第84話 帝国軍の編成と戦法 2

 武装は帝国軍の物だけを取り上げる。

 特にわかりやすいのは、歩兵、騎兵、猟兵、魔導砲兵連隊についての防具装備がウェスバリアの装備に比べ、単純に丸みや傾斜を帯びているという点だ。

 これは避弾経始(ひだんけいし)と言って、銃の運動エネルギーを傾斜により分散させ、これにより銃の弾丸を逸らせて、跳弾を誘う事にある。


 後は騎兵、猟兵、歩兵、魔導砲兵の全ての部隊において、銃が装備されているという点だろう。

 

 次に、一例ではあるが、戦術について。


「この編成では、騎兵連隊のフランキングは考慮されていませんね。」


「フランキング?いったい何時の時代の話をしているんだい?そんなことしたら、騎兵連隊は敵の弾丸で壊滅してしまうではないか。そんな言葉は帝国軍にはもうないよ。」


「ではなんの為に騎兵連隊は存在するんですか?」


「君は何かを勘違いしているね。そもそも、騎兵連隊にも銃は装備されているし、突撃などという、前時代的なことは、突破の場面を除きほとんどない。まさか、歩兵連隊は槍と盾だけで戦うと思っているのかい?」


 フリッツの居室での2人の話である。フリッツの発言からわかるが、


 帝国軍の騎兵は時代遅れなウェスバリアの重装騎兵や軽装騎兵と違い、竜騎兵(ドラグーン)である。

 竜騎兵とは、騎兵各々が銃と剣を装備しておいる騎兵の総称で、定説は様々あるが、一説にはドラゴンが火を吐くことから火器(火)を扱う騎兵という意味で名づけられたという。


「歩兵は盾と槍だけで戦わないのですか?」


「ここ10年で帝国はかなり近代化されてね。歩兵部隊も銃を扱うのだよ。」


「では、フリッツさんの猟兵と歩兵の違いを教えてください。」


 そこから説明をした、フリッツの説明は明確であった。

 通常帝国軍歩兵とは、隊列を組んで前進して目標に対し命令を受け一斉射撃を繰り返し、銃剣による白兵戦で決着を付ける戦術を取る。

 それに対して猟兵は、散開して個々の判断で射撃を行って敵の士官や砲兵を狙撃し、戦列歩兵の突撃を側面支援する戦術をとる。

 猟兵はこれ以外にも、敵軍の後方撹乱、山岳戦、狙撃、偵察をも任務としていた。


「シュッツエンと言う言葉は聞いたことがあるかな?私はシュッツエンなんだが。」


「ありません。」


 シュッツエンとは狙撃兵を指す言葉である。猟兵部隊にのみ存在する、兵士である。


 フリッツが一通りの説明を終えると、マイトランドは恥ずかしそうにこう呟いた。


「これは帝国が強いわけですね。他の国とは全く違うじゃないですか。」


「そうかな?そこまで違いはないと思うが・・・。」


「銃の運用面において、格段の差があります。銃の運用、戦術が確定しているじゃないですか。他の国は銃士や銃歩兵などの部隊を作っている最中ですよ?」


「うん。銃についてはそうだろう。だが我が帝国は、ウェスバリア以外の周辺国、全ての国が敵国だ。ガリアだっていつ敵に回るかわからない状況だぞ?その中で限られた人的資源を損なうことなく、戦争をするには、部隊運用、編成、行動、装備、戦術、全てを損害をいかに出さないようにと考えるのは普通だろう?人的資源が豊富な君の国とは違うさ。」


「そうですね。いかにウェスバリアが・・・。」


 マイトランドは、そこまで言うと、ハッと自分の愚かさに気付き、口を閉ざした。

 フリッツは苦笑すると、マイトランドに言った。


「別に上に報告するつもりはないよ。ここだけの話にしておこう。ただし、条件がる。この先、いつか私が困った時に、助けてくれるね?」


「そんなことで良ければ。喜んで。何ができるかはわかりませんが、僕で出来る事であれば、なんでもさせていただきます。」


「そうか、それならこの話は終わりだ。帝国臣民の君は明日母のいる村へ帰るんだったね。この包みを持って行くと良い。3日分の戦闘糧食だ。邪魔になる物でもないだだろう。」


 そう言い終えると、小さな包みをマイトランドに手渡した。


「色々教えていただいた上に、こんなことまでしていただけるなんて、ありがとうございます。」


「ああ、こんなこと気にすることは無い。さて、明日も早い。寝よう。」


「はい、おやすみなさい。」


マイトランドは返事をすると、二人はフリッツの居室で眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る