第99話 帝国軍諜報部 2
「私は諜報活動と、捕虜の救出を任務としている。冒険者であれば疑われることもないだろう?お前はどうなんだ。ラッセル。」
「俺か?ウェスバリア第2軍がこの街を落とすからな。事前調査だ。」
「ウェスバリアがか?馬鹿なことを言うんじゃない。国力が違い過ぎる。無理だろう。イスペリアでの事を忘れたのか!本当は何のためだ?」
「だから、トレーナ攻略のためだ。既に攻勢計画は総司令官の認可はおりている。」
「兵の数は?攻城兵器はどれくらいだ?」
「攻城兵器はない。計画では前線は17個師団、2個旅団。将兵合わせて約40万が参加する。トレーナの軍備はどういった状況だ?」
マイトランドの返答に、ウェスバリアの攻勢計画が事実であると、認識すると、ディアナはトレーナ守備隊、さらにはトレーナ方面、カルドナ王国軍第4軍の全容を語った。
トレーナ方面、第4軍は軍団数7個軍団、将兵合わせて約15万である。ただし、その内3個軍団は予備役で構成されている。
トレーナ東地区に急遽建設された建物が司令部であり、その司令部を守備するのはトレーナ守備隊。トレーナ守備隊は、駐屯部隊である第34歩兵連隊、ジャッカルの指揮する第107軽騎兵連隊を中心に構成された1個師団を含める第10軍団で、指揮官アンブロージョ少将が防衛を担当している。
またトレーナ北門城壁にはトレビュシェッとが10、カタパルトが8、バリスタが10備え付けられており、その守りは強固である。
また、トレーナ西に野営地があり、そこには常にウェスバリアに対し3個軍団が待機している。
北側には防衛部隊はいないものの、帝国軍18軍団の正面にはカルドナ王国軍第3軍第12軍団と、精鋭である第8銃歩兵師団がピタリと張り付き、その動向を伺っている。また東側野営地に第4軍残りの予備役を中心に構成された3個軍団が駐留しており、いつでも増援に駆けつけられるといった具合だ。
マイトランドは、ディアナの説明を精査すると尋ねた。
「ということは、つまりウェスバリアが攻めてくる際は西側の3個軍団で野戦に打って出るという事か?」
「いや、東側からもすぐに増援が来るだろう。」
ディアナは、マイトランドの問いに頷きながら答えるとさらに続けた。
「それにカルドナ王国軍は、間違いなく野戦に打って出るだろう。」
「なぜ言い切れる?カルドナは数では負けているんだぞ?籠城するのが普通じゃないか?」
「いや、兵器の差、兵の質、士気ともにカルドナが上回っている。もっともトレーナ平原で展開できる地域が限られている以上、いくら数で押そうともウェスバリアの不利は確定したようなものだ。野戦に打って出ない理由はないだろう?」
ディアナの考察はマイトランドの考察とほぼ一致していた。理由はトレーナ北側の河がある為である。
北側の河は東西へと流れており、いくら浅いと言えど、部隊が展開できるスペースはない。したがって、展開した戦線正面は歩兵師団が4個師団程入れば埋まってしまう。つまり、いくら兵数がいたところで、戦線正面は同数での戦いになる。質が伴わない以上、ウェスバリア軍は常に押される状況に陥ることは自明の理である。
「ディアナ。命を助けてやったんだ。帝国軍の大規模侵攻の噂を冒険者中に流せるか?」
「流せないこともないが、どのみち嘘だと気付かれるぞ?」
「ああ、それでいい。頼まれてくれるか?」
「頼まれてやってもいいが条件がある。お前が条件を飲めるなら流そう。」
ディアナの提案した条件とは、帝国軍捕虜4名の救出であった。マイトランドはどうせ助けるつもりだっと、二つ返事で了承した。ただし、トレーナ陥落までその4名を自分の部下として使っていいという条件を付けて。
もちろんディアナはその条件を承諾した。
「では捕虜奪還はいつ決行する?」
「まあそう急ぐな。街も少し確認したいし、俺はジャッカルの情報も欲しい。」
マイトランドがそう訴えると、ディアナは仲間の危険性を考え、惜しみなくジャッカルについて知りえる情報を話した。
通称ジャッカル、第107騎兵連隊連隊長エットーレパスクッチ。階級は大佐。軍とは別に国王直属である暗殺及び治安維持組織、中央治安作戦部隊に所属。数年前当時大尉であったジャッカルはイスペリア内戦に義勇軍として送り込まれ、ウェスバリア将軍の暗殺により手柄を立てると、一気に少佐に昇進、その後、先のウェスバリアネイ軍団壊滅の功績により中佐に昇進した。そこから大佐にまで昇進したことを考えると、先のウェスバリア新第1軍団消滅に何か関わっている可能性が高いと推測される。ジャッカルと言うのはその見た目から来た愛称である。
「ジャッカルの情報はわかった。少し寝た後で、街を案内してくれるか?脱出経路の確認と、兵士としての登録もしておきたい。」
「わかった。登録するのであれば、ファルンガルランドについても少し話しておくべきだな。」
ディアナはファルンガルランドについての地名、民族性などを語ると、眠そうに聞いていたマイトランドに、寝具を渡しそのまま眠りにつかせた。
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