第118話 会戦前夜 2
マイトランド、ランズベルクの両名がマナドゥ中佐に連れられ、第11騎兵師団司令部へ到着すると。外で一人の若い将校が待っていた。
その若い将校は、マナドゥ中佐を帰すと、幕舎の中に2人を直接招き、2人を歓迎した。
「はじめまして。私はイヴォン・トルゥニエと言う。2人の名前を聞いても?」
自分より若い2人が委縮する事のないように、階級も告げることなく自己紹介をするトルゥニエ少将に、マイトランドとランズベルクは顔を見合わせるとそれぞれの名前を名乗った。
「第72魔導砲兵旅団付きドワイト分隊、ラッセル2等兵と申します。」
「同じく、メレディアス2等兵です。」
トルゥニエ少将は畏まる2人に目を一度丸くすると、口角を上げ、優しく微笑むと、再び尋ねた。
「そんなに畏まらないでくれ。楽に、そう、いつも通り分隊員に話すようにしてくれていい。罠の配置を把握する指示を出したのは、ラッセル君でよかったかな?」
「はい。私です。」
マイトランドがそう言うと、トルゥニエ少将はその金の髪をかきあげると、右の人差し指をマイトランドの前に出し、それを振りながら注意した。
「ちっちっち。まだ固い。そうだな。田舎の友達に喋るように話すと良い。どうかな?」
そのトルゥニエ少将の言葉に反応したのはランズベルクであった。ランズベルクはその場にあった椅子にドカリと腰を下ろすと、口を開く。
「おい、マイトランド。このおっさん、なんだかおかしいぜ。俺とおっさんが友達な訳ないだろうよ。話が一向に進まねぇ。」
「おい、ランズベルク!やめろ。この方は少将だぞ!」
「失礼いたしました!」
ランズベルクはマイトランドに諭され、すぐに腰を起こすと、飛び上がると、その手を上げ敬礼をもって謝罪した。
「いや、いいんだ。固まっていては自分の意見をまともに言う事も出来ない兵は多いからね。私は、自分の兵全ての意見を聞きたいんだ。キレイごとだがね。それで?罠の配置は、私の部下の物より詳細且つ、数の多い物であったが、どのように調べたか教えてくれるかい?」
「はい。リザードマンの分隊員がいますので、その者に調べてもらいました。」
「どの様に?私の部下は毎日何度も偵察に出ているが、この様に正確な配置はわからないよ?」
「ここから先は条件付きでお話したいと思います。」
トルゥニエ少将は右手で再び髪をかきあげると、その手を口の前に置き、目を瞑り鼻でうーんと唸ると、条件を聞きだした。
「条件は?」
「我々キスリング支隊に、騎兵を500、いや300お貸しください。」
「いいだろう。だが罠の解析方法だけでは貸すことはできない。他に案はあるか?」
「はい。ございます。第11騎兵師団の進行ルートにある罠を、砲撃により全て除去致します。これであれば、罠による損害は、300-500程度減るでしょう。ですので、その浮く予定の騎兵をお貸しください。」
即答したマイトランドに、トルゥニエ少将は即座に頷くと答えた。
「あいわかった。ラーケン大佐の連隊から精鋭を800出そう。」
「ありがとうございます。こちらからはアダムスを少将に出しますので、砲撃の際は逐次念話により連絡いたします。ですが800騎も総司令部の許可なく出してよろしいのですか?それに我々の進発は今夜です。間に合いますでしょうか?」
「面白いこと言うな。800騎は罠に嵌って戦死したとでも言っておくさ。昨日の話を聞いた時点で500騎は用意していたよ。だが、500騎程度ではトレーナは落とせないだろう?300騎も今からすぐに準備をさせる。」
「はい。800騎の騎兵と師団本隊は閣下の名声を高めることになるでしょう。」
マイトランドは、その後リザードマンの目による罠の温度差について話すと、トルゥニエ少将は一定の理解を示し、これまでの発言から、新しい知己を得たとマイトランドを称えると、マイランドは、ランズベルクと共に師団司令部を後にした。
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夕刻になると、準備を終えたマイトランド達ドワイト分隊15名は、キスリング連隊連隊本部天幕へと到着した。
マイトランドは、天幕へ入ると、連隊長であるキスリングにトルゥニエ少将との一件を伝えた。
「大佐、騎兵が800騎新たに加入いたします。準備を終え次第こちらに向かうそうです。」
「そうか。2等兵が2000人の指揮を執るのか。笑えるな。」
キスリングはそう言って、無表情のままマイトランドの肩に手を置くと続けた。
「だがかなりの大所帯になる。敵から隠し通すことは出来ぬだろうよ。そこは考えているのだろうな?」
「それについては考えがあります。騎兵800はトレーナまでは使用しません。下馬させて徒歩で支隊後方を歩かせます。これは主に補給や連絡に使うためです。指揮はゲルマー少尉以下4名に執らせようかと。」
「部隊を2つに分けるという事か?」
「そうなりますね。敵の奇襲には、支隊のみで対処します。常に分隊から警戒を出しますので、ご安心ください。」
「わかった。指示に従おう。」
キスリング大佐は初めて表情を崩すと、続けざまにマイトランドに耳打ちする。
「騎兵師団に手柄を横取りされるようなことはないだろうな?」
「どちらの顔も立てますのでご安心を。」
マイトランドが答えると、キスリングは安堵の表情をして、残りの作業に取り掛かった。
会戦前日の日は落ちかけ、辺りは闇の到来を告げようとしていた。
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