第5話 再会 4
しばらくして蛍太郎は、少し落ち着く。
悲しい気持ちはそう簡単に消え去りはしないが、悲嘆に暮れてばかりいても何も始まらないからだ。
「ごめん。もう大丈夫だよ」
蛍太郎が無理に笑顔を作ると、ファーンが軽く蛍太郎の頭を叩いて、ハンカチを渡してくれた。
何か言っていたが、蛍太郎には分からない。
ただ、カシムがそれを聞いて、笑顔で頷いてくれたので、励ましてくれたのだろう。
蛍太郎が落ち着いてきたところで、カシムが話を続けた。
「さっき、『ルシオール』と言うたらいけん言うたけどな、それには理由がある」
そう言われて思い出したが、何でだろうか?
首を傾げる蛍太郎に、カシムはニヤリと笑って教えてくれた。
「今んエレスでは、そん名前は、最凶におっかない怪談になっとるんよ。あてぇも未だにおっかないわ」
「は?怪談?」
蛍太郎の世界で言えば、「花子さん」とか「メリーさん」みたいな物か?その怪談の内容は気になる。
「それと、もう一つ。その存在は、グラーダ国最大の機密にもなっとんのよ。そやから、解禁するまでは口に出さんときぃ」
グラーダ国?
「じゃ、じゃあ、『ルシィ』はグラーダ国にいるのか?」
蛍太郎は静かに頷いた。
「幸い、あてらもこれからグラーダに帰るんよ。せやからケータローを一緒に連れて行ったるし、『ルシィ』にも会わせたる」
蛍太郎はトントン拍子に進む話に、驚きつつも安心した。
すると気になるのがリザリエの事だ。
「・・・・・・あのさ。カシムはリザリエって人を知っているかな?四十六年前の魔導師なんだけど・・・・・・」
さすがに知らないだろうと思いつつ尋ねる。
すると、カシムも周囲の仲間たちも、目を丸くする。
誰かが何かを言う前に、カシムがそれを止めた。
そして、少し考えてから、首を振った。
それは、「知らない」という事では無く、「自分で確かめろ」という事なのだろう。
つまりは、「もう聞くな」と言う意志の表明だった。
カシムの目を見れば分かるが、意地悪では無く、彼自身にも苦悩の色が見えていた。
蛍太郎はそれを察して、小さく頷いた。
それから、色々話をしたし、ランダはとにかく地獄の話、千鶴の話を聞きたがった。
最終的に、深夜になって、ようやく解散となった。
多分、道中にも沢山話は出来るだろうからとのカシムの判断である。
そして、余談で驚いたのが、もう一人の戦士、ファーンは、男では無く女性だった。蛍太郎はうっかり口を滑らさないで良かったと思った。
旅はスムーズに進んだ。
この四十六年の間に、エレスの世界が大きく様変わりした事を知らされた。文明が大きく発展し、世界の勢力図も大きく変わった事が分かった。
そして、これから、世界の存続を掛けて、地獄勢力との戦争が起こるだろうという事も分かった。
これは千鶴にも言われていた事なので、間違いなくそうなるだろうと理解できる。
地獄勢力が勝利したら全宇宙がどうなるかも分かっていた。その点は、多分、蛍太郎の方が詳しいし、イメージもしやすいだろう。
更に、旅の途中では何度かモンスター退治を行った。ゲームとかに出てくるゴブリンとかが相手で、蛍太郎も装備を買い与えられて、戦闘に参加した。
モンスターがどんな物か説明されたが、命を奪うのはやはり抵抗があった。
しかし、幼いミルまでが、懸命にその辛さと向き合って戦っているのだ。蛍太郎だけが逃げているわけには行かなかった。
それに、地獄勢力との戦争になったら、蛍太郎は参加しなければいけないし、参加しない訳にはいかなかった。千鶴が愛したこの宇宙を救うためには、出来る事を全力で取り組みたかったからだ。
だからモンスターとの戦いにも参加させて貰ったのだ。
ミルはとにかく積極的に蛍太郎に関わってくるので、エレス公用語も、少しずつ覚えていった。簡単な挨拶とかなら、普通に言えるようになってきた。
カシムとはかなり親しくなった。年齢が地球換算すると同じ年だった事もあるのだろう。
そして、行く手に巨大な白い城が見えてきた。
カシムの説明によると、あれが今のグラーダ国の王城なのだそうだ。場所も違い、海にほど近い所にある。
その海も穏やかで、ルシオールに見せてあげたかった美しい青い海だった。
話には聞いていたが、かつては砂漠の小国だったグラーダ国は、今では世界最大で、最強の国になっているのは本当のようだ。
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