第154話 テルミナ帰還
アズランが王宮でマリアのそばにいる間、俺とトルシェはテルミナにいったん戻って拠点にいるリンガレングを連れてくることにした。ついでに新鮮な肉などの食材を食糧庫から補給して、洗濯機ゴーレムでは汚れの落ち切っていない衣服をワンルームで
何もアズランに告げずに王都を後にするわけにはいかないので、トルシェ2号に
大通りに面した店で塩コショウの
「テルミナに向け、タートル号、
もちろんタートル号はテルミナの位置を知らないので街道沿いに進んでいくことになる。タートル号なら放っておいてもこれでおそらくテルミナには到着できるはずなので、まだ昼前だったが早々と俺とトルシェは風呂に入ることにした。風呂に入ってさっぱりしたら酒盛りだ。
入り口の前の脱衣籠に入れた俺の衣服は黒ちゃんが風呂場の中の洗濯ゴーレムを使ってさっそく洗濯してくれている。トルシェがそこらへんに投げ散らかした衣服もちゃんと拾って洗濯してくれるようだ。黒ちゃんはマッパなので俺たちの入っている風呂場の中で作業しても問題ない。今回から石鹸を買っているのでそれを少し削って洗濯ゴーレムに入れているようなので、少しは洗濯物がきれいになるかもしれないが、そろそろ、衣服も補充したいところではある。
俺は体を軽く洗ったあと、体も洗わず湯舟に飛び込んでいたトルシェの隣に座り、
「ふー!」
別に疲れていたわけでもないが息を大きく口から吐き出した。
「そういえば、こうして二人きりになるのも久しぶりだな」
「あの頃はまだダークンさんはスケルトンでしたから、懐かしいですね。もうずいぶん昔のような気がするけどそんなに昔ってわけじゃないんですよね?」
「そうだな。いろいろなことがあってずいぶん楽しかったから、かなり昔のことに思えるな」
「あの時ダークンさんに助けてもらっていなければわたしはあの迷宮の中で死んでたんですものね」
「そういうこともあったな」
「本当にありがとうございました」
トルシェが急に殊勝になってしまった。
「こっちこそ仲間ができてうれしかったからな。そういえばナイトストーカーもあの頃手に入れたんだよな。前の持ち主がどんなヤツだったかわからないが、ルマーニで家出したところをみると、元の持ち主はルマーニから流れてきたヤツだったのかもな?」
「元の持ち主を探して?」
「いや、ゴブリンのガラクタの中にナイトストーカーがあったのは、元の持ち主が迷宮の中で死んじまったからだろう。まあ、ナイトストーカーにしか分からない理由があったんだろうな」
「ダークンさんの鎧はこれからどうします?」
「なくても俺自身は平気だが、普段着だとすぐ汚れるしすぐ傷むから何か適当なものをそのうち
「でも、ダークンさんの鎧の着脱能力はナイトストーカー関係なく、オブシディアンスケルトンナイトの能力だったんじゃ」
「あれ? そうだったっけ? すっかり忘れてた。どんな鎧でも装着、収納ができるのなら便利だな」
風呂から上がって軽くタオルで体を拭いて、ドライヤーゴーレムに乾かしてもらう。トルシェは濡れたまま自分で自分にドライヤー魔法をかけていた。
直ぐに髪まで乾いたので、
黒ちゃん、すごいよ。メイド最高だぜ。そのうち黒ちゃんにメイド用のエプロンとプリムを買ってやろ。ただ、スーパーマッパの裸エプロンなのが少し痛い。プリムも頭がツルツルてんの黒ちゃんだと糊でくっつけるしかないのか?
王都からテルミナまでの距離は道なりに五百キロだったはずなので、到着まで十七時間、もうあと十六時間か。ちょっと中途半端だが、サー飲むぞー!
そして翌朝。
そろそろかと思って前方のスリットから眺めていたらテルミナの駅舎が見えてきた。タートル号であまり街に近づきすぎるとひと騒動起きそうなので俺たちは早めにタートル号を降りた。タートル号はゾウガメモードになり、黒ちゃんはサティアスオウムの鳥かごを持っている。もちろんトルシェも服を着ている。一応羞恥心は残っているようだ。
朝日を浴びてキラキラと黒光りする黒ちゃんがかなりのインパクトがあるようで、道行く連中は俺たちをあからさまに避けていく。こういった状況も久しぶりで新鮮だ。オラオラオラオラとかいって冒険者ギルドのホールの中を行ったり来たりしていたころが懐かしい。
俺自身はテルミナの道も王都同様全く分からないのだが、さすがにトルシェは道を覚えているので、安心して迷宮入り口まで歩いていくことができる。テルミナを出て王都に向かった時は街道に賊が現れるということで、荷馬車など街道を通っていなかったのだが、今歩いている通りをひっきりなしに荷馬車が行き来している。
以前、魔王軍を撃退するため、テルミナの南区画がある人物によって過剰に破壊されたのだが、荷馬車に積まれた建材などをみると、その復興需要なのだろう。スクラップアンドビルドとでもいうのか、この街の民需に貢献したトルシェがいつも通り涼しい顔をして、
「ダークンさん、荷馬車が通りをひっきりなし行き来して、テルミナは景気良いようですね。街に活気があるとウキウキするなー」
通り過ぎる荷馬車をみながら張本人が能天気なことを言う。
そのまま街の通りをダンジョン入り口に向かって歩いていたら、妙なヤツが湧いて出てきた。四人組のチャラチャラした二十歳くらいのあんちゃんたちだ。冒険者という感じではないが一応腰には短剣をぶら下げていた。やはり冒険者なのか?
よく見ると、首から木札を下げている。やはり冒険者だったようだ。昼間からダンジョンにも潜らずこのあたりでブラブラしているところをみると冒険者登録しただけの素人なのかもしれない。
今日の俺は私服なので、そこらの
「よう、お姉さん、ここらで見ない美人じゃねーか? 一緒に俺たちと遊ばねーか?」
俺が何も言わない前にトルシェが一歩前に出て、
「何か用かな?」
「顔だけ見れば相当な美人だが、出るところ出てない子どもにゃあ用は無いの。ガキは引っ込んでろ!」
あちゃー。言っちゃったよ。それだけは禁句だよ。こいつら死んだな。
そう思っていたら、あんちゃんズは俺たちの後ろにいた黒ちゃんに気づいたようだ。素人目には黒ちゃんはツヤもあるし迫力あるからな。その後ろのタートル号はゾウガメモードなのであまり迫力はない。
「うっ! おまえたちは何なんだ、何連れて歩いてんだ?」
「黒ちゃんがどうかしたかな? 黒ちゃんは見た目はこうだけど、れっきとしたわたしたちのメイドなの。文句あるわけないよね?」
あんちゃんズのリーダーらしき男に向かってトルシェがさらに一歩詰め寄った。
往来で騒いでいたら、見物人が集まってきた。その連中も黒ちゃんの雄姿に一歩引いているようだ。荷馬車も通りが塞がれたせいで、何台も立ち往生している。
相手を威嚇して生きてきたような手合いは、舐められたら終わりだ。しかも見た目は少女。その少女に怯んでいてはテルミナではもう誰にも相手されなくなってしまう。
さあ、どうする? さあさあ、どうする? はっきり片を付けてやろうか?
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