第105話 救出と脱出 6

 マイトランドの作戦通りに行けば、第一波部隊の突撃により、敵南門守備部隊20名に穴が開き、その穴を戦車2台で突破できるというものであった。

 実際は、騎兵2騎はそのスピードを生かし、一瞬敵に穴が開いたが、その後が悪かった。歩兵8名は敵集団にぶつかるも、やはり突破は出来ない。数の劣勢から、そのまま南門守備部隊に押し返される。

 そうなると当然後方に付けていた戦車は、そのスピードを奪われ、立ち往生してしまう。


「戦車長、ゲルマー少尉の指示に従え!ゲルマー少尉、剣をくれ。」


 マイトランドはそう言った後で、銃に弾を込め、右手に握ると、左手でヘルムートから剣を奪い取り、ヘルムートに命令した。


「突破出来そうなら、俺にかまわず先に行ってくれ。門を出たら森に入って俺の到着を待ってくれ。必ず追いつく。いいな?」


「了解しました。隊長はどうされるので?」


「俺は、敵集団に戦車が突破できるくらいの穴を開ける。頼んだぞ。」


 マイトランドはヘルムートに戦車の指揮を託すと、戦車から飛び降り、敵に向かい走り出した。

 

 「マイトランド。僕もいくさ!」


 それを見たレフもまた戦車から飛び降り、剣を持ってマイトランドの後に続いた。


 「レフ!お前は戦車に戻れ!」

 

 「一人じゃちょっと厳しくないかい?」


 「馬鹿野郎!突破した後で救出した捕虜を誰が守るんだ!」


 「大丈夫さ!」


 マイトランドの罵声を、レフは毎度の笑顔で躱すと、マイトランドの後方に付けた。

 

 第一波の歩兵2名が、敵の攻撃により元の土に帰ると、マイトランドはその穴を埋めるため、照準を定めると、銃の引き金を引いた。


 パーン


 弾丸は敵守備隊の一人に命中するが、小さいながらも戦場という状況に、多量のアドレナリン分泌しているからであろうか、致命傷にはならずに、まだ戦闘を続行している。

 マイトランドは銃をホルスターに戻すと、腰から下げていた剣を左手に抜き、双剣の状態を持って、新たにスキルを発動する。


「皇帝の軍勢。僧正。」


 また新たなスキルにより、杖を持った土くれの魔導師を確認すると、口頭により命令を下す。


「俺とレフの援護をしろ。」


 そう言うと敵に突撃を仕掛けた。

 敵守備隊はこれに即座に反応、減った土くれ歩兵の間から、4名を出し、マイトランドを迎撃する。

 上段に構えた敵先頭にマイトランドは近寄ると、敵の振り下ろした剣を、左手の剣で止めこれを受け流すと、右手で腹を一閃。倒れる敵先頭に、覆いかぶさるように剣を振り下ろす敵の二人目に、後方から僧正の魔力火球が着弾すると、二人の肩にマイトランドが一撃。

 三人目がそれを見て、ひるんだところに、マイトランドの右手から剣が投げつけられた。敵の三人目がマイトランドの投げた剣を払うと、そこにまた別の僧正の魔力火球がモロに着弾する。四人目は既にレフが抑え、迎撃に来た4名は全員が程なく絶命した。


 土くれの歩兵は、更に2名が土に帰ると、一度突破に成功した騎兵が戻って来た。

 騎兵は突撃準備をすると、マイトランドの思念と連携、敵の後背を突いた。

 これに驚いた敵守備隊16名は一瞬動きが止まる。

 ここだとばかりに、マイトランドは剣を置き、瞬時に銃に弾を込めると、照準を定め引き金を引く。

 

 パーン


 弾丸は敵に命中するが、またしても敵の命を奪う事は出来なかった。

 マイトランドは、銃をまたホルスターに戻すと、剣を拾い敵との距離を一気に詰めようと走り出したその時、後方の戦車からヘルムートが声を上げた。


「隊長!敵の増援です!数およそ10~20!距離およそ300!すぐそこです!」


 先程通った通りの建物の間からの敵の到来を知らせる報であった。

 

「もうどうにもならんか。」


 マイトランドが諦めかけると、敵の増援の走る方向にあった木材が急に倒れだした。ディアナのフォローである。倒れた木材の影響で敵増援の勢いが弱まると、その到来を遅らせる。マイトランドは、南門守備へと一気に距離を詰めた。


 敵の剣を右手の剣で二度ほど払うと、左手の剣で一合また一合と剣を合わせる。体勢を崩す守備兵を一人、また一人と斬って行くと、それと同時に歩兵も2名が土へと帰る。

 僧正も敵に魔力火球を浴びせるが、所詮はスキルで作った気休め程度の兵士の火力である。敵との数の違いを埋めるには至らなかった。多少敵の数を減らしたところで味方も同数やられていく、これでは焼け石に水である。


 更に敵2名を葬ると、マイトランドは考え呟く。


「どうすりゃいいってんだよ・・・。」


 万策尽きたと頭を垂れるマイトランドに、それを聞いていたレフは鼻で笑うとため息をつき答えた。


「それを考えるのが君さ。突破できるスキルを持っているじゃないかい?味方にそれ付与したらいいのさ。僕はこんなところで死にたくないさ。」

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