第133話 トレーナ会戦 中編 4

 1月6日未明、クロワザ少将、ギルマン中将の第19騎兵師団と第36騎兵師団は、闇夜に紛れ、味方の死体が散乱するチェニスキー河上流を、シャプケ中佐の進言通り渡河を完了すると、第37騎兵師団が攻撃を受けたとする、敵陣地北側の森全面に索敵部隊を放った。


「中佐、闇夜に紛れ敵の陣地に攻撃してはどうか?」


「閣下。それでは本隊との同時攻撃になりません。夜が明けてから攻撃を仕掛けるのがよろしいかと。」


 事態はシャプケ中佐の思い通りに進んでいたかと思われたが、同じ時、敵カルドナ王国軍第125混成団は正面の河の渡河準備を完了。第2軍団主力の後方に回り込んだ、同王国軍第8銃歩兵師団と連携して闇夜に乗じ渡河を開始していた。


 夜が明けしばらくすると、クロワザ少将は、森に潜んでいた師団に号令を発した。


「各連隊、突撃を開始せよ!敵を一兵たりとも逃がすな!」


「「「突撃!」」」


 各連隊長の指揮の元、突撃を開始する第19騎兵師団。師団先頭に立つのは作戦の立案者シャプケ中佐であった。


 森から敵陣地まで少し距離があったため、長い距離を襲歩するが、その途中で先頭のシャプケ中佐は異変に気付いた。


 そう、想定していた敵の反撃が無かった為である。


「閣下!敵がおりません!私は河を見て参ります!」


 シャプケ中佐は師団先頭から退くと、その足をチェニスキー河へと向けた。


 ---


「閣下!敵です!」


「何?どこからだ?」


「軍団の後背1個師団、河を渡河した敵部隊約2個師団!戦闘第91騎兵連隊は総崩れ!」


 渡河した部隊が敵陣地を急襲したのに合わせ渡河する予定であった、ヴェルティエ中将率いる第2軍団は大混乱に陥っていた。


「撃て撃てー!全軍弾が無くなるまで撃ち尽くせ!」


 号令をかけるのは先の帝国軍との戦闘で1個連隊を失った、カルドナ王国軍第8銃歩兵師団師団長デ・ボーノ少将である。

 

 第125混成団が河西岸から、第8銃歩兵師団が後背から大量の弾丸と共に襲い掛かる。

 これにヴェルティエ中将は渡河したであろう、第19騎兵師団、第36騎兵師団との合流を図るため、正面の第125混成団に突撃を命令した。


「突撃!突撃!突破し、そのまま渡河、河を渡り終えたら味方2個師団と合流せよ!」


 そう命令すると、自身は護衛と共に部隊中央に下がった。

 主力先頭であった、重装騎兵で編成された第29騎兵師団は、弾や矢を弾きながら、やぶれかぶれで突撃を敢行、その先頭であった第91騎兵連隊の損害も併せ師団の1/3の兵力を失いながら、半日後河西岸へと到達した。

 殿軍である第37騎兵師団は、その指揮官シャラン少将を狙撃されると、統制力が低下。師団は恐慌状態に陥り壊走。師団を構成する兵力の内半数が逃亡、戦死した。


 カルドナ王国軍第125混成団は、第8銃歩兵師団と合流する。


「これより反転。敵軍団を掃討する!」


 ジョヴァンニ・メッセ少将は、勝利の味を占め、それが確信に変わると、全軍に号令をかける。しかし、第8銃歩兵師団陣地大隊よりの伝令が、ジュリオ・デ・ボーノ少将に急報を告げ、メッセ少将の号令を妨げた。


「敵第18軍団大挙襲来。我が大隊、増援1個騎兵師団は現在交戦中!」


「ここで敵を撃破後、すぐに戻る!」


 デ・ボーノ少将の導き出した答えは、まず交戦中の敵を撃破後、反転師団陣地に戻るというものだった。

 第125混成団は反転を終え、第8銃歩兵師団と共に、前面に歩兵、銃歩兵連隊と配置を変えると、全軍に前進の号令を告げた。


「全軍前進せよ!」


 ---


 この半日ほど前、帝国軍第18軍団は、敵師団陣地を視認、半包囲すると、ガーランド少将が全軍に命令を出した。


「各銃歩兵連隊が斉射の後、各猟兵連隊はそれと共に、各個射撃しつつ前進、魔導砲兵連隊はそれに合わせて猟兵連隊の前進を援護、竜騎兵、対空、空戦各隊は別命あるまで待機せよ。各銃歩兵連隊斉射用意!」


 ガーランドの少将の命令が05型魔導通信具により行き渡ると、各銃歩兵連隊は命令通り、銃に弾を込めた。


「銃歩兵連隊、用意よし!」


 ガーランドは報告を受けると、右手を天高く掲げると、それを敵の方向に振り降ろしながら号令した。


「斉射!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る