第127話 トレーナ会戦 前編 8

 ウェスバリア歴212年1月1日

 これまでに簡易的な要塞化を完了した、カルドナ王国軍第4軍主力部隊指揮官アンプロージョ少将は、日の出を待って、陣地に第13銃歩兵師団から、第103銃歩兵連隊2700名連隊長チェザーレ・バルボ大佐を、防備に付かせると厳命した。


「これから主力部隊は12万8000名をもって敵主力部隊を迎え撃つ為出陣する。バルボ大佐は、守備隊長として、要塞化を更に進めると同時に、こちらに向けすでに先発した、義勇軍7個空戦中隊の受け入れ準備をせよ。」


「ははっ!この命に代えましても。」


「受け入れが終わり次第、魔導通信機を持たせよ。そこからの指示は司令部で出す。」


「承知しました。」


 バルボ大佐の返事を確認すると、アンプロージョ少将は全軍へ行軍開始の指示を出した。

 第4軍の行軍陣形は縦隊陣形。その陣容は先頭から第16銃歩兵師団、第25銃歩兵師団、第13銃歩兵師団、第22重装歩兵師団、第21弓兵師団、第17魔導砲兵師団、最後尾に第18銃歩兵師団が並んだ。

 両翼に、第5重装騎兵師団、第72騎兵師団が布陣すると、その少し下がった位置に第19弓騎兵師団を布陣させた。


 各隊の準備が完了すると、司令官アンプロージョ少将は、号令した。


「全軍前進せよ!」


 アンプロージョ少将の号令に、カルドナ王国軍第4軍は全軍がウェスバリアの侵略者達から祖国を守るため、意気揚々と平原中央へ向け進発した。


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 マイトランド有するキスリング支隊は、先行したマイトランド達に分隊員全員が集まると、各員に囁き声で指示を出した。


「第2軍本隊が交戦するまで、砲兵連隊が森に潜んでいることを悟られたくない。出来るだけ敵に悟られないよう敵偵察、斥候の各個撃破したい。その為に敵中隊規模の全容を知る必要がある。ランズベルク、ポエル以外は2人一組になって敵を探ってくれ。」


「「「了解!」」」


 マイトランドが指示を出すと、ランズベルクは全員を隠蔽し、敵中隊規模を探ることとなった。


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 ウェスバリア第2軍別働隊第2軍団はというと、午前にヴェルティエ中将の命令で、新年を全隊で祝うと、どこから持ってきたのか、第2軍団全員にワインが1口ずつ振る舞われた。


「これはうまい。今年最初のワインは、我々の勝利を確信できる味だ。」


「ははっ。閣下の仰せの通りにございます。我々の勝利は間違いないでしょう。」


 毎度の如く、首席参謀コッセル大佐がヴェルティエ中将を褒めちぎると、気分を良くしたヴェルティエ中将は、全軍に再び休息を取らせると、正午をもって進発するように全体に厳命した。


 休息を取り終わると、第2軍団は、再び進路を東へと取った。

 敵別働隊3万が陣地を構築したチェニスキー河西岸まではあと1日ほどで到達しようかと言う地点であった。


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 ウェスバリア第2軍別働隊第2軍団の正面に陣地構築を完了、陣地の迎撃準備を既に終えていた、カルドナ王国軍第125混成団ジョヴァンニ・メッセ少将は、この日の午前中、偵察斥候部隊から敵別働隊がすぐそこまで迫っているという報告を参謀から受けると、その全容を把握した。


「少将!敵別働隊数およそ8万であります!」


「なんだ?当初の報告では10~15万とあるぞ。別働隊は二手に分かれたのか?」


「いえ、敵規模は6万~8万ほどです。進軍速度から、敵は騎兵のみで構成された部隊と予想されます!我接敵まで約1日と思われます。」


「こちらに向かっているデ・ボーノの師団は、あとどれくらいで敵の後背に回り込めるのか?」


「はっ!第3軍デ・ボーノ少将の第8銃歩兵師団は、現在全速力で南下中。4日後に敵側面に達っするかと思われます。」


「そうか、河もある、渡河する騎兵相手に遅れは取らんだろう。陣地前面河の東岸に、銃歩兵残りの連隊を9列横隊で配置せよ。その後方に歩兵連隊を配置、最後尾に弓兵連隊を配置せよ。配置完了後の指揮は私が直接執る。」


「はっ。直ちに準備にかかります。」


 カルドナ王国軍第125混成団は、ジョヴァンニ・メッセ少将の指示通り、全ての配置を完了し、ウェスバリア第2軍別働隊である第2軍団をその目に捉えるまで全軍に休息を取らせた。


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 帝国軍第18軍団軍団長カール・グスタフ・ガーランド少将はカルドナ王国軍連隊規模の撃破、降伏の報を受けると、直ちに司令部にて特別召集をかけ、各部隊司令官を集めた。


 ガーランド少将は第58猟兵連隊、第1大隊長、カール・ハインツ・マイ少佐を称えると、第58猟兵連隊に再度の偵察指示を出した。


「おかしいとは思わんかね。敵は偵察部隊を撃破したマイ少佐の大隊に即座に増援として1個連隊を投入したのに、全滅しそうな連隊に後退指示を出さんどころか、増援も送らなんだ。何かあると思わんかね?」


「閣下、恐れながら申し上げます。装備の差から勝ち目がないと悟ったのではないでしょうか?」


 そう進言したのは、第58猟兵連隊連隊長ウルリッヒ・シュバルツマン大佐である。


「では貴官に聞こう、敵大隊と貴官の連隊が戦闘状態に陥るとする、その後膠着した場合、貴官であればどの様にいたすか?」


「はい。撤退もしくは、増援を要請します。」


「そうだろう。敵は撤退していたか?」


「しておりません。」


「そういうことだ。わかったかね?では第58猟兵連隊は直ちに偵察部隊を出し、敵情を探れ。」


「はい。失礼いたしました。直ちにかかります。」


 シュバルツマン大佐は、この後即座に偵察部隊を組織、これにより敵情を探った。

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