第12話 消失 2
「じゃあ、こっちからの報告な」
ヴァンがさっさと話題を転じる。
「まずは
酒を飲んで続ける。
「そんで、ルシオール嬢ちゃんを攫って飼い慣らそうとしていた偽物ケータローとリザリエは、俺がきっちり始末してきた」
ルシオールが息を飲む。
「そ、それは悪い事をした・・・・・・」
落ち込む様子に、蛍太郎が頭を撫でる。
「ルシィが気にする事じゃない。あいつ等は悪意あってやっていたんだ」
「でも、優しくしてくれた」
ルシオールは、酷い目にもかなり遭わされていたが、その事は気にしていないようだった。
「ヴァンが殺さなくても、キエルアには殺されていたでしょう。気にする事はありません」
ジーンもそう言うので、納得は仕切れないまでも、ルシオールは頷いた。
「さすがに魔導師は逃がしちまった。ってか、手に負えない。だけど、アズロイル公爵からは見限られたみてぇで、今では追手が掛けられている。捕まりゃ死刑は確実だな」
これで、キエルアはグラーダとグレンネックの二国に追われる事になった訳だ。
「ただ、これは長く続かないと思うぜ」
「と、言うと?」
ジーンが問う。
「あの公爵様は、もうじき死ぬ」
一斉に全員がヴァンの方を見る。
「いやいや!俺が何かしたわけじゃねぇ!随分昔から微量の毒を飲まされていたみてぇだ。それに暴飲暴食だな。すでに薬の成分が体臭に出ていたから、数ヶ月の命だろう」
それほど前からだとすれば、キエルアが取り入る前からと言う事になる。キエルアはその事に気付いていたのだろうか・・・・・・。
「あと、キエルアの弟子も、師匠を見限って、さっさと裏切って捜索隊に加わっているみてぇだからお笑いだ」
ヴァンは笑ったが、リザリエだけは神妙な顔つきになる。
リザリエにしてみたら、自分も裏切り者の弟子なのだ。それに、師匠に見いだされた事、教わった事を非常に恩義に感じている。
師匠の窮状を知って、胸が痛むのだ。
「まあ、ここであんたらの耳に入れとくべき報告は、こんなところかな」
ヴァンが報告を終えた。
ヴァンも知らない事だが、ルシオールの黒い玉が消えて、宇宙の破壊が防がれた瞬間、世界各地の創世竜の領域は、何事も無かったかのように、元の空間に戻っていた。
ただ、それにより、一部の地域には災害が起こっていた。
蛍太郎は考え込む。
「俺たちは、これからどうすれば良いでしょうか?」
ジーンに尋ねる。
するとジーンは微笑んで言う。
「一番良いのは、グラーダに戻る事だ。あそこなら君たちを歓迎するだろう」
蛍太郎は確かにその通りだと思った。
「後は、ここ南バルタから西に向かうと、やがて不気味な森ばかりの土地になる。『エッシャ』という土地だ。そこは不気味な森しか無い辺境の国だが、何も無いが故に過去に一度も侵略を受けた事の無い国だ。そこに移り住むのも良いかもしれないな」
なるほどと、蛍太郎は頷いた。
「いずれにせよ、決めるのは君たちだし、ルシオール殿なのだろう?三人でよく考えて決めると良い」
翌日、ジーンはヴァンと共に村を後にした。しばらく二人で旅をするようだ。
二人がいなくなった家で、蛍太郎はルシオールに告げる。
「ルシィ、聞いておくれ」
「あい」
ルシオールは頷く。
「俺はリザリエと結婚する」
「あい?!」
ルシオールは驚く。結婚の意味するところを知っているようだ。そして、淋しそうな、悲しそうな顔をする。
「でも、ルシィも一緒だ。三人で家族になろう」
言われてルシオールは複雑な表情を浮かべつつも頷いた。
「一緒だな?」
「ああ、一緒だ!」
「ならいい」
ルシオールに伝えると、蛍太郎はすぐに近くの町に行き、結婚式の準備に取りかかった。
花を買い、ドレスを買い、南バルタ方式で、イヤリングを買った。
村人に振る舞う酒や料理の手配もした。
これは入隊時に受け取った金と、ヴァンがこっそりくすねてきた、退役金である。相場は分からないが、多分かなり法外な金額を貰っているだろう。
準備が整い、三日後にヨーデン村で結婚式を挙げる事になった。
村人たちも、快く思ってくれて、このままここに住めば良いとまで勧めてくれていた。
それについては、まだ方針は決まっていないが、蛍太郎としては、やはりもう少し世界を回ってみたかった。
ルシオールの為でもあるが、蛍太郎自身が、この異世界を楽しみたいと考えていたからである。
蛍太郎も、ルシオールと合流して、心の健康を取り戻し、体の健康も取り戻しつつある。
もう少しのんびりしたら、旅に出ようと考えていた。
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