第143話 トレーナ会戦 後編 1

 堅固に守られた、敵カルドナ王国軍第12軍団ヴァンサン陣地は、帝国軍第17軍団ルフトシッフにより射弾の観測を受ける第18軍団である第18師団、第30師団、第53師団の各魔導砲兵連隊の3交代により、陣地ヴァンサンに1週間の昼夜問わずの砲撃を受けることになった。


 もちろんその間、カルドナ王国軍第12軍団も何もせず手をこまねいていた訳ではない。

 司令官である軍団長ソッドゥ中将は、第3軍司令部よりの援軍2個師団を陣地防御に配置すると、自身隷下の部隊を1個連隊、また1個連隊と帝国軍が潜んでいるであろう隣接地域へと、逐次投入した。


 これに帝国軍第18軍団ガーランド少将は、前衛の第18師団、第30師団をもって対抗、次々と繰り出される敵連隊規模の部隊を撃破殲滅すること成功した。


 帝国軍の度重なる砲撃、逐次投入した連隊が帰還せず、もう出撃の可能な部隊が無くなった頃に、ソッドゥ中将は自身の軍団の壊滅を知ることになった。


 1週間に及んだ帝国軍第18軍団とカルドナ王国軍第12軍団の戦いは、総勢5万7645名の帝国軍に対し、カルドナ王国軍は4個師団総勢6万9390で始まったが、戦力の逐次投入を繰り返すソッドゥ中将の愚策で、終わってみれば、帝国軍死者2320名、負傷者2728名であり対するカルドナ王国軍は、使者42520名、捕虜26800名、戦闘中行方不明者70名という帝国軍第18軍団の圧勝に終わった。

 

 瀕死のカルドナ王国軍第3軍増援2個師団3万1850名を魔導砲撃、銃撃により叩くと、ソッドゥ中将は自決により敢え無い最後を遂げ、副軍団長と増援の師団長は潔く降伏。

 これにより帝国軍は捕虜を1万に程増やすと、被害状況の報告を受けた。


 ウンベルト・ソッドゥ中将の戦死は、このカルドナ王国、ハイデンベルグ帝国、ウェスバリア三国の戦いにおいて最初の将軍の戦死であり、カルドナ王国軍第12軍団の壊滅とウンベルト・ソッドゥ中将の死は三国の誰もが知ることとなった。


 この時代の傷病兵は生存率が極めて低い。傷病兵は8割が兵として死に至ると考えてよい。この為、ガーランド少将は第17軍団を伝い、本営に通信した。

 帝国軍第18軍団は、ヴァンサン南方のバールに新たに陣地を構築すると、本営からの物資、兵の充足などの補給を受けるため、第18師団がヴァンサン西方を、第30師団が南方を固め、第53師団に即応態勢を取らせると、陣地の強化を図った。


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 さて、そんなことが起きているとは知らずに敵の猛攻を受ける、ウェスバリア第2軍第2軍団を率いるヴェルティエ中将は、敵の苛烈な攻撃を受け、中央にあった司令部を陣地後方に移し、クロワザ少将、ギルマン中将の別働隊を頼みの綱として、なんとか陣地を守り抜いていた。


 馬防柵を越え、敵の銃歩兵連隊である、先頭集団が馬防柵内側にある土塁を越え、塀を倒し、後は司令部まで遮る物は数百名の騎兵だけというところまで迫ると、ヴェルティエ中将は覚悟を決め、自決の用意をする。


「クロワザの言う通りにしておけば・・・。あの2個連隊の戦力さえあれば・・・。」


 そう言い、ロングソードを引き抜くとその首に当てた。


「未練はあるが・・・。さらば・・・。」


 ヴェルティエ中将は首に当てたロングソードの刃を引き抜こうとすると、ざわつく司令部外での異変に気付いた。


「何事か!」


「閣下!お味方の別働隊です!敵が引き返していきます!」


「おぉ!そうか!」


 クロワザ少将、ギルマン中将の師団は、シャプケ中佐の提案で、敵が勝利を確信したであろう瞬間を狙って突撃を敢行していたのであった。


 第125混成団により構築された陣地であったこともあり、陣地に詳しい。そのため、策、土塁、塀を越えたところで、司令部の位置を把握すると、ジョヴァンニ・メッセ少将は各隊に突撃を命令。

 これにより陣地深くまで侵攻し、縦長の縦隊になっていた第125混成団と第8銃歩兵師団を挟撃する形で、クロワザ少将、ギルマン中将の第19騎兵師団と第36騎兵師団がその縦隊に楔を打ち込んだ。

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