第30話 模擬戦 9
マイトランド達は、森林出口に到着すると、警戒に付いていたポエルを呼び、状況の確認をする。
「ポエル、状況を教えてくれ。」
「うん。重装騎兵が騎兵をやっつけてる感じ。まだ残ってるけど、もう最後の1人か2人。重装騎兵は損害ないと思う。」
「そうか、ポエルとアダムスは警戒をそのまま続行してくれ。重装騎兵が通り過ぎたのが確認できたら、装備の回収を頼む。他の者は兜を被ったら行くぞ!フレデリカ、ここからは指揮を代ってくれ。作戦通りに頼む。」
ポエルは二度マイトランドに頷くと、警戒場所まで戻って行った。
フレデリカはポエルが見えなったのを確認し、部隊の先頭に立ち声を上げる。
「私に続け!」
そう部隊に命令を下すと、内方の拳を握り、常歩で前進し、兜を着用した残り19騎もそれに続いた。
フレデリカに差を開けず、ぴたりと追走するマイトランドの気配察知に、指示をされながら前進する一行は、貴族1班を遠目に捉えるまでに、そう時間はかからなかった。
フレデリカは作戦通り、貴族1班に自分の部隊の全てを見せるため、高台になっている場所まで移動すると、自らの部隊全員の姿が捉えられる様、一列横隊になるよう指示を出した。
新貴族2班と思しき班を壊滅に至らしめた、貴族1班は当然このフレデリカ達の部隊を目視により確認する。
敵の視線を確認すると、フレデリカは、貴族1班に捕捉されるのを確認すると、わざと大声で命令した。
「撤退!撤退!逃げるぞ!」
フレデリカ達はお互いの馬をぶつけるなど、馬に乗れない様子をアピールすると、頭を元いた方角へ向ける。
それを見た貴族1班の巨大なランスを持った男が声を上げる。
「フリオニール様!もう一隊獲物が自らやって来ましたよ!チャリオットが無いところを見ると、アレクシスの部隊でしょう。こちらに損害はありません。このままヤツらを追いましょう。」
フリオニールと呼ばれた男がこれに反応する。
「よし、クリスト!前衛は卿が4名率い、中央は私、両翼はロンベルト、アーシュライトが固め追撃する。ロンベルト、1名は斥候に出せ。」
これにクリストと呼ばれた男が、ランスをフレデリカ達に向け答える。
「フリオニール様、ご覧ください。数えました所、敵は20名全員で来ております。斥候は必要ないかと。」
「戦闘直後の隊列が整っていない我々を攻撃してこないところを見ると、なにやら匂う。クリスト、前衛を任せるぞ!慎重に行動せよ!」
「ははっ」
戦場であれば、基本的にどの戦場にあっても、斥候は出す必要がある。敵の規模が不明であったり、待ち伏せ、増援などが予測されるからである。だがこの場合、フリオニールの貴族1班が、フレデリカ班を除いて全滅させた以上、残る新貴族班はフレデリカ達20名になる。したがって斥候を出す必要がない。このように通常であればクリストの言は正しい。
クリストは馬を出し、前進を開始する。
フレデリカは、貴族1班の進軍を合図に撤退を開始する。
「2人には殿を頼む!」
フレデリカの命令に、無言のマイトランドと、ランズベルクを後ろに下がらせ、全速力で離脱する。
全速力と言っても、馬術のスキルがある物が少ないので、当然貴族1班の2/3程のペースでの撤退となる。
フレデリカ達と距離を開けながら、撤退するマイトランドとランズベルクは、うまく貴族1班との距離を保てるよう、お互いのスキルを利用し、妨害をしながら森へと向かう。
そうして、2人以外の全ての騎兵が、森へと侵入できる距離まで来ると、妨害をせず徐々に迫るクリスト達の到達を待った。
クリストは馬の速度を少し落とすと、フリオニールに向かって進言する。
「フリオニール様!敵先頭集団と、後続との差が開いております。捉えられそうですが、いかがいたしましょうか。」
クリストは前衛、先方を任されるだけあり、状況判断は的確である。
フリオニールはクリストを信頼しているのか、
「クリストお前に任せる。もう森林地域だ、分が悪くなることもあるだろう。私の見えない距離までは先行するな。くれぐれも深追いはするなよ。」
「はは、お任せください。」
そう言うと、前衛5名の速度を上げ、マイトランドとランズベルクに迫る。
「もう少しだ!このまま一気に捉えるぞ!」
あともう少しで、マイトランド達2騎をランスで串刺しにできるという距離まで迫ると、クリスト以下前衛重装騎兵5騎は絶叫することとなる。
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