第63話 第三次模擬戦 3

「むむ。そうか、そこで少し待っていてくれ。」


 副官はライナーの勢いに押され、仕方なくグレンダと話を始める。


「橋が落ちて、街側の壁を登られたのでしょう?すぐに駆けつけられるのは、私の班の20騎と、そこにいる下着泥棒の騎兵20騎、アルファイマー卿の20騎です。門の防衛に8割のもの歩兵を割いているのです。2割の歩兵しか残っていないでしょう。砦内では機動力を発揮できませんから、騎兵も役には立ちませんね。」


 グレンダの正確な状況判断に、副官は目頭が熱くなるのを感じるも返答する。


「砦内には、大量の罠もございますし、まだ一矢報いることもできます。」


 副官の言に、グレンダは頭を左右に振ると、決意を語った。


「何度も戦ってわかりましたが、フリオニール様の軍は強すぎます。経験不足の私達もまた敗因の一つです。もはやこれまで、勝ち目はありません。降伏をいたしましょう。」


 グレンダが降伏を決意すると、降伏されては、ライナーとしても条件達成に至らないため、戦功1位を貰う事が出来なってしまうため、ライナーが必死で反論した。

 

「まだ、私達がおります!このライナー隊20名。身命を賭して、敵を蹴散らして御覧に入れましょう!」


 ライナーの大声に、グレンダは耳を塞ぎ、汚い物でも見るかのような蔑んだ目でライナーに言った。


「下着泥棒の貴方だから信用できぬのです。降伏いたしましょう。皆異論はありませんね?引き際も大事です。これ以上、兵を傷つける訳には参りません。今回は運が無かったと思って諦めましょう。」


「ははっ。グレンダ様の御意のままに」


 副官一同が頭を下げると、グレンダは頷き、


「では降伏の使者を出しなさい。」


 そう言って、全員に背を向けた。


 グレンダの下着泥棒という言葉が、余程気に障ったのだろうか、熟れたリンゴの如く、顔を真っ赤にしたライナーが呟いた。


「言わせておけば。これが最初で最後のチャンスか。」


 ライナーは持っていたハルバートを構えると、突如グレンダに向け突進、背面から、グレンダの脇腹を突き刺し、そのまま天高く突き上げた。


「はははははっ!これで俺が戦功一位だ!もう下着泥棒とは呼ばせんぞ!」


 ライナーの、突然の凶刃により倒れたグレンダの副官達は、謀反を予期できなかったことを悔やみ、その場に膝から崩れ落ちた。


「どうだ!見たか!俺の策は!」


 ライナーは、崩れ落ちる副官達を見ながら、大声で自らの功を誇った。


 ---


 ライナーが大将グレンダを討ち取ったことにより、その後の抵抗は一切なく、模擬戦はあっけなく終了する。


 班長、査閲官が戦闘状況を確認し、


 ドーン、ドーン、ドーン。


 と言うお決まりの銅鑼の音で、評定へと移行する。


マイトランドは、集結地点へ向かうまでの間、評定についてフリオニールと話をした。


「俺の言った通り、早く終わっただろ?」


「あ、ああ、グレンダ嬢は大分気の毒な気もするがな。」


「まあな。ランズベルクの話じゃ、降伏しようって決まっていたらしいからな。」


 マイトランドの予想では、徹底抗戦を決めたところに、ライナー隊が攻撃を仕掛けるとものだった。

 大勢で囲むだとか、多少なりとも卑怯な手を使う事までは、予想にあったが、腐っても貴族だ、降伏を決めた者を、打ち取るという品性の欠片も感じさせないような行動を取るとは、思ってもいなかったのだ。

 その証拠にマイトランドは、万が一、ライナーが負ければ、ランズベルクが仕留める。という算段までつけていた。


「人の心までは分からんな。良い勉強になったよ。約束は約束だからな、戦功1位をアイツにやろう。」


 マイトランドが笑うと、フリオニールは苦笑いで答える。


「ライナーか、本心で言えば、あんな男にくれてやりたくはないが、貴族間の約束だ。諦めよう。しかし、私はまたグレンダ嬢とその一派に、嫌われる理由が増えたな。無論、この戦功表彰も含めてな。」


「それも上に立つ者の宿命だろう。万人に好かれることなど不可能だよ。」


 2人は第三回の模擬戦評定の順位を決めると、握手を交わし、各々班員のいる列に戻った。


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