第5話 再会 5
王城に着くと、蛍太郎の事を大勢の者たちが出迎えた。
グラーダ国王の事はすぐに分かった。グラーダ二世とよく似た顔をしている。
彼らは、列を成して待っていて、カシムに連れられて、登城するや、一斉に片膝を付いて、蛍太郎に対して頭を垂れる。
「ええ?!ちょっと?」
蛍太郎が戸惑う中、これまで一緒に旅をしてきたカシムたちまで、その場に片膝を付く。
「お、おい、カシム」
蛍太郎は慌てる。
すると、国王が頭を垂れたまま言う。
「お待ちしとぉりました。ご無事のご帰還、お祝い申し上げます!!」
多分、流暢なアズマ語で国王が言う。やはりちょっとおかしな方言になっている。色々な方言が混ざっているのだろう。イントネーションもおかしい気がする。
これまでの道中で、カシムには標準語を教えていたので、カシムはかなり標準語で話せるようになっていたが・・・・・・。
「こちらにおいでぇなしゃりませ。奥の方がお待ち申しとぉりますぇ」
「は、はい」
蛍太郎はそう返事をすると、チラリと新しい友人であるカシムを見る。
だが、カシムは顔を伏せたままだった。
仕方なく、立ち上がって蛍太郎を先導する国王について行く。
巨大な城は、外から眺めても美しかったが、中の装飾も豪華で美しかった。かなり天井の高い、道幅も広い廊下を通っていく。
国王を先頭に、蛍太郎を取り囲むように騎士が続き、その後ろにも大勢の人がぞろぞろ付いてくる。
そして、階段を上がると、背後に付いてくる人間が一気に減る。
更に階を上がると、蛍太郎の周囲を四人の騎士が囲み、その後ろには三人だけになった。
前を行く国王が、振り返って蛍太郎に話しかける。
「奥の方は、五階の最奥におらっしゃりますゆえ、お疲れでしょうが、堪忍下さい」
確かに、階段の段数も多いし、城は広いので、かなり長く歩いている気がする。
ただ、三階から四階までの階段はそれほど長くなかった。
そして、いよいよ五階である。
騎士も、その他付いて来た者たちも、四階までで、五階には国王と二人で昇る事になった。
「こちらからは、王族の専用の階になっております」
国王は、丁重に蛍太郎を案内する。
「あ、あの。この奥にルシオールがいるんですか?」
蛍太郎は、怖ず怖ずと尋ねる。
すると国王は立ち止まり、振り返る。
「闘神王」と呼ばれ、周辺諸国からは畏れられている苛烈な国王とのことだが、確かに厳しそうな表情をしているが、同時に、淋しそうな表情で一つ頷いた。
「そうです。奥の方は、ずっとおまはんさまを待っとおしはったんぇ」
そして、再びせを向けて歩き出す。
屋上の中庭に出て、渡り廊下を進むと、使われていなさそうな、豪華な棟に行き当たる。
国王は、鍵を取り出して、大きな扉に掛かっている鍵を外した。
そして、扉を開けると、更に奥に進んでいく。完全に使われていない部屋の扉をいくつも通り過ぎる。天窓があるので、しばらくは明かるいが、その奥は暗がりになっている。
その暗がりの手前で、国王は足を止めた。
そして、とても淋しそうな顔をして、蛍太郎を見つめる。
「ケータロー様。どうか、奥の方を、よろしゅうおたの申します」
国王は頭を下げると、つっと、元来た道を帰って行ってしまった。
「・・・・・・俺一人で進めって言う事か」
蛍太郎は呟く。
気になるのは、あの国王の表情だった。まるで、母親に捨てられた子どものようだった。
「何が何やら、さっぱりだ」
この国の連中が、蛍太郎に対して取った態度もそうだし、国王の表情もそうだし、この一番奥にいるというルシオールに関してもだ。
これだけ近づいても、蛍太郎にはルシオールの加護は感じられないし、繋がりが見いだせない。
近くにいる事すら本当かどうか分からない。
リザリエの事で、カシムが口を閉ざした事も不可解だった。
この四十六年で、一体何があったのか?それに、今のルシオールの状態はどうなっているのか?
考えてみれば恐ろしかった。
ルシオールが、蛍太郎に対して腹を立てているならそれでいい。許さないのならそれでもいい。ルシオールに殺されてやるくらいは構わない。
それよりも遥かに恐ろしいのが、ルシオールが蛍太郎を忘れていたり、必要としていない事だった。言葉を交わす事が出来ないのが恐ろしかった。
急にこの先に進む足が重くなる。
だが、のろのろとでも、足は廊下の先に進んでいく。
やがて、突き当たりの大きな扉の前に行き着いた。
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