第11話 魔性 6

「何をやってるんだ!!」

 アズロイル公爵が怒鳴る。

 キエルアは、ジーンの登場に不快そうに唸った。

 しかし、これは好機でもある。

 混戦の中央には、あの最も恐るべき敵がいるのだ。目立つ白銀の鎧のあの男は良い目印にもなる。

 あそこに向かってルシオールの力を試せば良い。

 ルシオールの力の実験になるし、己の敵もこの世から消し去る事が出来るのだ。

 キエルアはニヤリと笑う。

「しかし、少し近いな・・・・・・」

 壊走して混戦状態の兵士たちは、キエルアのいる観戦台に近付いてきている。

 あまり近付き過ぎる前に実験した方が良さそうだ。


「ケータロー。ルシオールを使うぞ」

 キエルアが、恐怖にオドオドしている青年に声を掛ける。

 青年はビクリと身を震えさせると、小刻みに頷いた。

「は、はい!はい!」

『長くは保たんな』

 そう思いつつ、キエルアは標的を指示する。

「わかりました」

 青年は答えると、嫌そうにルシオールの側に行き、耳元で囁く。

「ルシィ。あのキラキラ光る、馬に乗った奴を攻撃しろ」

 言われて、ルシオールは悲しそうな、辛そうな表情を浮かべる。

「人を傷つけたらいけないと言われた」

 ルシオールは小さく呟く。

「誰にだよ!」

 青年はルシオールの胸ぐらを乱暴に掴む。

「ケータローに・・・・・・」

 ルシオールは悲しそうに言う。

「ケータローは俺だ!!お前が俺の言う事を聞かなかったら、俺は、ケータローは消えて無くなるぞ!!お前の事を嫌いになるぞ!!」

 叫んで、ルシオールを床に叩き付ける。

 キエルアは、驚きの表情でそれを見ている。

『すでに壊れているのか』

 同時に、ルシオールの反応にも興味を惹かれた。

 この魔王は、もしや無害なのでは?必要以上に恐れていたのかも知れない。

「い、嫌だ。私を嫌いにならないで欲しい・・・・・・」

 リザリエに助け起こされながら、ルシオールが呟く。

「じゃあ、ケータローの言う事を聞けよ!!」

 青年が口角から泡を吹き出しながら叫んだ。

「あ、あい・・・・・・」

 

 呟いて、ルシオールは手を上げて、戦場中央で戦う白銀の騎士に向ける。


   ◇     ◇


 地獄が騒いだ。

 第六層の全ての魔王が、第七層の、全ての力ある魔物が、赤黒い天を見上げて悲鳴を上げた。


 地上に棲む十一柱の創世竜が恐怖した。

 高次元の存在足る創世竜たちは、すぐに自分の領域を高次元に転移させて避難した。

 大地には、海には、その領域があった空間だけ、ぽっかりと空洞が出来上がる。


 精霊界のハイエルフの長老たちは異常に気付いたが、それをそのまま受け入れるしか無かった。


 神や魔神は、この異常には気付けなかった。



 さらに、エレスのある惑星より、遥か彼方の星に棲む、力ある者たちも、宇宙全体の危機に気付いたかも知れない。

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