第132話 トレーナ会戦 中編 3

「少佐、貴官言う通り、今回はギルマン中将と示し合せ、ヴェルティエ中将の命令を受けたが、よかったのだろうか?」


「はい、敵は前回の敗戦から二度目の渡河は無いと、高を括っているでしょう。したがって闇夜にまぎれ渡河すれば、こちらの損害なしに渡河、敵の側面をつけるでしょう。」


「そういうものなのか?ヴェルティエ中将の人となりが分かれば、増援だと私は思うがな。」


「ヴェルティエ中将は感情の赴くままに采配を振るいます。したがって敵将は定石で判断することは厳しいでしょう。」


 クロワザ少将とシャプケ中佐の、1月4日夕刻の会話である。

 この会話がなされる前に、敵将メッセ少将は北側の森から既に兵を引き、デ・ボーノ少将率いる第8銃歩兵師団と連携し第2軍団司令部を攻撃するために渡河準備にかかっていた。


 戦闘準備を終えた第19騎兵師団と第36騎兵師団は、軍団野営地北側の森へと進路をとり、行軍を開始した。


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 同日夕刻、帝国軍第18軍団総勢5万7645名は、他国にない高い機動力を生かし、カルドナ王国軍第12軍団側面に配置されている、第8銃歩兵師団1個大隊陣地を後1日ほどで捕捉しようかという地点まで到達。


「全軍迅速かつ秘密裏に戦闘陣形を取れ。」


 ガーランド少将の命令で、到達と同時に機動力の高い縦隊陣形であった各師団は、戦闘能力の高い正面幅の大きな陣形へとその姿を変えた。

 これにより、先頭の53師団は正面に銃歩兵連隊、猟兵連隊、竜騎兵連隊を展開、その後方に、対空魔導連隊、魔導砲兵連隊を展開すると、最後尾に師団司令部、後方支援連隊を展開した。

 後続の18師団も53師団の真横に付き、銃歩兵銃歩兵連隊、猟兵連隊を前面に展開、その後方に、対空大隊、魔導砲兵連隊を展開すると、最後尾に軍団司令部、後方支援連隊を展開した。

 最後尾30師団は53師団と共に18師団を挟む形で布陣、銃歩兵連隊、猟兵連隊を展開、その後方に、対空魔導連隊、魔導砲兵連隊を展開すると、最後尾に師団司令部、後方支援連隊を展開した。


「接敵後は軍団司令部に報告、各部隊司令官の指揮の元、戦闘開始せよ。」


 ガーランド少将の命令が全軍に行き渡ると、各部隊は高い士気と規律の元、カルドナ王国軍第12軍団に向け、進軍を開始した。


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 さて、帝国軍第18軍団の正面に位置する、カルドナ王国軍第3軍第12軍団であるが、軍団長ウンベルト・ソッドゥ中将指揮の元、帝国軍第18軍団の監視を行っていたが、1月4日未明、偵察兵からの報告で、帝国軍第18軍団がほぼ全軍で砦を出た。との報告以来、消えた帝国軍第18軍団の所在を掴めずにいた。


「これ以上は待てんな、デ・ボーノの師団が側面にいない以上、直ちに第3軍総司令部に増援の要請をしろ!」


 ソッドゥ中将は通信兵に怒号を飛ばすと、第3軍総司令部へ援軍の要請をした。


「第12騎兵師団は、戦闘準備、準備完了後、即時第8銃歩兵師団陣地に向かえ!」


 ソッドゥ中将はこの時、敵軍団の機動力は、軍団砦から第8銃歩兵師団陣地まで2~3日ほどかかると思い込んでいた。したがって機動力のある、1個騎兵師団だけを先行させた。


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 カルドナ王国軍、第4軍トレーナの街西側野営地を守備する第103銃歩兵連隊連隊長チェザーレ・バルボ大佐の元に、首都を12月28日に発った義勇軍7個空戦中隊が到着したのは1月5日未明になったの事であった。


 バルボ大佐は、アンプロージョ少将の命令通り、7個空戦中隊の全隊の魔導通信機を確認すると、各隊に岩を持たせ、直ちにキオモーザ台まで到達している第4軍本隊の後を追わせた。


 その第4軍本隊は、キオモーザで各隊の司令官を招集していた。


「敵は現在の陣形を維持できるウルクスを決戦場に定めるであろう。参謀はどう思うか?」


「はい。少将の仰せの通り、正面幅の広い横隊陣形を維持できる平地、ウルクスを選択するかと。」


「敵の有利な地形で戦うことは無い。こちらに引き込むか、バルバッキネアまで進むかであるかな?どうであるか?」


「はい、ここは我が方もウルクスを決戦場とし行軍速度を落としましょう。」


「ん?訳を聞こうか?」


「はい。数で有利なウェスバリア軍は歩兵を前面に半包囲をしてくるでしょう。我が軍は銃歩兵師団を前面に敵を引きつけ、騎兵による突破を注意しながら各隊任意に射撃、後に正面幅の狭い平地入り口まで後退、そこで戦線を維持するのが最適かと。」


「良い案だ。各隊の行動は参謀に任せる。では各隊かかれ。」


 カルドナ軍第4軍参謀、長い黒髪のジュリオ・グラッツィアーニ大佐はこの時27歳。決戦場を敵が選びそうなウルクスと定めると、決戦に向け各師団長に指示を伝達した。

 

 カルドナ王国軍第4軍が、ウルクスまで後3日という地点でのキオモーザ台での作戦会議での一幕であった。

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