第51話 出てこい出でてこい


 結局トルシェのデタラメ攻撃でやってきた三人は沈んでしまった。肉弾戦専門で相手に触れることができなけりゃ勝ち目があるわけないものな。


 三人が三人ともうつ伏せになって床に倒れているのだが、かぶっていたフードがズレて横向きになった顔からは白目をいて引きつった顔が見えた。


 生きているのか死んでいるのかは分からないが、息はしていないようなので、生きていたとしても蘇生してやらないとそのうち死んでしまうだろう。


「トルシェの新しい魔法、なかなか面白かったぞ」


「良いでしょ。今のは相手が刃物を持っていなかったので、電撃が飛びにくかったけれど、もしも刃物を持ってたら、あんなもんじゃなかったですよ」


「ほう、よく考えられた魔法じゃないか。トルシェは魔法にかけてはまさに天才だな」


「エヘヘ。それほどでもー」


 近接戦特化の魔法という意味では相当すごい魔法だと思うが、そもそも近接されるような状況は俺たちが相手と遊んでやっている時くらいなのでそうそう出番はないだろう。いやそうでもないか。けっこう相手と遊んでやっているから出番はそれなりにありそうだ。



 誰もいなくなったホールの中で、俺がトルシェをおだてていたら、今度は二階から、金糸で模様の入った赤いローブを着たつるっぱげのおっさんが後ろに無地の赤いローブを着た四人ばかしの男女を引き連れて階段を下りてきた。やっと真打しんうち登場か?


「君たちか? 魔術勝負したいとか玄関ホールで騒いでいたのは」


「そうでーす。わたしでーす。弱っちいのが三人出て来たので倒しましたー。息してないから、死んでるかもしれないけど、いちおう蘇生そせいは試してみたらいいと思うよ」


 さすがトルシェ、あおりながらも優しさを見せている。これも『慈悲』権能を持つ俺の眷属だからに違いない。


 トルシェの今の言葉を聞いたつるっぱげのおっさんが後ろに何か言ったら、一人が階段を駆け上っていった。救護班きゅうごはんだか救護隊を呼ぶのだろう。今回俺たちはここの連中を皆殺しに来たわけではないので半殺し程度のケガで済むだろうから、これから先、救護班は大忙しになるかもしれないな。


「おじさんが相手になってくれるのかな?」


「良いだろう。その代り君の生死は保証しないぞ。わたしは手加減が不得手なものでな」


「そんなの当たり前。じゃあどこでり合う?」


「裏に広場がある、そこまで来てもらおう」


「良いよー」




 つるっぱげのおっさんたちの後について階段の裏を抜けると、建物の裏手に出た。そこはかなり広い広場になっていて見た目は運動場だ。何のために庭園などにせず更地にしているのか分からないが、こっちの方が俺たちには都合がいい。


 俺たちのいた本館?の他に広場の周りに背の高い建物、いわゆる塔が何本も建っていた。魔術師の塔などが建っていると本格的に見える。塔は基部の大きさが十メートル四方ほどの四角い塔で、高さが五十メートルほどある。ここらでは相当高い建物だ。王都にこれほど背の高い建物はないだろう。


 試合の方はトルシェに任せておけばいいので、俺は土地の広さなどから大神殿の構想を練ることに専念することにした。


「それでは試合を始めよう。わたしと君が戦う前に、まず君はわたしの後ろの者たちを倒してから、そういうことでいいかな?」


 先ほど引っ込んでいた男も戻って来たようで、全部で子分は四人になっている。その四人がおっさんの前に出てきた。トルシェとの距離は三十メートルほど。今度は遠距離での戦いがしたいらしい。


「もちろんいいよ。お互い殺し合いということでいいんだよね?」


「もちろんだ。ところで君の後ろにいる二人は何なのかね」


「ただの見物人と思ってくれていいよ。ただし手は出さない方がいいと思うよ」


「それならそれで構わないがね。それではそろそろ始めていいかな?」


 その言葉で、つるっぱげのおっさんの子分の四人が両手を前に出して手のひらを広げた。おそらく全員何らかの魔法は詠唱済みで試合開始後に一斉に撃ってくるのだろう。当然だよな。



「それでは、始め!」


 その声と同時にトルシェに向かって三つのファイヤーボールが撃ちだされた。そして、自分たちの前に炎の壁、ファイヤーウォールを展開したようだ。


 ゴゴゴーー。


 と音を立ててトルシェに迫るファイヤーボール。トルシェに命中した時、近くに人がいればおそらく爆発のとばっちりを受けることは確実だ。


 俺とアズランにとってはファイヤーボールの爆発などは眩しいだけの代物なのでどうでもよいのだが、こいつはワザとだよな。


 だが、そういったところは俺としては好感が持てるぞ。そのうちタダの悪あがきだと気付くだろうがな。



 飛んでくるファイヤーボールを迎撃するため、トルシェは小型のファイヤーボール三個撃ちだした。


 それと同時に、高速電撃魔法のサンダーを撃ちだしたようで、トルシェのファイヤーボールが相手方のファイヤーボールを迎撃する前に、展開されていたファイアウォールを破壊してしまった。


 トルシェの放ったファイヤーボールは相手方のファイヤーボールよりも圧倒的に高速だったため、迎撃位置は相手側にかなり近い。相手方は防御魔術のファイヤーウォールが破壊されてしまっていたため、近くで爆発したファイアボールの被害を受けて衣服から露出していた顔や手が軽いやけどをしたようだ。


 とはいえ、その程度の爆発が致命傷になるわけでもないので、何とか次の魔術を使おうと詠唱を始めた。


 つるっぱげのおっさんうわやくの前で労働者したっぱ詠唱えいしょうすることは仕方ないが、もう実力差は分かっているのだろうから、ハゲは見捨てて君たち逃げだした方がいいんじゃないか?



 しかし、彼らは与えられた職務に忠実なようで、今度は四人で力を合わせた合体ファイヤーボールを撃ちだしてきた。今度のファイヤーボールは一抱えもある。小型の魔術では打ち消せないとでも思ったのだろう。涙ぐましい努力だ。


「トルシェ、ザコは命令されて戦っているだけだろうから殺さないでやってくれ」


了解りょうかーい


 トルシェは今度はギラギラと青白い光が不気味なソフトボール大のファイヤーボールを右手のひらに作りだしてそれを相手のファイヤーボールにぶつけた。


 迎撃した位置は、相手方との中間地点辺りなのだが、大爆発が起きてしまった。起き上がりこぼしには定評のあるトルシェはその爆風の中後ろにコロコロと転がってダメージ皆無で起き上がった。今回は揺り戻しの風は吹かなかったが、広場に面していた建物の窓がほとんど建物の中に向かって吹き飛んだようだ。俺自身はアズランを爆風で吹き飛ばないように抱き寄せて、ぐっと腰を落として爆風に耐えた。


 相手方の四人にはトルシェのコロコロ式対爆マニューバはできないようで後ろになぎ倒されてしまい、うめいていた。死んでないから問題なし。



 つるっぱげのおっさんも今の爆発に巻き込まれたが、子分たちの後ろにいたのと尻餅をついて後ろにコロがったため、ケガはしていなかったようだ。このおっさんデキるな。

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