第131話 トレーナ会戦 中編 2

「閣下、我が隊の斥候によると、敵は縦隊陣形にてブッソレノ台を通過、兵力は11個師団、15万と推定します。うち半分は銃歩兵師団とのこと。あと5日ほどでバルバッキネアの窪地に到達する見込みでありますが、敵の進軍速度を鑑みるに、バルバッキネアの窪地よりは少し進んだウルクスの平地であれば、こちらの横隊陣形を維持しつつ戦えるのではないでしょうか。」


 トゥルニエ少将が報告、進言すると、第2軍司令官ツェッペリン大将は首をかしげる。


「少将、また部下を犠牲にしたのか?これまでに貴官の部隊はどれほどの損害が出ているのか?」


「先の偵察行動で8名、合計できっかり800名程になりました。ですが、ここまで敵の詳細が分っているのです。これ以上出ることもありますまい。」


「そうか、決戦も近い。あまり兵を酷使せんでくれよ。」


「はっ。承知致しました。」


 トゥルニエ少将が返事をすると、ツェッペリン大将は、第2軍最左翼に位置する、第9騎兵師団師団長トリスタン・ド・シャルパンティエ少将を呼び出した。


「シャルパンティエ少将、第2軍団に伝令を出し、状況を確認してくれるか?チェニスキー河東岸に到達、と連絡が来てから何も報告がなくてな。」


「心得ました。」


 シャルパンティエ少将は直ちに師団司令部に帰還すると、伝令を第2軍団へと向かわせた。


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 1月4日未明、戦闘準備を終えた、帝国軍第18軍団は、司令官ガーランド少将指揮の元、目標をカルドナ王国軍第12軍団と定め、砦を出ると南東方向に向け進出を開始した。


 先鋒は第53師団、指揮官フランツ・シュトラウベ少将。1個猟兵連隊、1個魔導砲兵連隊、1個竜騎兵連隊、1個銃歩兵連隊、1個対空魔導大隊、1個後方支援連隊を含み、将兵合わせて19125名。


 続いて、第18師団、総司令官カール・グスタフ・ガーランド少将。2個猟兵連隊、1個魔導砲兵連隊、1個銃歩兵連隊、1個空戦大隊、1個後方支援連隊を含み、将兵合わせて19560名。


 最後尾、第30師団、指揮官オットー・ヴィクトル・アイゼナハ少将。1個猟兵連隊、1個魔導砲兵連隊、2個銃歩兵連隊、1個対空魔導大隊、1個後方支援連隊を含み、将兵合わせて18960名。


 帝国軍第18軍団総勢5万7645名は、まだ明けぬ闇夜にまぎれ砦南東のアオスタの森へと姿を消した。


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 カルドナ王国軍第8銃歩兵師団、師団長デ・ボーノ少将は、この日も森をひたすら南下、パラディーソ台に上がる先遣隊が、闇の中野営中のウェスバリア軍第2軍第2軍団を眼下に捉えていた。


「敵の最後尾はどの辺りか?」


「はい。敵の最後尾は、ここより1日ほど南西の窪地に陣取っております。」


「作戦通り、敵に見つからずに後背に回り込めるか?」


「はい。敵の師団が引きましたので迂回は可能であります。」


 この先遣隊斥候の言葉に、第8銃歩兵師団は従来の作戦通り、迂回し後背に回り込むことになった。


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 ウェスバリア第2軍、第2軍団の別働隊である、第37騎兵師団シャラン少将は、敗残兵をその2割強の部隊を失い、第2軍団司令部へと戻ってきた。

 司令部へ入ると、シャラン少将は、ヴェルティエ中将の前に跪き懇願した。


「閣下、お恥ずかしながら河中に敵の襲撃を受け兵の2割を失いました。どうか増援を頂けませでしょうか。」


「なに?赤く染まった河は味方の兵の血だったという事か?」


「はい。指揮官である小官の不徳の致すところでございます。」


「うむ。貴官で無理であれば、ここにいる何人が完遂できようか!」


 ヴェルティエ中将は、シャラン少将をいたわると、その増援に答える形で、クロワザ少将、ギルマン中将に厳命した。


「ギルマン中将、クロワザ少将の両名は日の出と共に北上、いかなる犠牲を払ってでも渡河のち敵の陣地を攻略せよ!」


「「ははっ。」」


 クロワザ少将と、ギルマン中将は答えた後に顔を見合わせると、司令部を後にし、出撃準備にかかった。

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