第88話 第72魔導砲兵旅団 2
交代の兵が、マイトランド達の待つ警戒監視所に到着する頃には、掩体、塹壕の設営、監視地域を網羅できる隠蔽された監視台も、3人で作った以前のものよりも強固なものに出来上がっていた。
予定通り交代の兵が4名は監視所手前まで来ると、交代の為の儀式を行うためにマイトランド達は整列した。
それを見て交代の兵が声を上げる。
「なんだ、階級章見てみろよ。こいつら全員新兵じゃねぇか。手柄を立てたってのは嘘か、偶然だな。」
「ああ、間違いない。こんなガキには無理だな。」
そう思うのも当然だろう。通常であれば、新兵には手柄を立てるのはおろか、生きて戦場から帰るのも難しいとされている。
「はぁ?ふざけんなよ?目が腐ってんのか?なら今ここでやってみるか?お前ら全員と俺1人でいいぜ?」
そう言い出したのはランズベルクである。交代の兵も言うまでもなくこれに反応する。
「やってやろうじゃねぇか!新兵の分際で!先輩兵士への口のきき方を教えてやる!」
一触即発の状況で、マイトランドが止めに入るより早く、交代の別の兵士が声を上げた。
「やめろ!お前達!仲間同士でいがみ合ってどうする!これを見てみろ。こんなものを作るヤツに手柄を立てることが出来ない訳があるか!」
そう言って、監視所を指差しながら、5人に割って入ったのは、年のころは30前後の兵士であった。兵士はマイトランド達に向き直ると、頭を下げた。
「すまなかったな。俺の教育が行き届いていなかった。非礼を詫びよう。俺はジョン・ブラウン軍曹だ。ジョンでいい。そっちの指揮官は?」
指揮官と言われると、反射的に皆マイトランドを見てしまう。マイトランドは、はあというため息と共に前に進み出ると、ジョンに答えた。
「私です。マイトランド・ラッセルと言います。階級は2等兵です。」
「そうか、ラッセル2等兵、お前達には、第72魔導砲兵旅団への随伴任務が出ている。直ちに分隊指揮所へと移動せよ!詳しくは分隊長に聞くといい。」
「わかりました。ラッセル2等兵他3名、分隊指揮所に帰還します。」
交代の儀式を終えると、纏めてあった荷物を持ち、分隊指揮所へと移動を開始した。
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そこからの4人は、新しい任務と聞いての喜びと、ランズベルクの支援魔法のおかげもあり、驚くほど速く分隊指揮所へと到着した。
アダムスとイブラヒムの間で移動の経過の連絡を取っていたこともあり、分隊指揮所に到着すると、ドワイト達は分隊員全員で出迎えた。
「よし、来たか。ご苦労だった。では、第72魔導砲兵旅団司令部に向けて移動する。」
ドワイトは出迎えの言葉をそう伝えると、マイトランド達は、汗を拭く暇もなく旅団司令部へと移動を開始した。
そこから1日。
マイトランド達は、司令部に到着する前に、普段見ることのできない光景を目にすることになった。
「マイトランド、あれはなんだ?」
5名1組で、クレーター状の穴を掘り、その中で訓練する兵士を見て、不思議そうに聞くランズベルクに、マイトランドは先日も得た知識を披露する。
「あれは、砲陣地だな。」
「砲陣地?なんだそれ?」
「お前なあ。先生にも習ったことがあるはずだが?」
「忘れたぜ。興味ないことはすぐに忘れちまうんだ。」
「うん、砲陣地と言うのはな・・・。」
砲陣地、それは砲班が魔導砲を発射するのに、最適な陣地を指す。
砲班は5名一組で、砲班長、魔導砲手、魔導詠唱手、測距手、対空手で構成される。
砲班長は、通常、下士官が選任される。砲班のまとめ役である。
砲手は、文字通り範囲魔法を発射する役割を担う。
詠唱手は、発射する魔法を詠唱する役割を担う。
測距手は、着弾する魔導砲弾を修正する役割を担う。
残りの対空手は、敵の撃ち返しなどに対し、これを警戒し魔法障壁を張ったり、敵空中戦部隊(ドラゴンや飛龍)などの襲来に備え、対空魔法で迎撃する役割を担う。
魔導砲は一部の場合を除き、上方に大きく弧を描いて敵に着弾する。すなわち、砲班は敵を直接見る必要が無い。
それら砲班が、身を隠しながら戦う為に構築する陣地が、砲陣地と言う訳だ。
「思い出したか?」
「あー。あん。なんとなく。」
ランズベルクの生返事に、マイトランドは首を左右に振ると、それ以上の説明を諦めた。
旅団司令部に到着すると、司令部前で整列。司令部外で待機していた兵士に、所属と階級を告げると、司令部より、口髭を携えた老齢の名将ヴァイトリングが、多数の幕僚を引き連れ姿を現した。
ドワイトは例に倣って大声で着任の挨拶をした。
「第2軍団、第29騎兵師団、第198騎兵連隊、偵察中隊、ドワイト曹長以下10名、旅団司令部付偵察分隊として、本日付で着任いたしました。」
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