第117話 会戦前夜 1
補給品、糧食、消耗品アイテムを受領したマイトランドとランズベルクは、午前中の内に、ヘルムート達4名を含めた15名それぞれに補給品を装備を配り、アダムス、ドワイトを除く、各々の馬13頭に騎馬用の装備であるライトバーディングを装備させると、予備武器、盾、槍などの重量の重い装備、や消耗品アイテムを優先して積載した。
正午を過ぎると、ドワイトが、大声でマイトランドと、ランズベルクの元へ走って来た。
「マイトランド、第2軍団が出発するみたいだぞ!今軍団旗を受領していた!」
マイトランド、ランズベルクの両名は、装備の積載を終えると、ドワイトと共に第2軍団の集結地点へと向かった。
3人がグルナブルット郊外の集結地点へ到着すると、その平原を埋め尽くすような騎兵の大軍勢をその目にすることになった。
半数は馬鎧であるフルバーディングにカパリスンと呼ばれる布製のカバーを装備した重騎兵。
残りの半数はチャンフロン、クリニエール、ペイトレール、フランチャー、クルーピエと言ったフルバーディングを分割した様な装備を身に着けた重騎兵であった。
分割する理由は、フルバーディングを装備した際、拍車の関係上、欠点である速度を補う物と考えられる。
「第2軍団、軍団長ヴィエス・ド・ヴェルティエ以下重装騎兵66963名、編成を完了いたしました!」
敬礼の手を上げ、拡声器から発せられたのではないかと思う程大きな声で、編成の報告するヴェルティエに、壇上で編成の報告を受けた総司令官ツェッペリン大将は、敬礼をもって敬礼を受けると、その手を降ろした。
「ヴェルティエ中将、貴官は別働隊である第2軍団を率い、敵補給路、連絡網の遮断、及び、トレーナ北門の制圧の任を与える。尚、北門の制圧については第2軍本隊の西門攻撃と同時期とする。逐次伝令を送り、本隊との連携を密にせよ!」
「ははっ。この命に代えましても。」
ヴェルティエ中将は、ツェッペリン大将に深く頭を下げると、ツェッペリン大将はその右腕を肩まで上げると、進発の命令を下した。
「よろしい。それでは進発せよ。」
ヴェルティエ中将は、敬礼をもって答えると、降ろした手で剣を抜き、それを頭上に高々と掲げ、第2軍団全軍に号令した。
「第2軍団!進発する!行進の隊形を取れ!!」
ダン。ダン。ダン。ダン。
軍太鼓を持つ後方騎兵が、その太鼓を叩く音で、ヴェルティエ中将の命令を全軍に伝えると、広場南側に整列した騎兵から、各師団、連隊、大隊、中隊長の指示の元、地響きを立てながら広場北東方向へ行進を開始した。
「なあ、マイトランド。あいつらどれ位生きて帰ってくるのかな?」
「知らん。俺には関係ないな。俺達が死なないようにするので精一杯だ。他のヤツの事まで考えてやる余裕はない。」
「それもそうだぜ。戻って準備の続きをしようぜ。」
ランズベルクがそう返答すると、マイトランドは、騎兵の大軍勢に呆気を取られたままのドワイトを引きずり兵舎に戻っていった。
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3人は兵舎に戻ると、分隊員全員で各々の背嚢の準備を始めた。
準備を始めてしばらく経つと、傾きかけた日の光を遮るように、アダムスがマイトランドの前に立ち、来客を告げた。
「マイトランド。なんかお前に会いたいってさ。なんか偉そうな人だぞ。」
「ああ、今いく。」
そう言ったマイトランドの顔は笑っていた。事実この来客はマイトランドにとって良い報告であるからだ。
「中佐。どうも。今日は何の用で?なんだか昨日は、もう会いたくないという様な事を仰っていましたが?」
「あ、ああ、そうだな。私の名誉の為にも、君には会いたくはなかったんだがね・・・。」
マイトランドの嫌味に対し、言葉に詰まった男は、マナドゥ中佐その人であった。
「では、何の用ですか?まさか見送りですか?我々の出発は夜ですが。」
「うん、実は少将に君の話をしたところ、連れて来いと言うのでね。」
「はい?俺の話なんてしなければ良かったじゃないですか。行きたくありませんよ。」
「そ、そう言わないでくれ。ワナの配置図を出したところ、これは誰の記述したものかとなってね。」
「ああ、それなら、ほら。そこにいるアダムスが書きましたよ。アダムスを連れて行ってください。」
マイトランドが茶化して話を逸らすと、マナドゥ中佐は顔を真っ赤にして答えた。
「ふざけるな!上位者である私が頼んでいるのだぞ!協力するのが礼儀ってもんだろう!つべこべ言わず、付いてきて説明すればいいんだ!」
マイトランドは、怒るマナドゥ中佐に、腕を組み横目でじろりと睨むと反論する。
「あんたねぇ。それが人に物を頼む態度ですか?あんたは俺の上官ではないし、無理矢理連れて行くってんなら説明なんてするもんか!先ずは昨日の事を詫びてから協力を要請するのが礼儀ってもんでしょう?」
正論で中佐をやり込める2等兵に、ランズベルクを中心に周囲は湧きたつと、観念したマナドゥ中佐はその拳を握ると、頭を下げマイトランドに同行を要請した。
「き、昨日の事はすまなかった。どうか師団司令部まで同行していただけないだろうか。」
「わかりました。そこまで言うならランズベルクと共に同行しましょう。」
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