第3話 第七層 4
「それで、その悪い魔王たちが集まって、深淵を探ったら、深淵が山里君を探しているのに気付いたの」
蛍太郎は、あぐらを解く。立ち上がったような感じだが、落下中である。
「何で俺なんだ?!」
「・・・・・・分からないけど、あたしとしては、山里君が好きなんじゃ無いかなって思うわ」
「ええ?!でも、何でそんなにピンポイントなんだ?!」
広い宇宙で、平行宇宙すらあるらしいのに、何でルシオールは自分に固執しているんだ?
「あたしが山里君を好きなのと同じ理由じゃないかしら?」
千鶴は平然と言う。「人を好きになるのに、理由は無い」と言う事だろうか。
「でもそれで、俺を第八階層に連れて来る為だけに、ルシオールはみんなを巻き込んで、あんな恐ろしい事を起こしたんだな・・・・・・。田中さん、巻き込んでごめん・・・・・・」
蛍太郎は唇を噛みしめた。申し訳なくて、千鶴の顔をまともに見られない。
すると、千鶴が慌てて首を振る。
「ち、違うのよ、山里君!」
「え?」
蛍太郎が顔を上げる。
「確かに巻き込まれちゃったんだけど、あれは魔王たちが協力して地上に干渉してきたの。魔王と言えども、地上にあれほど干渉するのは大変危険な事で、現に数千の魔王が命を落としているの。あれは、深淵の望みを妨害するための魔王の悪行(いじわる)だったの」
蛍太郎は愕然とする。
「あれは・・・・・・ルシオールの仕業じゃ無かったのか?」
千鶴は頷く。多分、蛍太郎は深淵を大切に思っている事を見抜いているのだろう。優しく、いたわるような眼差しを蛍太郎に向ける。
「あの時の深淵は、まだ眠りの中にいたから、今みたいに、山里君を守っている道を作るだけで精一杯だったと思うの。今も、かなり無理してこの道を作っているんじゃないかな?」
「何で?・・・・・・俺が『帰りたい』って言ったからか?」
千鶴は頷く。
「でもね。地球はもう無いんだよ、山里君」
衝撃的な事実を千鶴が告げる。
「あたしも詳しくは知らないけど、二万年前には、もう地球は無くなったの。山里君がいた『エレス』は、その地球人が移住してきた、全然別の惑星なの。そこで、地球人が馬鹿な実験をしたせいで、今、地獄との強い繋がりを持ってしまった危険な惑星よ」
次々、衝撃的な事ばかり言われて、蛍太郎は頭が整理できない。感情も追いつかず、落ち込んで良いのか、傷ついて良いのか、悲しんで良いのか・・・・・・。
「・・・・・・俺にとっては、あの大島から一年と経っていないのに・・・・・・」
蛍太郎は、何が何やら分からない。
ファンタジーかと思ったら、今度はSFだ。
エレスの人たちが地球人類が移住してきた子孫だなんて・・・・・・。
「SF映画みたいよね」
千鶴が呆れたように言う。全く同じ感想を持っていたので、思わず千鶴と目を見合わせてしまう。
そして、互いに照れたように笑う。
「深淵は時間そのもののエネルギーの集合体なの。だから、時間を越える力があるの。ただし、それは、自分と深く関わりのある時間にだけ。理由は分からないけど、エレスのあの時間は、深淵にとって、特別な意味がある時間だったようね」
「時間エネルギー?」
千鶴が頷く。
「本来は高次元の力なの。だから、今はまだ四次元世界に縛られている深淵も、本当は遥かに高次元の存在なんだと思う。それとね、エレスの人たちは、みんな禁断の時間エネルギーを使っているの。だから、地獄と繋がりやすくなっているのね」
「それって、魔法の事?」
「そんな感じみたい」
千鶴の説明でも、エレスが全宇宙でも希で、きわめて危険な状況になるのだと察せられた。
「どうにか出来ないのかな?」
自らが捨ててきた異世界なのに、蛍太郎は心配になった。
「もう無理みたい。だから深淵がいるのよ」
「ルシオールが?」
蛍太郎は驚くと、千鶴は小さな胸を張る。
「あたしね。『予言の魔王』なんて言われているのよ」
「予言って、ノストラダムスとかの?」
蛍太郎は、世界一有名な予言者の名前を言うと、千鶴はクスクス笑った。
「不確かだけど、なんとなく未来が見えるの。それも、ノストラダムスのように、詩の形で」
予言と聞くと、蛍太郎ならずともワクワクする物がある。
「だからね。山里君が、今日ここに落ちてくる事も分かったんだよ!!」
嬉しそうに千鶴が言う。どう見ても魔王には見えない。
楽しみにしすぎていて、一年以上前からここにいた事は言わない。
ところが、そんな千鶴が、チラリと背後を確認すると、「ちょっと待っててね」と言って、一瞬で蛍太郎の視界から消えていった。
十秒程経った頃、どこか遥か遠くで、とてつもない爆発が起こった。赤黒い靄が、一瞬吹き飛んで、青白い光の球が眩しいくらいに輝くのが見えた。
その直後、千鶴がいつの間にか蛍太郎の前に戻って来ていた。
「ちょっとお邪魔な魔王が来たから・・・・・・」
恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむく。
今の一瞬で、魔王を倒してきたようだ。千鶴は自分で言うように、そして、蛍太郎が思っていたよりも、遥かに強大な力を持っているようだった。
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