第164話 トレーナ攻略戦 前編 3
時系列は少し戻り、ハイデンベルグ帝国皇太子ジークフリート薨御の前日、帝国軍第18軍団2個師団が、トレーナ北門から10キロほどの距離であるボルビァーノに到達すると、トレーナ西門西側の要塞化された野営地を眼前に捉えるウェスバリア軍第2軍前衛である第7重装歩兵師団に、北門手前に既に到着し北側の森林部に待機していた、別働隊である第2軍団からの伝令により帝国軍ボルビァーノ到来の報が入る。
即座にこの報受けたウェスバリア軍第2軍総司令官であるツェッペリン大将は、トゥルニエ少将の上申が正しかったと認識を変え、攻撃時期を帝国軍と合わせるべく全ての軍団、師団、旅団に攻撃時期を合わせよと下命した。
当然この帝国軍到来の報は、カルドナ王国軍第4軍司令官であるアンプロージョ少将の耳にも入ることとなる。
アンプロージョ少将は北門壁上にある全てのトレビュシェット、カタパルト、バリスタに、工作部隊を配置すると、それら兵器の間隔を埋めるべく西門西側野営地前衛からほぼ無傷であった第16銃歩兵師団の配置を転換、北門壁上へと配置した。
守備隊であるエットーレ・パスクッチ大佐指揮下の第107軽騎兵連隊と、増援であるウンベルト・イアキーノ准将旗下第3混成団の内、空戦隊770名を除く5230名を北門内に配備、西門西側野営地では北側に流れるチェニスキー河の影響で狭く、戦闘範囲も限定的になるとの認識から、戦場右翼に配置予定であった第72騎兵師団と第21弓兵師団を北地区へと配備、第21弓兵師団は壁内より壁外に攻撃できる唯一の部隊であるとの認識から北地区の外壁内側へと布陣させた。
ここで、遅まきながら要塞化された西門西側野営地の陣容とウェスバリア軍第2軍を阻む陣地の詳細を説明する。
最前列、馬防柵を互い違いに配置された前面に、土塁を作り、更に馬防柵後方にも土塁が配備され、土塁と土塁の間には油が馬防柵と地面を覆っている。
その馬防柵後方の土塁内側には、第13、18、25銃歩兵師団の将兵が隙間なく配置されており、この3個銃歩兵師団には各指揮官の判断で自由に発砲せよと司令官アンプロージョ少将は既に下命している。
第13、18、25銃歩兵師団の後方には、間隙を作ることなく第22重装歩兵師団が待機、敵の突破に備えた。
第22重装歩兵師団の後方には馬防柵と塹壕が2列構築されており、前衛に近い深く広い塹壕には油が流し込まれている。
その後方少し間隔をあけて、第19弓騎兵師団が馬を降り、その馬を後方へとつなぐと弓をいつでも射撃できるよう待機している。
更に後方には第12騎兵師団を14650名を、西側野営地が敵ウェスバリア軍第2軍の突破を許した場合の後退用戦力としてや南側の森を移動させ敵の側面を突ける場合の遊撃戦力として待機させた。
最後尾である西門手前には遠距離火力である第17魔導砲兵師団とアンプロージョ少将が直接指揮を執る司令部を設置、トレーナ南地区へと移動した第4軍総司令部、マリオ・ガリボルディ中将と連携を密にしウェスバリア軍の侵攻を待った。
これらは全てアンプロージョ少将子飼いの第4軍参謀ジュリオ・グラッツィアーニ大佐の計画であり、歩兵中心のウェスバリアにとって、まさに難攻不落の野営地と言っても過言では無かった。
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対するウェスバリア軍第2軍は、こちらも戦場は限定的な範囲であるとの見方から第2軍前衛に第3、7重装歩兵師団を配備、その後方に第2、17、18、21、22、24歩兵師団の6個歩兵師団が列をなして待機、両翼を第6、13弓兵師団がいつでも援護射撃を出来るが如く待機、最右翼森林部である南側を第11騎兵師団と第9騎兵師団が敵の遊撃に備えた。
その歩兵師団が列をなす後方、第2軍総司令部が設置されると、司令部を守る様に第81銃歩兵師団が無傷で待機、気持ち前方に出た銃歩兵師団であったが、トレーナ攻略戦においても非常時を除き、ウェスバリア軍第2軍において銃歩兵は何の意味も無くなった。
最後尾は、かなりの距離を開け、第72、73魔導砲兵旅団が砲陣地と射撃指揮所を設置、射撃準備を整えた。
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さて、南門に向かっていた5000名を超えるキスリング支隊であるが、クミアーナを越え、今から山岳地帯を抜けようかという所で、全ての明かりを外に漏らすことなく野営をしていた。
「マイトランド、攻撃のタイミングは本隊と合わせなくていいのか?」
「ああ、俺達だけでトレーナを攻略する。あの本隊は陽動だと思えばいい。一番働くはずの銃歩兵を司令部手前に下げているところを見ると、どうせ役には立たんだろうさ。トゥルニエ少将も頭を抱えていたよ。」
「だが、たかが五千の兵でどうやってあのトレーナを落とすんだ?お前も言っていたが敵は既にトレーナ市街にかなりの兵を配備しているぞ?」
「そこはちゃんと考えてある。各地区の門で食い止めるから大丈夫だ。お前はそろそろ軍本営に戻らなきゃマズイんじゃないのか?いったい何時までいるつもりだ?」
「まぁ気にするな。命令違反ではないからな。俺達も戦力に加えてくれ。」
「ああ、ありがとう。ならゲルマー少尉の指揮下に入ってくれ。」
マイトランドはロンベルト以下3名を、敵の第5重装騎兵師団の残存兵から奪い取った鎧を磨くヘルムート指揮下の中隊へと編入させた。
その後、山中で新たに砲陣地を多数構築するキスリング連隊1241名を指揮していたキスリング大佐。
トゥルニエ少将の好判断で新たに加わった騎兵2700名で構成されるシャンタル連隊を指揮するシャンタル大佐。
807名を数えるハーゼ大隊を指揮しトレーナに捕らわれていた帝国軍士官ヘルムート・ゲルマー少尉。
カルドナ王国を裏切った冒険者中隊を纏め、トレーナに最も詳しい帝国軍士官であり、密偵ディアナ・エデルトルート・フォン・アイケ少尉。
マイトランドはこれら全ての指揮官を支隊司令部へと召集すると、これからキスリング支隊のみで実行されるトレーナ攻略作戦の詳細を語った。
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