第3話 プロローグ 2
1週間後。
マイトランドは、空の水袋と残った食料を鞄に入れると、ランズベルクとの待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所に到着すると、ランズベルクが先に待っており、マイトランドに気付くと手を振り、声をかける。
「よぉ!遅かったな。配給所のオヤジから俺達の分4日分もらってきてやったぜ。後はモンスターを狩るとかして食いつなぐごうぜ。」
「よく4日分ももらって来たな。まさかとは思うが、盗んできたんじゃないだろうな?」
「あぁ、昨日ホーンラビットを捕まえただろ?あの角をそのまま配給所のオヤジにくれてやったんだ。盗むもんかよ。そろそろ行こうぜ!」
2人の話すホーンラビットは、通常武術や魔法の心得の無い村人にとっては、危険なモンスターである。その角は大人であっても体を容易に貫通するほどの硬度を持ち、動きが素早い。やっかいなことに、ちょこまかと動き回り、太い後ろ脚の脚力を生かした突進をする。
だが、この2人にかかれば魚を釣るより簡単である。マイトランドがホーンラビットの進行方向に罠を作り、ランズベルクが風魔法で誘導し罠により仕留めると言う寸法だ。狩りに関しては絶妙なコンビと言えよう。
2人は互いの荷物を確認し、ランズベルクがスピードを上げる魔法をかけると出発する。
「エアリアルブースト!」
スピードを上げると言っても所詮は徒歩だ、疲れも来るし、魔力も尽きる。ランズベルクの提案で、少し進んだところにある川で休憩を取る。
マイトランドは、その川で水袋に水を入れると、ランズベルクに口を開く。
「俺の予想だと、このまま真っ直ぐ行けば、必ず国境にいる軍と鉢合わせになる。あれを使うか。」
ランズベルクに風魔法というスキルがあるように、マイトランドにもスキルがある。
マイトランドは静かに目を閉じると、深く息をする。
「イーグルアイ!」
マイトランドが、目を閉じたまま叫ぶと、マイトランドの前に水色に光る鳥が現れた。
その鳥は出現すると、すぐに2人の上空に飛び去った。
しばらくして、マイトランドが目を開けるとランズベルクに言う。
「お前の風魔法を使ったとして、ここから北に半日ほどの所に、軍がいた。ウェスバリア軍だ。それもかなり大勢だ。正確にはわからないけど、10万以上はいる様に見えたな。煙の感じから横展開してるから、このまま行くとなると軍の間を抜けることになる。俺達は軍人でもなければ、軍属でもない。軍の間を抜ける事はできないし、迂回するしかないな。」
「さすがマイトランドだぜ!お前に任せとけばイスペリア軍の位置までわかりそうだな!」
イーグルアイ、マイトランド自らが想像した鳥の姿を借り、その視点を自分の視点として見ることができるスキルである。
「それもそうか、敵と味方の位置さえ分かったら安全に戦場を観察できるな。」
「そうだな。で?どこを通るんだ?」
「そうだな、一度東に向かって、海に出よう。海に出て海沿いの道を行くとするか。この辺りの海側には、大規模な軍が通れる道はない。それに、ここまで大規模な軍なら、当然敵にも捕捉されているだろ。国境で戦闘がないとすると、俺がイスペリアなら補給の限界が来たところで、自分たちに有利な条件、地形で戦うからな。ゼーテ、タラゴー二、ロベルナの様な平野辺りまで大きな戦闘はないだろう。」
イスペリア共和国が内戦に突入する前までは、行商人の交流があったため、国境監視もゆるく、マイトランドとランズベルクは、事あるごとにイスペリア領内に狩や冒険をしに来ていた。
特にマイトランドはそのスキルの性質上、イスペリア共和国北東部の地理には詳しかった。
詳細と考察を説明するマイトランドにランズベルクは口を開く。
「お前やっぱりすげぇな。本当に俺と同じ年とは思えないぜ。」
マイトランドは少し照れると、
「馬鹿だな。お前がいるからできるんだよ。お前の魔法がなきゃ、俺だって一人じゃ何もできないんだから。頼りにしてるぜ。相棒。」
「何言ってんだ。恥ずかしいじゃねぇか。俺はいつもお前の作戦頼みなんだからな。相棒」
微笑ましい瞬間であった。子供であっても、男2人が一緒にいて相棒と呼びお互いを頼りにする。無二の親友、竹馬の友、そんな言葉がしっくりくる2人であった。
2人は進路を東へ向けると海に向かって歩いた。後3日ほどで新年を迎えようとしていた時の事である。
――
歩き始めて4日、ようやく海が見えてきた。その間、新年を迎えたことなど二人はお構いなし、途中モンスターを狩るなどして、食料を現地調達していた。
2人で勝てそうもないモンスターを見かけた場合にはランズベルクの風魔法で自身の位置を秘匿しやり過ごしていた。
「海だ!海!マイトランド!海が見えたぞ!」
海を見てはしゃぐランズベルクに、マイトランドが言う。
「あぁ、でも海には用はないんだ。遊ばないぞ?」
「あぁ、わかってるよ。わかってるけど・・・。あぁもう!」
オルメアの言葉から、開けた国境で戦闘があると思い違いをしていた。したがって当初1週間の予定であったのだ。先を急がない訳にはいかない。
「ここからは少し急ぐぞ?軍の移動速度から考えれば、俺達は迂回した分、7日ほど遅れている。今時間はかけたくない。」
海までの経路の途中、マイトランドはイーグルアイで何度も軍の場所を確認していた。
自分達が今どこにいるのか、軍からどれだけ遅れているか、まだ戦闘に入っていないか、気になって仕方がなかったからである。
「「さて、行くか。」」
2人ほぼ同時に声を出すと、海を横目にまた山道に入って行く。
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