第5話 再会 1
光と化した蛍太郎は、意識が間延びしていくような感覚に襲われていた。
そんな中で、考えた事は、千鶴の事と、ルシオールの事だった。
特に千鶴が言った「ルシオールが蛍太郎を愛している」と言う事である。
許されるのだろうか?自分はあんなにも酷い言葉を投げつけた。あの時のルシオールの顔を思い浮かべる。
深い悲しみと、絶望。蛍太郎を求めるように伸ばされた手。
許されるかどうかでは無い。
ただ、ルシオールに会わなければいけない。
今度こそ、ルシオールを守らなければいけない。
守れなかった千鶴の分まで。
蛍太郎の体から光が消えつつあった。
周囲の空間が、奇妙な歪みを持つ景色に変わる。
やがて、景色の歪みが無くなり、蛍太郎は実体を持ち、地面に立っていた。
「ここは・・・・・・?」
蛍太郎は、恐らく地獄の第八階層に飛ばされて、そこからまた坂を登って地上に行くのだと思っていた。
しかし、今度は、どこかの建物の中に立っていた。
それほど大きくない一件の家で、家の外はすぐに町の大通りなのか、人々の喧噪が聞こえてくる。
建物の中を見回すと、どうも資料館の様になっている。
普通の小さな民家ながら、ガラスのショーケースに、説明書きされた何かが展示されたりしている。
「どこだ?」
窓から、開け放された玄関から家の外の様子を窺う。
不思議な事に、どうもここに見覚えがある。記憶と大分違うが、確かにここを知っている。
蛍太郎はショーケースの中を眺めてみる。
そして、その中の一つを見た時に、ここがどこなのか分かった。
それは木彫りの人形だ。
その人形は、蛍太郎とリザリエがグレンネックでルシオールを探していた時に数週間を過ごした借家があまりにも殺風景だったので、リザリエが申し訳程度に買ってきて飾っていた人形だった。
かなり色あせているが、間違いない。
「ここは、何の資料館なんだ?」
説明書きを見るが、エレス語で書かれているので、ほとんど読めない。
「でも、間違いなくここはエレスだ!グレンネック国のあの町だ!」
何でこんな所に?どうせなら、ルシオールのすぐ側に出現させても良いだろうに・・・・・・。
そう思ったが、一つの考えが浮かんだ。
第八階層と言い、ドレスと言い、ルシオールは蛍太郎の考えた事を形にする。
千鶴は「つなげる」と言っていたが、「つなげる」のにも、蛍太郎の記憶が必要なら、この場所は納得できる。
精神的に弱り、正気を失った蛍太郎が。、リザリエに襲いかかってしまった、後悔の残る場所だった。
「しかし、寄りによってここか・・・・・・」
自分が一番記憶にあったのは、幸福な時間を過ごした場所では無く、激しい後悔の残る場所だった事が皮肉で仕方が無い。
もしくは、ルシオールがこの近くにいるのかも知れない。
少なくともここはエレスだ。だったら、何とかなるのかも知れない。
蛍太郎は、思い悩む前に、建物から飛び出した。
そして、声の限りに叫んだ。
「ルシオール!!!ルシオーーールゥゥーーー!!!」
道を行く人たちがギョッとして蛍太郎を振り返る。
道には、リザードマン等の亜人もいるし、エルフもいた。
間違いなくここは異世界・・・・・・いや、未来世界のエレスである。
「ルシオーールゥゥーーー!!!俺はここだーーー!!ルシオーーールゥゥーーー!!」
蛍太郎は声の限りに叫んだ。
しばらく叫んでいると、さすがに周囲の人たちが止めに入る。
「$#*&#-+#!!」
何か言われたが、さっぱり言葉が分からない。
血の気が引いていく。
『ルシオールの加護が無い?!』
翻訳能力が失われている。言葉が分からない。
これは物理的な距離が遠いのか、心の繋がりが弱いのかでは無いかと推測されている。蛍太郎にもどっちだか分からない。
だが、どちらにせよ、蛍太郎にとっては恐ろしい事だった。
「ちょっと、待って!ゆっくりしゃべって!!」
詰めかかってくる人たちに、蛍太郎は必死に言うが、蛍太郎の言葉も向こうには通じない。
パニックになり、少し覚えたエレス語が出てこない。
「ルシオール??!!」
そう声が掛かった。
周囲の人も蛍太郎も、声の主を見る。
戦士だろうか?胸当てをしていて、腰にはすごそうな剣を差している。
焦げ茶の髪に、右目に大きな傷が有りふさがっている。
年は蛍太郎と変わらない青年だ。
その青年の後ろには、可愛らしいエルフの少女や、同じくエルフの戦士の男性、背の高いエルフの男、綺麗な女の人がいる。黒髪の少女や、露出の多い女の人も一緒にいた。
どう言う集団なのだろうか?
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