第87話 第72魔導砲兵旅団 1
”宛 第72魔導砲兵旅団長ヴァイトリング准将 発 第2軍団第29騎兵師団長ヴェルティエ中将”
そう書かれた文がヴァイトリングの元に届いたのは、司令部での緊急招集から2日を経ってのことであった。
ヴァイトリングが中身を確認すると、そこにはこう記載してあった。
”総司令官より、一個分隊の指揮権を貴官に委譲せよとのお達しだ。
先の威力偵察により、すでに功を上げているドワイト分隊をそちらに送る。現在任務中につき4日後着の予定だが、分隊とはいえ我が師団の重要な戦力である。くれぐれも損失を出さないように留意されよ。”
「あの若造が。委譲とはな・・・。」
そう呟くと、ヴァイトリングは、静かにその文を火の中に放り投げた。
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「多分そろそろ来るんじゃねぇのか?ポエル、ちょっと代わってくれよ。頼むぜ。」
「イヤ。代わらない。ポエルが行く。」
アダムスからのマイトランド帰還の念話を受け、ランズベルクはポエルに現在の監視任務を引き継ぎを頼むと、ポエルはマイトランドの帰還が嬉しいのか、計画していた休憩もそこそこに、マイトランドを出迎えに行った。
ポエルは少し歩くと、背の低い木に登り、マイトランドを待つ。しばらくするとポエルの耳に、人の足音らしき音が聞こえて来た。
狸獣人であるポエルは耳が非常に良い。足音からマイトランドだとわかると、
ポエルは喜び勇んで木を下り、驚かせようと背中から声をかけた。
「マイトランド・・・。だれ?」
誰?と聞き直した理由は明確であった。マイトランドが帝国軍の軍服にまだその身を包んでいたことに他ならない。見慣れぬ服を着る男に動揺したのだった。
「ああ、ポエルか。隠蔽していたな?わからなかったぞ。」
マイトランドがポエルの声に反応すると、ポエルは声からマイトランドだと気付き、後ろから抱きついた。
「おかえり。待ってた。帝国どうだったの?」
「ああ、ただいま。得る物が多かったな。ところでランズベルクは?」
ポエルからしたら、マイトランドの最初に気になった人間が、ランズベルクであったことに腹を立てたのだろう。抱きついていた手を放すと、マイトランドの背中に蹴りをお見舞いして答えた。
「なんでいつもいつもランズベルク。ポエルのことは気にならない?」
これは明らかな盟約違反であった。しかしその違反を咎める者はここにはいない。
「あ、ああ、ポエルは今会ってるからな。会う前であれば気になりもしたが・・・。」
「そう。それならいい。ランズベルク、イブラヒムこの先にいる。」
ポエルは、マイトランドの気になると言う反応に、気分を良くしたのか、2人の場所まで案内した。
「ランズベルク!ただいま!待たせちまったな。すまん。」
「マイトランド!遅かったから心配したぜ!そのままとっ捕まっちまったんじゃねえかと思ってよお。」
2人は再会の言葉を交わすと、抱き合って再会を喜んだ。
その光景に、気分を害したのはポエルだ。
「ポエル。これがしたかったのに・・・。」
それだけ呟くと休憩を取りに木の上に登って行った。
「ところで、その服なんだ?帝国軍のやつらが着ていたヤツじゃねえか。早く着替えろよ。」
「うん、そうしたいのは山々なんだけど、この軍服、恐ろしいくらいに性能が良いんだ。」
マイトランドはウェスバリア、帝国どちらの軍服も着用している。性能が良いと言ったのは、防御力、伸縮性からであった。
防御力で言えば、軽く刃物で傷をつける様になでると、その違いが鮮明だ。
ウェスバリアの軍服は、なでると簡単に切れてしまうが、帝国軍の軍服は刺す、切るなどの行為を行わないと、ダメージを与えることが出来ない。ウェスバリア印は転んでひざがすりむけるのに対し、帝国印はノーダメージである。
伸縮性においては、ウェスバリア印は寝ころぶと、すぐにシワになるのに対して、帝国印はそんなことではシワはつかない。まさにアイロンいらずのノンアイロンと言っていいだろう。
軍服の説明を終えると、マイトランドは続けた。
「同じ素材で軍服を作ってほしいな。」
「上からウェスバリアの制服を着ればいいだろう?見つかったら怒られるぞ。」
「分隊長は何も言わなかったぞ?」
「そりゃそうだろ。お前のおかげで昇進が決まった様なもんだ。マイトランド様様だぜ?」
「なんだ、あの人一言も言って無かったぞ。そんなこと。」
「言えるかよ。新兵のマイトランド君のおかげで昇進できます。なんてよ。あの人の事考えたら・・・。ほら、プライドだけは高いだろ?」
そこまで言うと、イブラヒムが2人の会話を遮った。
「そのドワイト班長から事付で念話だ。」
「「え!?」」
2人が驚くのも無理はない。話を聞いていたのかと思う様な絶妙なタイミングである。
「本日警戒監視任務の交代を送った。交代後、速やかに分隊指揮所まで後退せよ。」
イブラヒムは、アダムスからの念話の内容をマイトランドに告げると、マイトランドが答える。
「今来たところだが・・・。了解だ。ランズベルク、交代が来るまでここを住みやすくしてやろう。」
「おうっ!」
ランズベルクは勢いよく返事をすると、それまでの疲れを忘れ、マイトランドの警戒監視所の設営を手伝った。
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