第108話 帰路 2

 何度も気配察知を使用しながら、ランズベルクとの集結地点である、トレーナから数えて3つ目の丘を下ると、改めて気配察知をするマイトランドは、あることに気付きヘルムートへ尋ねた。


「ゲルマー少尉。カルドナ王国は08型を本当に傍受できるんだったか?傍受できるのであれば、この辺りに敵の伏兵がいてもおかしくないが、気配察知には引っかからない。」


「はい、隊長の持つ旧式魔道具であれば、カルドナ王国軍は間違いなく傍受できるかと。」


 あること、マイトランドの気配察知によれば、時折感じられるランズベルク達3人以外の気配を感じない。つまりそれは、敵の気配も感じられないということと同義である。

 そう首をかしげるマイトランドに、レフが尋ねた。


「魔力感知ならどうかい?潜んでいる兵が隠蔽されていたら、気配察知だと気付けないさ。」


「魔力感知も使っている。だが、反応はない。ウェスバリア軍だから傍受する必要がないということでは?まあ、とにかく用心しながらランズベルク達と早く合流しよう。」


「はいさ。」


「了解。」


 6人はマイトランドの指示通り、丘を下りきると、ランズベルク達の反応がある場所へと歩みを進めた。

 しばらく進み、大きな木の下に出ると、マイトランドはその足を止めた。


「どうしたんだい?」


 足を止めたマイトランドにレフが尋ねると、マイトランドはそれに答える様に、頷くと、ランズベルクの名前を叫んだ。


「ランズベルク!いるか?」


 その声に反応するよりも少し早く、大きな木の上からガサガサと言う音と主に、黒い何かがマイトランド達に迫ってくる。


 警戒するレフ達を余所に、その黒い影は、脇目も振らずマイトランドへ突進すると抱きついた。


「ポエルか。ただいま。」


「うん。おかえり。この人達だれ?」


「ああ、全員揃ったら説明する。敵は見たか?ランズベルクとアツネイサは?」


「うん。敵はこの辺りいない。あの二人は木登りは苦手。今降りてきてる。ポエルは得意。だから早い。」


 ポエルは、そう自慢げに頭に付いた耳を動かすと、遅れてランズベルクとアツネイサが、ドスンと言う音と共に木から降りてきた。正確にはアツネイサは落ちたと言う言い方が正しいであろう。マイトランドはアツネイサを気遣うと、ランズベルクと再会の抱擁を交わした。


「遅くなって、すまんな。心配かけたな、相棒。そっちの首尾は?」


「全く心配したぜ!こっちは色々動き回って、帝国に対して正面の防衛を強化させたぜ。で?そいつらは?」


「そうだな。その話もしないとな。レフ!ゲルマー少尉!」


 マイトランドは2人の名前を呼ぶと、ランズベルク達3人に紹介した。


「こいつはレフだ。トレーナで軍人になろうとして所を、なぜか俺に付いてくると言って付いてきた物好きな男だ。」


「はじめまして。レフさ!よろしくしてほしいさ!」


 レフがマイトランドの紹介を受け、自己紹介すると、ランズベルクが反応する。


「なんだこいつぁ。なんか喋り方がムカツクぜ。腕は立つのか?」


「ああ、その辺りは間違いない。俺のスキル軍勢効果付与の騎兵を担っている。喋り方はレフの方言だそうだ。気にするな。」


「そうか、方言か。なら仕方がないぜ。で?その軍勢効果付与ってなんだ?」


 マイトランドは軍勢効果付与について、レフから聞いたことをランズベルク達に伝えると、併せてレフの鑑定スキルについても伝えた。


「なんだそりゃ?俺にも何かくれよ。」


「ポエルもほしい。」


「オレモ。ホシイ。クレ。」


「ちょっと黙って待ってくれ!」


 当然の結果だろう。マイトランドは3人の返答を一蹴すると、レフに耳打ちで訪ねた。


「ランズベルクには既にファルジン(将軍)を付与した。レフ、付いているか確認できるか?」


「ついてないさ。マイトランドが、皇帝の軍勢将軍をまだ発現させてないからじゃないかい?」


「そうか、ポエルには昇格歩兵を付けた。確認できるか?」


「それは確認できたさ。スキルは軍勢付与・昇格歩兵(弓)になってるさ。」


「効果は?」


「昇格歩兵(弓)は精鋭弓兵を8体召喚する。この召喚された精鋭弓兵は召喚者の現在ステータスにより材質、強度、性能が変わる。召喚者の弓兵指揮スキルと弓スキルを大幅に上昇させる効果を得る。尚、敵陣地地域、守備地域において、将軍と同等の力を得ることが出来る。ってあるさ。もしかしたら僕の騎兵よりも強いかもしれないさ。」


「弓?そうか、じゃあアツネイサにも今歩兵を付けたんだが、どうだ?」


「昇格歩兵(隠密)は精鋭隠密兵を4体召喚する。この召喚された精鋭隠密兵は召喚者の現在ステータスにより材質、強度、性能が変わる。召喚者の偵察スキルと隠蔽スキルを大幅に上昇させる効果を得る。尚、敵陣地地域、守備地域において、将軍と同等の力を得ることが出来る。ってあるさ。」


「歩兵は性能が変わるのか。2人についた効果は運がよかったな。これはちょっと考えてつけないとマズいな。」


「そう思うさ。」


 2人は耳打ちを終えると、マイトランドが3人に向き直り口を開く。


「ポエルとアツネイサには効果付与が出来た。詳細はレフから聞いてくれ。ランズベルクは、すまん。俺はお前に将軍を付与したい。だが、俺のスキルが足りていないせいで、お前に今将軍が付与が出来ない。後々スキルが発言したら、付与するから待っていてくれ。」


 ポエルは飛んだり走ったりして喜び、アツネイサは沈黙をもってその喜びを伝えた。ランズベルクだけは悲しそうにうなだれると、マイトランドに答えた。


「う、うん。別に将軍じゃなくてもいいぜ?」


「ダメだ!お前は将軍じゃなきゃ。」


 マイトランドが、またランズベルクの意見を一蹴すると、レフがランズベルクに向かって尋ねた。


「君、そのスキルは誰から譲ってもらったんだい?」

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