第4話 プロローグ 3
2人が海を見てから1ヶ月が経とうとしていた。
「なぁマイトランドよぉ。臭い肉や葉っぱ以外に食べ物ないか?」
「俺も食いたいと思っていたところだ。芋が食べたいな。」
2人はここの所、レッドボアと草以外食べていない。レッドボアとは猪に似たモンスターで猪よりも一回りから二回り大きい、赤く臭みのある肉が特徴である。肉は戦う男の為の料理であり食欲を刺激する。
だが育ちざかりの子供には芋や小麦の様な炭水化物が必要だ。
「芋かぁ、もう何日も食ってないな。イスペリアはウェスバリアより金持ちな国だったよな?街に着けば芋ぐらい食わせてくれるかな?」
「お前、昨日から芋の話ばっかりだな。ゼーテあたりなら恵んでくれそうだけどな。」
正常な思考とは、やはり脳に糖が回っていないとできないのであろう。
2人の間に戦争の話はめっきりなくなっていた。正常な思考で考えるなら前線近くの村は疎開が始まっているはずだ、人なんているわけがない。むしろ食べ放題だろう。
それからまた3日が過ぎると、2人はタラゴーニの村に到着した。
やはり村には人はおらず、2人は村の畑に植えてあった芋で腹を満たす。
脳に糖分が行き渡り、正常な思考が出来るようになったのか、ランズベルクがマイトランドに久しぶりに炭水化物で満たされた腹をさすりながら問いかける。
「マイトランド、ここからどうする?人がいないってことは、ここはもう戦地になる可能性があるってことだろ?」
マイトランドは山の上を指差し、ランズベルクに答える。
「あそこに建物があるのがわかるか?あそこに行こう、あの山の上はゼーテからタラゴー二にかけての平野が見渡せる。地理上どちらの軍もあの山を陣地にすることはないと思うぞ。」
「なんでだ?俺達が見渡せるってことは敵も味方も見渡したいんじゃないのか?もしも敵が来たら危なくないか?」
「うん、そうだな。でももっと高くて近い陣地があるだろ?平野から離れたあの山じゃなくていいんじゃないかな?それにもしもの時はランズベルクの風魔法があるだろ?」
「それもそうだな。まぁお前に任せとけば間違いないな。」
ランズベルクはマイトランドに確認すると、二人は食料を村のいたるところで拝借し鞄に詰め込んだ。
水と食料の確保が終わると山に向かった。
建物に着くと、ランズベルクがマイトランドに尋ねる。
「マイトランド、どこに軍がいるんだ?」
「あぁ、まだ来ていないな。あの行軍速度ならあと5、6日はかかりそうだな。小規模な戦闘もおきているし、もうちょっと遅い感じもする。」
マイトランドの予測は正しかった。軍の行軍スピードとは軍の中で最遅い部隊の、練度で決まると言っていい。故にウェスバリア軍は、歩みの遅い歩兵軍団を基準とし行軍をする。通常歩兵軍団は、1日12km前後の行軍速度しか持たない。
タラゴー二の平原北に先遣隊のウェスタリア騎兵が姿を見せたのはマイトランドの予測通り6日後。
「ちょっと想定よりも遅かったな。」
ウェスバリア軍本軍が到着したのはそこから3日経ってからだった。
ウェスバリア軍は、小高い丘の頂上に位置するゼーテの村に陣地を構築すると、各方面に斥候と思われる騎兵を散開させた。
「しっかしすげぇ数だな。」
ランズベルクの言葉にマイトランドはただ頷いた。
事実、遠目から見てもわかる全36個師団2個旅団の陣地は、村一つでは収まりきらず、丘全体に陣地を構築しているようにも思えた。
「マイトランドぉ、イスペリア軍はどこにいるんだ?」
「あぁ、さっきイーグルアイで確認したよ。ここから南へ半日くらいの山の中だな。」
「数は?同じくらいなのか?」
「いや、1/3程度じゃないか?何もなければウェスバリア軍が勝つな。」
次の日になると、タラゴー二の平原の南にイスペリア共和国軍が到着した。イスペリア共和国共和派は西にも革命派との戦線を維持しており、この時共和派がウェスバリア戦線に割ける最大限の兵力13個師団を送り込んできていた。
当初、ウェスバリア軍第1軍司令フランコ・アレクシス将軍は、敵の数が自軍の1/3であることから伏兵の存在を考えた。これに対し、首席参謀ラーム・ソルダーノ将軍、次席参謀オルメア・トランガ将軍の両名は、イスペリア軍の陣地構築が終わる前に全軍での突撃を訴えたが、これを軍司令に却下され、両軍のにらみ合いとなった。
「なぁ、マイトランド、なんでどっちも動かないんだ?もう2日だぜ?」
そうランズベルクが尋ねると、嬉々としてマイトランドは答えた。
「動かないんじゃない。動けないんだろう。これはあくまでも俺の予測だが、ウェスバリア側は伏兵の存在を疑っている。それに対してイスペリア側は正面切って戦えば、数的不利で負ける。にらみ合いは続くんじゃないか?」
しかし、その日の深夜にマイトランドの予想に反し、事態は急変することとなる。
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