第161話 トレーナ攻略戦 前編 2

 諜報機関を持たないウェスバリアは、他国の情勢は外交の際や、交易の際に手に入れることが出来る物しかない。実際にその情報が欺瞞である可能性も高く、真偽のほどは定かではない。


 当然ながらハイデンベルグ帝国大使、駐在武官などと情報の付け合せをする必要があり、その後確証を得て各軍へとその情報はもたらされる。帝国軍のような友軍情報であっても、当然ながらその情報が届く頃には既に事が済んだ後であり、遅すぎると言っても過言ではないだろう。ましてや情報の確認の際、言い忘れ、聞き忘れなどがあれば、ウェスバリアは全く情報を持たない国となってしまう。


 だが、今回のウェスバリア軍第2軍は今までのウェスバリア軍とは違っていた。

 マイトランドのスキル、イーグルアイで確認された情報によると、カルドナ王国軍トレーナ守備隊はトレーナ市街北地区に全ての部隊を集結させており、トレーナからイブレアにかけての街道沿いに工作部隊らしき部隊が展開、さらには飛龍が各所に飛び回り警戒している。その警戒進路上イブレア南部には、帝国軍の推定師団から軍団規模が陣地を構えているとの情報を得ていた。

 帝国軍の情報を得ていた第11騎兵師団長トゥルニエ少将は、この情報を元に総司令部へと駆け込み、指揮所机に手を置くと進言した。


「閣下、敵は帝国軍の侵攻により撤退したものと思われます。このまま一気にトレーナ近郊まで強行軍し、帝国軍の侵攻に合わせ我々もトレーナに攻撃を仕掛けてはいかがでしょうか。」


「なぜわかる?私が思うに、この撤退は欺瞞である可能性が高い。トレーナまでの道中に、敵が待ち受けている可能性を排除できぬが?大体それはどこからの情報であるか?」


 信頼度の高い情報であっても、2等兵の情報だとは口が裂けても言えないトゥルニエ少将であったが、ここで妙案を思いつく。


「敵の撤退に先んじで先発させている斥候部隊よりの情報です。帝国軍第18軍団のカルドナ領侵攻と思われます。」


「うむ。私の知るところでは、帝国のカルドナ侵攻は時期的にまだ無いと思うが?国境沿いに配置された、たかが3個軍団でカルドナ侵攻は不可能ではないかな?帝国軍南部戦線には増援もまだ無いと聞く。」


「では・・・。小官の部下が決死の覚悟で入手した情報は無意味という事になりますか。」


「すまんが、確証が得られない以上は、このまま進軍し第2軍のみでトレーナを攻略するということになるな。」


 ツェッペリン大将はそう言うと、肩を落とすトゥルニエ少将の肩を叩いて続けた。


「しかし、貴官は先日と言い、少し他の知りえぬ情報を持ちすぎているように感じるが、まさかとは思うが・・・。」


 ツェッペリン大将は、恐らくトゥルニエ少将の内通を疑っていたのだろう。そこまで言いかけると、それより先の言葉を飲みトゥルニエ少将を司令部より送り出した。


---


 その帝国軍第18軍団アイゼナハ少将指揮下の第30師団は、ルフトシッフを持つ帝国軍第17軍団と共同作戦を実施していた。この共同作戦は、自領奪還の為帝国軍第18軍団に向けて進軍し、カルドナ北部最大の工業都市であるミランに到着していたカルドナ王国軍第3軍本隊をミラン市街にて半包囲するという作戦であった。


 この作戦の第1段階は、数で勝るカルドナ王国軍をミラン近郊の森で半包囲し、ルフトシッフと空戦隊による爆撃を加え、敵の戦力を削ることにあり、その第2段階では完全な包囲網を作らないことにより生まれた穴から敵の撤退を促し、カルドナ王国軍第3軍をウェスバリア第2軍と交戦中の第4軍の防衛線まで下げさせ、第18軍団はトレーナを攻略、第17軍団、第16軍団ももってカルドナ王国軍第2軍の攻略にあたり、3個軍団をもってカルドナ王国北部制圧をすることにあった。


 予定通り、ミランに到着した第30師団は、闇夜に紛れ簡易的な防御陣地の構築開始、そこから遅れること2日、到着した第17軍団も予定通り防御陣地の構築を実施した。

 翌日夕刻、第17軍団長ヘルマン・フォン・クラウゼン中将指揮する17師団の後方に、空戦隊に護衛されながらルフトシッフが到着すると、その姿を見た第17軍団の第17師団、第56師団、第36師団の将兵達は歓喜に沸き、翌日のルフトシッフのミランへの爆撃開始を待った。


 しかし、誰もが予期せぬ出来事が起こり、その作戦は無に帰すこととなってします。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る