第167話 トレーナ攻略戦 前編 6
「お味方前衛第3と第7重装歩兵師団、2個連隊壊滅、現在第3陣第7重装歩兵連隊が第3派攻撃中。既に半数が壊滅したとの報告です!」
報告を受けた総司令部ツェッペリン大将は、戦闘工兵部隊を有するオートゥイユ中将旗下の第22歩兵師団に、土塁を魔力により掘削し前衛重装歩兵の活路を開くように下命。同時に現在恐慌状態にある第7重装歩兵連隊の救出も命令した。
その上で工兵部隊の作業の援護を円滑に進められるべく、両翼の第6、13弓兵師団へと作業終了までの援護射撃を命じると、第72、73魔導砲兵連隊の砲列を前進させ、第72魔導砲兵旅団には、魔法障壁による敵魔導砲弾からの防御、第73魔導砲兵旅団には一斉射撃を封ずるべく、破砕射撃を実施させた。
前衛へ到着した第22歩兵師団の戦闘工兵隊を自ら率いるオートゥイユ中将は、兜を脱ぎ捨て、自慢のスキンヘッドを露わにし周囲の視線を集めると、最も味方部隊の集中している部分に向けその太い両腕を両手を広げ魔力を集中、探索魔法により土塁の中に埋設されているであろう爆発物の確認した。
「大丈夫だ。掘削するぞ!」
オートゥイユ中将が土塁に爆発物なしと判断すると、ラウンドシールドを両手に二枚構えた同師団の兵士がオートゥイユ中将の両側に付き添い、魔力を込めながら掘削する中将の歩幅に会わせながら共に前進。掘削に集中する中将に変わり対空と前方の防御に徹した。
しかしながらその鉄壁の防御も空しく、敵による射撃は終始一発も無く、土塁の掘削を終えると既に鎮火した油の跡を渡ると、各々のタワーシールドでお互いがお互いを庇いあっていた第7重装歩兵連隊残存兵1620名を衛生兵と共に救出に成功した。
この救出された将兵の約7割が全身に火傷を負っており、連隊としての作戦の継続は困難と認められ、全員が後方にある支援連隊の設営した野戦病院へと担ぎ込まれた。
この第7重装歩兵連隊救出の報に、師団長であるヴェルドナット中将は何故か嬉々として野戦病院へと駆けつけるが、救出された将兵を労うでなく、何より先にドゥミ大佐の安否を確認した。
「ドゥミ大佐!ドゥミ大佐はどこか!」
終始ドゥミ大佐の所在を確認しながら、大声で幕僚と共に負傷兵の中を歩き回るヴェルドナット中将に、第7重装歩兵連隊副連隊長、次席指揮官であるシモン中佐がその進路を阻むため、体を起こし火傷と銃創だらけの体を引きずりながら前へと進み出た。
「閣下。小官は第7重装歩兵連隊副連隊長シモン中佐と申します。」
「おう、そうか。だが俺は貴様に用はない。ドゥミ大佐はどこか?ドゥミ大佐にこの度の責任を取らさねばならんからな!」
例え失敗した任務であろうとも、死と孤独というとんでもない戦場から部下を連れ戻って来たのだ。労いの言葉や傷を労わる言葉が一つでもあれば、シモン中佐も部下の手前、まだ納得出来であろう。しかし目の前にいる師団の最高責任者から出た言葉は、シモン中佐の思考の範疇を越えた、責任を押し付けるという言葉であった。
「閣下。ドゥミ大佐は閣下へのお詫びを口にしながら、救出された直後、責任を取って自決されました。」
口内から出血しているのか、シモン中佐がそう言いながら吐血すると、その血の拭う制服の袖に目を移し引きつった顔でヴェルドナット中将は返答した。
「そうか。ドゥミ大佐は自決しおったか。必ず突破すると豪語しておったのに。死んでからも迷惑をかけおって。貴様もその様な傷早々に治療し戦列へ復帰せよ。戦争はまだ始まったばかりである!」
「下衆が・・・。」
「貴様、部下を労う上官に対してなんたる口の利きようか・・・。軍法会議にかけ・・・。ん!?」
まさに下衆と言う言葉がぴたりと当てはまる男である。ヴェルドナット中将が投げかけた言葉に、シモン中佐は戦力の逐次投入の責任は師団長にあるなど言いたいことは山ほどあったが、下衆と一言言い残し、鎮痛剤の影響か、出血の影響か目の前が真っ暗になるのを感じ、その場に倒れ込むと意識不明となった。
このやり取りからだろうか、シモン中佐は第7重装歩兵連隊と共に、部下の傷が治った後もこの戦場に戻らせることは無かった。
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第22歩兵師団の戦闘工兵は、第7重装歩兵連隊の救出後、後方土塁10カ所に掘削を計画すると、敵陣へと貫通させる前衛重装歩兵の侵入口を完成させた。オートゥイユ中将は自身も含め、この侵入口の設営で戦闘工兵部隊にかなりの犠牲は覚悟していたものの、ここでもまた敵の抵抗は全く見られず、第3、7重装歩兵師団は土塁にぽかりと開いた全ての口を挟むように展開した。
戦闘開始時4個連隊編成であった第7重装歩兵師団は、残り半数になった2個連隊を敵野営地東側土塁に配置、中央と西側を第3重装歩兵連隊へと任せると、各連隊長と幕僚を第3重装歩兵師団、第7重装歩兵師団合同の前衛司令部へと召集した。
前衛司令部は、土塁頂と、戦闘工兵が開けた土塁の穴からの見える範囲での敵情報告を待って、2個師団の師団長、幕僚をもって新たな攻勢計画を立案する為である。
敵情報告によると、敵陣地500メートルほどに敵の馬防柵と塹壕が確認でき、塹壕の中には数名の敵兵の頭が確認できる。その後方は馬防柵その後方に師団規模の弓兵だけが確認できたという事であった。
しかしながら実際は馬防柵と塹壕は2列あり、前列の塹壕は深く広い。
この事を予想してか、2個師団の師団長、幕僚は新たな前衛攻勢計画として、夜明けを待って2個師団全ての戦力をもって、敵の銃歩兵による銃撃を盾に角度をつけ弾きながら前進、同時に既に奪取してある土塁間に弓兵師団と魔導砲兵旅団を前進させ、敵の弓兵部隊を叩きつつ人海戦術にて塹壕を奪取、と言う計画を立案これを第2軍総司令部へと提案した。
これに対し第2軍総司令部幕僚は、敵銃歩兵はトレーナ会戦時の4個師団と見積もっていたため、敵の約半数と言う数的劣勢から、重装歩兵2個師団では塹壕の奪取は不可能と判断し却下。
この却下の判断に第2軍総司令官であるツェッペリン大将は不満を抱く。味方の数的劣勢であれば、同数以上に味方前衛を増員せよとの指示で、第2軍前衛司令部の作戦を許可。
第3、7重装歩兵師団の持ち場を中央に寄せると、新たに東側最右翼ヴァルター・フォン・シュライヒ中将旗下の第2歩兵師団とシメオン=ロジェ・ド・デイブレル中将率いる第21歩兵師団、河側最左翼にジャン=クリストフ・ド・ブランシャール中将指揮下の第18歩兵師団をもって前衛を増強すると、両翼を固める3個歩兵師団の土塁到着を待って、溢れんばかりの将兵で大混雑となった前衛司令部に作戦開始を告げた。
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