第107話 帰路 1

「レフ、そう言えば、俺のスキルについて、随分と詳しくなった様だけど、お前にやったスキルは、俺に帰ってくるのか?」


「一度付与したら外せないさ。」


「うん?ってことは後は戦車を1人と、僧正を1人しか決められないってことか?」


「説明だと、軍勢効果付与は、皇帝に絶対的な忠誠を誓い、皇帝にその身を捧げ守ることの出来る将兵に対してのみ付与することが出来る。皇帝が付与の解除取り消しをすることは出来ず、付与は永続的であり、付与された者がその忠誠心を欠落させるか、その者が絶命するまでこの効果は付与される。一度付与した者には再度別の効果付与は出来ず、将軍1名、僧正2名、騎兵2名、戦車2名、昇格歩兵8名の計15名に付与することが出来る。尚、付与された効果は、皇帝にもその効果を同時に付与される。ってあるさ。その内の騎兵1名を僕が貰ったさ。」


「なんか、僧正がピール(象)ならシャトランジみたいだな。で?付与すると何が起こるんだ?」


「僕の場合は、騎兵は大柄の馬2頭を召喚する。この召喚された馬は召喚者の現在ステータスにより材質、強度、性能が変わる。召喚者の騎乗スキルと馬上スキルを大幅に上昇させる効果を得る。ってあるさ。」


「他は?」


「付与されてないからわからないさ。」


「じゃあちょっとやってみるか?」


「はいさ。」


 マイトランドは、試しにとレフに付与した時と同じように後ろを歩くヘルムートに念じた。


「今、ゲルマー少尉に、戦車を付与したんだがどうだ?」


「付与されてないさ?」


「なんで?レフの時と同じようにやったぞ?」


「忠誠心が足りないんじゃないかい?」


「レフだって俺に忠誠心はないだろう?おかしなことを言うなよ。」


「僕はあるさ。マイトランドと一緒がいいさ。」


「いや、だって俺達まだ出会って数日だろ?おかしいだろ。」


レフはマイトランドの問いかけに少し悩むと答えた。


「うーん。男女が恋に落ちるのは突然さ?時間の問題じゃないさ。」


「お前女だったのか?」


「物の例えさ。だから忠誠心も突然って意味さ。」


 レフはどこからどう見ても女性ではない。マイトランドは男女以外の恋愛を想像し、一瞬肝を冷やしたが、その様子を見てレフは苦笑すると続けた。


「これは僕が今まで見たこともないようなスキルさ。だから、ホイホイ付与したらダメさ。慎重に付与してほしいさ。」


「ああ、そうすることにさせてもらうよ。これからもよろしく頼む。」


 これは、帰路においてのマイトランドとレフの一幕である。


---


 追っ手を考え、6名は山道を不眠不休で行軍していると、マイトランドの回収した装備の中、08型魔導通信機が突然音を上げる。


「こちらランズベルク。マイトランド、聞こえたら応答してくれ。」


 マイトランドは顔をほころばせ、レフに安堵の表情を見せると、08型を手に取り、ランズベルクに生存を伝えた。


「こちらマイトランド。ランズベルク、今どこにいる?」


 マイトランドが自身の無事を伝えると、ランズベルクは即座に応答した。


「おお。良かったぜ。生きてたか。予定よりも遅いから心配したぜ。俺は今トレーナ平原南の森林だ。お前はどこだ?」


 マイトランドは気配察知をすると、ランズベルクの反応が周囲にないのを確認し、再び08型を手に取ると、自身のおおよその場所を伝えた。


「俺も平原南の森林地帯を、グルナブルットに向け6名で行軍中。今トレーナ西の丘陵を2つほど越えたところだ。近くまで来れるか?」


「ああ、わかったぜ。3個目の小さな丘陵を越えたところで待つぜ。こっちはポエルアツネイサと一緒だぜ。ポエルがうるさいからな。出来るだけ早く来てくれ。斥候に出ている敵より厄介だぜ。」


 マイトランドはランズベルクの状況を察すると、笑い出し、笑った口調のまま08型で返答した。


「ふふふ。わかった。すぐに向かう。気配察知を使ってこちらから接触する。接触するまで待機場所から動かないでくれ。」


「何笑ってんだ。こっちは大変なんだぜ。全く、疲れるぜ。とにかく急いでくれ。交信終わりだ。」


 マイトランドの安堵の表情を見てか、重かった空気がマイトランドの笑い声と共に一気に和んだ。

 だが、一人だけ空気の和まない者があった。08型を目にしたことのあるヘルムートがマイトランドに尋ねた。


「隊長、それは・・・。元帝国製の魔導具では?」


「そうらしいな。何かあったのか?」


「ええ。それをウェスバリアで何と言うか名前を知りませんが、その後の1世代前の帝国製の通信魔道具02式通信魔道具は、アウジエット連邦に傍受されていました。当然02式より古い魔道具は、アウジエット連邦、カルドナ王国、イドリアナ連合王国も傍受できるでしょう。数年前にウェスバリア軍に訓練用として、全量譲り渡したのです。当然ながら傍受の事実も伝えています。」


「ってことは?今の会話も傍受されているのか?」


「ええ、まず間違いないでしょう。古い型式は魔力だけを使用している都合上、傍受はとても容易です。新型の08式は、まだ開発されて間もないので傍受は困難でしょうが。」


 ヘルムートは、マイトランドの顔が、みるみるウチに青くなっていくのを感じた。

 理由は明白である。距離的な物はあるだろうが、敵の傍受が今、行われていれば、自分達の人数、名前、場所までを全て話していたことは全て伝わっているからであるい。


「急ぐぞ!」


 マイトランドはそう言うと、誰よりも早く森の奥へと歩みを進めた。

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