルグ帝国は、数の上での劣勢を、その強固な防御陣地と、新式の装備によって幾度となく撃退していた。


 ウェスバリアとハイデンベルグの国境にはハイデンベルグ帝国軍1個軍団、第18軍団がカルドナ王国の2個軍団ににらみを利かせており、カルドナ王国からウェスバリアへの侵攻は、ガゲンテラ山の麓の山道を使用せざるを得ない。


 ウェスバリア第2軍が大損害を被った先の戦闘では、カルドナ王国軍は、マイトランド達が警戒に付く森林地帯を、山道を越え、徒歩による強行軍で侵攻し奇襲した。


「帝国軍が、カルドナに侵攻しないのはどうしてなんだ?」


「攻めるには兵の数が足りないだろう。だが、我が軍がカルドナ軍の側面にいる以上、守るには十分だ。」


「じゃあ帝国は増員すればいいんじゃないか?」


「うん、帝国は今三つの戦線を抱えている。イドリアナとの戦線、アウジエットとの戦線、そしてこのカルドナ戦線だ。東進をしている帝国は、アウジエット戦線に増員している。」


「ってことは、この戦線は維持するだけってことか?」


「そうなるな。カルドナもその帝国を攻めあぐねているようだから、ウェスバリアを攻めて半包囲したいのだろう。だから今回は無傷の帝国の力を利用しよう。」


「戦線を維持する命令しか出てないんだろう?そりゃ無理だぜ。」


「敵が大挙侵攻して来たら、それを防ぐために戦うだろう?」


「どうやって?」


「言っただろう?さっきの作戦通りだ。ポエルと、ランズベルクは、イブを伴い先発してくれ。それと、ランズベルクはこれを持って行け。後で俺も行く。」


 マイトランドは自分の短剣2本をベルトから外すと、ランズベルクに向かって投げた。


「いいのか?」


「ああ、問題ない。用心のためだ。俺にはアレがあるからな。剣とラウンドシールドは邪魔になるからな。置いていけよ。それとこれも持って行けよ!」


 続いて火薬と弾丸の袋、槊杖が装着された弾帯をランズベルクに投げる。

 槊杖とは、火縄銃やマスケット銃の様な、前装填方式の銃に使う棒の様な物である。


 ランズベルクは受け取り、それらを自分に装着すると、銃を背中に担ぎ、イブラヒム、ポエルと共に先発した。


 ランズベルクを見送ると、マイトランドは次の作業に取り掛かる。


「ミシェルとアダムは指揮所待機、アツネイサとセリーヌは付近の警戒に出てくれ。トーマスはバートル号の管理、及び分隊長の世話を頼む。」


 そう言うと、軍服、軍靴を脱ぎ、持っていたボロの布きれに着替えるとドワイトに出発することを伝えた。


「では分隊長、後はよろしくお願いします。もうありませんが、銃をお借りします。」


「ああ、何をするかはお前に任せてある。自由にすると良い。俺の階級の為に頑張ってくれよ!」


「はっ!行ってきます!」


 そう言うと、マイトランドはランズベルクの後を追った。


 先発したランズベルク、イブラヒムは、マイトランドの計画通り、ランズベルクの魔法で移動速度を上げ、作戦地域を見て回りながら、敵の侵攻してきそうなルートを通り、ポエルはその後を枝葉で自分と2人の足跡を消しながら付いて走る。

 そのまましばらく進んだところで、イブラヒムと一人用掩体を2つ掘ると、2つを偽装し、そこにポエルとイブを残し、マイトランドとの合流地点へと向かった。


 掩体とは身を隠したり、身を守るための穴であり、警戒、監視などの際に良く掘られる他、敵魔導砲兵からの砲撃などをやり過ごしたりする、個人用塹壕の様な物である。


 一方のマイトランドはというと、ランズベルクとの合流地点に向かい走る。


 飲まず食わずで丸2日程走っただろうか、気配察知で先着していたランズベルクの位置を探ると、合流する。

 マイトランドの指示通り、隠密を使わずに身をひそめて待っていたランズベルクが草叢から出てくると、走ってくるマイトランドに声をかけた。


「お疲れだな。それにしても結構遅かったな。」


「ああ、お前の魔法が無いからな。結構かかったよ。だがおかげで準備万端だ。さあ、かついでくれ。」


「ああ、わかったよ。どうなっても知らないぜ。」


「大丈夫だ。お前と二人なら失敗はしない。」


 そう言うと、ランズベルクはマイトランドを担ぎ、ウェスバリア、ハイデンベルグ帝国、カルドナ王国と3国の国境が交わる地点へと向かった。

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