第35話 模擬戦 14

「グレンダ様ぁぁあ!」


 グレンダの副官が振り向き、グレンダの馬の異変に気付き声を上げるも時既に遅く、マイトランドがランスを戦車の車輪に投げ入れると、片側の車輪の力の行き場を失った戦車は、回るように宙を舞った。


 グレンダが戦車の馬車とは別方向に飛ばされると、それを待っていたかのように、ランズベルクがグレンダを受け止め腕に抱く。


 父親以外の男に抱かれることとなった為か、頬を赤く染めるグレンダに、ランズベルクは降伏を促すと、観念したのか、あっさり了承した。


「あの、名前を伺っても?」


 そう言ったグレンダにランズベルクは笑顔で答える。


「ランズベルクだ。」


 名前を言うと、グレンダを立たせその場を後にする。

 そんなやり取りの後、フレデリカがヘクターに降伏をすると、各班に随伴していた班長と査閲官が模擬戦本部に状況を伝える。

 しばらく経つと、


 ドーン、ドーン、ドーン


 という模擬戦開始時と同じ銅鑼の音が鳴り響き、2日間に渡る模擬戦はここに終わりを迎えた。


 戦場にいた、もしくは、戦場から脱落し模擬戦終了まで待機していた全ての班は、開始前の集結地点である広場へと移動を開始する。


 かがり火が灯る広場には、既にマイトランド達以外の全ての班が集結しており、マイトランド達が到着すると、参加者全員から惜しみない拍手が沸き起こった。


 拍手の中、マイトランド達はヘクターを先頭に、自分達の定位置47番目へ向かう。

 その班の整列位置に立っていたドワイト班長は、終始にこやかにその状況を見守っていた。


 全ての班が揃い整列を終えると、あの魔力拡声器から声がする。


「査閲官登壇。」


 各班の代表者が出す“気を付け”の号令を確認すると、査閲官フランドールが登壇する。

 魔力拡声器の指示で、敬礼を終えると、


「これより、評定を執り行う。部隊番号と、代表者を発表する。呼ばれた受賞部隊の代表者は中央に移動せよ。尚、受賞部隊には副賞として、グレッテ家、ロンメル家より金一封が授与される。」


 魔力拡声器を持った軍人は、金一封と言われ燥ぐマイトランド達をちらりと見ると、受賞部隊を一気に読み上げた。


「第5位、第3班、ベルナー隊、撃破数4」

「第4位、第5班、クリシュマルド隊、撃破数4」

「第3位、第4班、アレクシス隊、撃破数4」

「第2位、第2班、ロンメル隊、撃破数15」

「第1位、第1班、グレッテ隊、撃破数22」


 そこに47班ヘクター班の部隊名は無かった。


「ふざけんな!おかしいだろ!」


 ジェイクが大声で叫ぶと、当然他の者も騒ぎ立てる。無論のこと参加者ほぼ全員だ。

 いい加減にしろ、横暴だ、クソ野郎、賄賂を貰った、職権乱用、様々な文句が飛び交う中、ランズベルクは、目を閉じ黙って腕組みをするマイトランドを覗き込む。


「俺的には1位でも最下位でも変わらねえ。でもまさか撃破数だとは思わなかったよな。マイトランドはどう思う?」


 マイトランドは、ランズベルクに顔を向けると答える。


「ああ、まあこんなもんだろ。こんなことも想定済みだ。去年までの記録は違ったんだけどな。概ね予想通りだ。決まってしまったものに文句を言ってもしょうがない。潔く5倍の罰を受けるとするか。金一封はフレデリカ達から回収することにしよう。」


 そう言うと、ランズベルクはその言葉を後ろの班員に伝える。


「軍師殿が想定済みだとよ。もう文句言うな。フレデリカ達が金くれるってよ。」


 伝言ゲームの様に、後ろへ後ろへとマイトランドの言葉が少し違った形で伝達されると、全ての班員は文句を言うのを止め、おとなしくなった。本当の優秀班であるはずのヘクター班が、文句を言うのを止めたので、それに習い他の者も口を閉じた。


 貴族、新貴族班の代表者5名が査閲官の立つ壇の前に集まると、事態はまたマイトランドの思惑とは違う方向に動く。


「勝利条件がおかしい!撃破数ではなく、勝ち残りの模擬戦だったはずだ。今すぐに再考されよ。称えられるべきは47班ヘクター隊のはずだ。」


 そう言ったのはフリオニールだった。

 査閲官フランドールはこれに対し、


「グレッテ卿、評定の変更はありません。今回の模擬戦より、評定の評価科目が変わったのです。事前に通達しておりましたが?」


 無論のこと、フリオニールは評価項目の変更などは聞いていない。


「では私の部隊は受賞を辞退しよう。勝利を譲られても嬉しくはないのでな。」


 そう言って、元の位置まで戻ると、号令をかけ、班ごとその場から退場した。


 グレンダ、フレデリカも、これに続くように受賞を辞退し、その場を去る。


 それは、マイトランド達平民の知っている貴族の姿ではなく、信頼に値する真の貴族の姿であった。


「どうするんだよ。金一封回収できなくなったぞ。」


 マイトランドは、少し考えると、ランズベルク疑問に答える。


「金貨1枚じゃダメか?」


 画して、新兵班対抗の第一回目の模擬戦は最優秀班なしと言う全体未聞の結果で幕を下ろした。

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