第165話 トレーナ攻略戦 前編 4
トレーナ攻略についての詳細の説明を終えたマイトランドは、ヘルムート率いるハーゼ大隊804名に磨き上げたカルドナ王国製の重装鎧を纏わせると、これに白兵戦に強いランズベルク、ロンベルト、ジェイク、ジョディーを1から4中隊までに編入、更に門突破時の後続の道案内としてディアナ、レフを加えると、顔が割れているヘルムート以下4名を各中隊長に変更、大隊指揮官はハーゼ少佐とし、810名の編成で現在地クミアーナ東側の山岳地帯より南東ノーネ村の街道を通るルートで、開戦の合図を待たずにトレーナ南門へと進発させた。
後続部隊となる、シャンタル大佐率いるシャンタル連隊2700騎はトレーナ、クミアーナを結ぶ直線上にあるブルイーノと呼ばれる街道交点付近の連隊が固まれば入るほどの小さな林にその身を伏せる。
当然のことながら敵カルドナ王国軍空戦隊による敵情偵察を警戒し、闇夜に紛れ部隊の移動を終えた後、即座に上空からの敵情偵察の目を欺くべく偽装林を構築、開戦までその位置を秘匿した。
カルドナ王国を事実上裏切った冒険者で構成された中隊は、トレーナ南地区が落ちるまでは、ディアナに変わり、ポエル、アツネイサ両名によるたどたどしい指揮の元、キスリング連隊が構築を完了した砲陣地と予備陣地を守るための警戒についた。
キスリング連隊の砲陣地であるが、主戦場とトレーナ南門もその射程内に収めるため、予備陣地の北限界をブルイーノ北西のトラーナ、東限界をノーネ北西のガローラに決め、各砲班ごとに砲陣地を構築終了していた。
一部進発した部隊を除き、キスリング支隊に存在する全部隊の準備が整ったところで、マイトランドはトゥルニエ少将へとキスリング支隊準備完了を報告、開戦の合図を待った。
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翌日である2月6日の朝日が昇り、トレーナ北門2キロの森林部からカール・グスタフ・ガーランド少将指揮する帝国軍第18軍団が2個師団をもってトレーナ北門攻撃の為前進を開始。
全ての歩兵の足並みが揃うのではないかと思われるほどに、統率のとれた一糸乱れぬ行動は、前衛3個猟兵連隊に挟まれた2個銃歩兵連隊である。
前衛部隊の両翼を1個竜騎兵連隊が2個大隊に分かれ進軍。
また前衛の後方には1個対空魔導大隊がつけ敵空戦隊へ睨みを利かせている。
その後方2個魔導砲兵連隊がいつでも射撃を開始できるが如く待機。
上空には空戦大隊が、大岩を飛龍に持たせ渦を巻いていた。
指揮官である第18軍団長ガーランド少将と第53師団長フランツ・シュトラウベ少将の位置する司令部は最後尾であった。
「帝国軍だ!帝国軍が来たぞー!」
「総員構え!!工作隊は順次攻撃を開始せよ!」
次々に上がる帝国軍発見の声、現場指揮官達は即座に臨戦態勢を取った。
帝国軍の出現した北側森林部からトレーナ北門までは一切の障害物がなく、カルドナ王国軍は統制のとれた帝国軍の全容を掴むのにさほど時間は必要なかった。
帝国軍の出現を目視したウェスバリア第2軍とも交戦経験あるはずの北地区壁上のカルドナ王国軍第16銃歩兵師団からは、幾人かの逃亡兵が出る程に規律正しい帝国軍の進軍は目にした者に畏怖の念を抱かせたのだろう。
帝国軍の動きを確認したウェスバリア第2軍第2軍団斥候が、第2軍総司令部へと伝令を飛ばすと、伝令の報を受けたツェッペリン大将は全軍に前進を命令、第2軍団においては帝国軍の邪魔をするなとだけ命令を受けた。
開戦の最初の攻撃は、射程内に入った北門壁上の工作部隊が、4つのトレビュシェットから大岩を帝国軍第18軍団に向け発射すると、これを中衛対空魔導大隊が前衛の位置よりもかなり前で全弾撃墜。
「あの様な旧石器時代の玩具で、こちらに損害を与えられるはずもない。国境で構えていたのが馬鹿らしくなるわい。各魔導砲兵連隊、空戦隊、あのうるさい攻城兵器を黙らせよ!対空大隊は空戦隊を援護せよ!」
ガーランド少将が通信機で直接下命すると、2個魔導砲兵連隊は即座に魔導砲撃を開始。遠距離であったが故、届かずと見て魔法障壁の間に合わなかった外壁上攻城兵器20個の内、7個が沈黙した。
この砲撃は例により魔力火球による砲撃であったため、壁上では木製の攻城兵器から二次災害である火災が発生、外壁上は大混乱に陥る。
そこに追い打ちをかける様に上空から、バリスタからの射撃をかいくぐり空戦大隊が侵入、大岩による攻撃で外壁上の攻城兵器に更なる損害を与えた。
「司令部、司令部、こちらは空戦隊第3飛行中隊、敵攻城兵器1の破壊を確認。なお壁内に敵影を多数確認した。敵の総数は不明なれど弓兵、騎兵それぞれ師団規模を確認。トレーナ外壁は高いが、着発でなく時限による魔導砲撃であれば壁内に損害は与えられると推測する。作戦終了につきこれより帰投する。」
時限による魔導砲撃とは、通常の目標物に当たった瞬間に威力を発揮するような着発式の魔導砲撃ではなく、予め爆発や飛散などの時間を決めておいた魔導砲撃のことである。
これは帝国軍のみが保有している技術で、威力は多少着発式に比べ劣るものの、拡散力は抜群であり、障壁による防御がしにくいのが利点である。
外壁上に到達し大岩を落とした空戦隊からの通信を受けたガーランド少将は、全軍の進軍を停止させると、空戦隊の進言通り、各魔導砲兵連隊に時限式による魔力火球の魔導砲撃を準備させると、対空警戒を厳にさせ各魔導砲兵連隊交代で3時間程の魔導砲撃を命令した。
イーグルアイのスキルにより、空から帝国軍第18軍団の動向を眺めていたマイトランドは、信頼出来る者以外には口外できないが、帝国軍の練成に練成を稼寝られた圧倒的射撃精度、ウェスバリア軍の半分ほどの射撃間隔、時限式という新しい射撃方法をその目で確認すると、書物や師からの教えで多少は理解していたものの、ウェスバリアの装備や技術力よりも、帝国軍の技術力や装備、練度に至るまでが10年先から20年先を進んでいること確信した。
トレーナ北門が帝国軍の圧倒的な戦力に押される一方で、帝国軍の進軍に合わせトレーナ西門西側野営地に進軍を開始したウェスバリア軍第2軍は、策もなく突撃を敢行する第2軍前衛である2個重装歩兵師団に、言うまでもなく大苦戦を強いられていた。
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