第130話 トレーナ会戦 中編 1
「師団先頭61騎兵連隊から、順次渡河を開始せよ。」
ヴェルティエ中将の命令通り、日の出と共に師団長シャラン少将は、師団に渡河を命じた。
第37騎兵師団先頭の第61騎兵連隊3530名は、河の流れが比較的緩やかなことから、装備を外すとその装備を馬に括り付け、準備の終った者から順に、腰の深さまであるチェニスキー河西岸へと渡河を開始した。
61連隊が渡河を完了し、その全員が渡河を完了すると、続いて後続の第63騎兵連隊3260名が渡河を開始する。
第63騎兵連隊が渡河を開始、戦闘はもうすぐに渡りきろうかという所で、上流に出していた斥候からの急報にシャラン少将は顔を青くする。
その急報とは、敵工作部隊による上流からの丸太放流。という物であった。
「63連隊!全員渡河を中止せよ!直ちに引き返せ!」
シャラン少将の号令に、まだ丸太を目視できず、事態を掴めない63連隊は何事かと、その動きを止めた。
「丸太放流だ!戻れる者は直ちに戻れ!渡れる者は渡りきれ!」
このシャラン少将の言葉に、63連隊先頭部隊は我先にと東岸へ渡りきろうとし、後発部隊は我先にと西岸戻ろうとする。結果的に63連隊は大混乱に陥ることになった。
だが、シャラン少将にとって悪い報告はこれだけではなかった。
放流された丸太が渡河中の63連隊に到達しようかと言う時であった。
「第1大隊!斉射!撃てー!」
という号令と共に森の中に潜んでいた敵銃歩兵連隊が、渡河し終わり装備を装着しようとしている61連隊に斉射を開始。
まだ攻撃準備が出来ていない61連隊はその斉射を防具なしで受ける結果となった。
川岸で敵の銃撃によりバタバタと倒れる味方を見て、渡河中の63連隊先頭集団は全員が引き返そうとするも、流れてくる丸太に当たり倒れる味方と接触し、身動きが取れない。
「第2大隊、斉射!撃てー!」
敵銃歩兵連隊は、1大隊が斉射を終えると、装填していた2大隊が斉射、それを終えると、3大隊が斉射。これを7度ほど繰り返し、61連隊の全員が動かなくなったのを確認すると、それだけでは飽き足らず、河の中ほどでまだ立ち往生する63連隊へと斉射を開始。
敵銃歩兵連隊が森に姿を消す頃には、チェニスキー河はウェスバリア軍第61騎兵連隊3530名、第63騎兵連隊1260名の血で赤く染まっていた。
「どうしたらよいものか・・・。」
シャラン少将はその師団の将兵の数を11178と大きく数を落とすと、この報告をせず、上流から引き返し、第2軍団司令部へとその進路をとった。
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赤く染まったチェニスキー河を見て、自身の計略は成功したと考えるカルドナ王国軍第125混成団司令官ジョヴァンニ・メッセ少将であったが、ここに彼を笑顔にする報が入る。
31日に進発した第8銃歩兵師団が、1日ほど早く敵軍団の後背に回り込んだという報であった。
「第8銃歩兵師団に合わせて攻撃する。全軍に渡河準備をさせよ。」
メッセ少将は全軍に戦闘準備を伝えると、渡河準備を実施させた。
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帝国軍第18軍団第58猟兵連隊連隊長、ウルリッヒ・シュバルツマン大佐はこの時、出撃した斥候部隊の報告により、師団陣地には大隊規模しか駐屯しておらず、敵第8銃歩兵師団の南下を知ことになる。
これにシュバルツマン大佐は、即座に軍団司令部にこの情報を持ちこむと、第18軍団軍団長カール・グスタフ・ガーランド少将は、本営に連絡後、カルドナ王国軍への全面攻勢を決める。ガーランド少将は、自身の手で魔力拡声器に魔力を流し込むと、一呼吸おいて、その意思を伝えた。。
「軍団各員に次ぐ、これより我々は敵カルドナ王国軍第12軍団を攻撃する。各員戦闘準備に移行せよ、戦闘準備に移行せよ。尚、各部隊指揮官は、戦闘準備完了次第司令部へ集合せよ。」
ガーランド少将が放送を終えると、帝国軍第18軍団砦は歓喜の渦に包まれ、第18軍団全軍は即座に戦闘準備に移行した。
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