第52話 悪魔召喚


 トルシェは、コロコロマニューバですくっと立ち上がり、転がったまま立ち上がれないつるっぱげのおっちゃんに対し、


「四人は倒しちゃったけど、これから、引き続きおじさんと勝負でいいでしょ?」


 おっさんは何とか起き上がったものの何も返事をしない。


 これまでのトルシェだったらさっさと皆殺しにしてしまっているはずだが、今回は嫌に馬鹿正直に相手をしている。


 そうこうしていたら、広場の周りに人が集まりだした。そういうことか。


「確認するけれど、わたしがおじさんに勝ったら、わたしがここのギルドを仕切るってことでいいんだよね? 魔術を独占してるくせに、わたしより弱っちいのがギルドを仕切っていたらおかしいもんね」


 いまのトルシェの声で集まった連中の中に動揺が広がった。自分たちのトップかそれに準じている者が見た目ただの小娘こむすめに一方的にやられているし、小娘の言っていることも道理ではあるものな。


「魔術に自信があるようで、大口をたたいているが、タダの魔術では勝てない相手がこの世には存在するのだよ。

 出でよ、炎の巨人!」


 おっさんが、懐から赤い玉を取り出し地面に投げつけた。


 玉は地面に当たって簡単に砕け散り、そこから煙がもくもくと上がり煙の中から赤い腕、足、そして頭に胴体が現れた。出て来たのは俺たちのテルミナのダンジョンの拠点を守っていた炎の巨人をいくらか小さくしたような炎の巨人だった。


 いくらかは小さいがそれでも見上げるほどの大きさだ。


「どうだ。手も足も出まい。

 巨人よ、目の前の小娘をたおせ!」


 ダンジョン内と違って、昼間の明るい光の中で炎の巨人を見ると、炎が陽の光で透けて体が黒く見える。そのせいで迫力が全くない。


「おじさん? こいつ斃しちゃっていいの?」


 あまりに、弱っちいのが出てきた関係でトルシェがおっさんに確認を取ったのだが、おっさんは炎の巨人に相当な自信があるのか返事をしない。


「返事がないから、それじゃあ

『フリーズ』」


 トルシェの右手から、迫ってくる炎の巨人に向けて青白い光の粒々が放たれた。


 光の粒々が当たったところの炎が消えていき、中から黒い炭のようなものが現れてその炭も白く霜がかかっていく。ほんの数秒で炎の巨人だったものは白い恋人になってしまった。


 ピキッ、ピキピキ。


 白い恋人にヒビが入っていき、まず最初に足が砕け、自重で落下した胴体も粉々になってしまった。


「おじさん、タダの魔術では勝てない相手がいないんですけどー」


「ぐぬぬ。私の他にこのギルドを運営している評議員が六名いる。私を斃したからといってここのトップになれるわけではない」


「ふーん。でもおじさんは負けたってことでいいんだよね? それとも後腐あとくされのないように、今ここで殺してあげようか?」


「わかった、私の負けは認めよう」


「それじゃあ、他の六人を連れてきてよ。面倒だから一度の方がいいんだけれど、適当でもいいよ」



 つるっぱげおじさんが敗退してすごすごと建物の中に入っていった。


「ここに見物にきている人で、わたしと魔術の勝負をしたいって人がいれば勝負してあげるよ。その代り、さっきみたいな手加減は面倒だから容赦なく殺すからね。誰かいないかな? ねえ、そこの人、どうかな?」


 トルシェに指をさされた女がすごすごと後ろの方に引っ込んだ。


 他の連中の方をトルシェが向くと顔をそむける。こいつは遊んでるな。



 そうやってトルシェがしばらく遊んでいたら、ようやく次の接客係が現れた。今度現れたのは、黒いローブを着たじいさんだった。白髭がアゴから長く伸びていかにも感マックスのじいさんだ。これで杖でも持っていたらカッコよかったんだがあいにく手ぶらのようだ。


 俺とアズランは立っていてはそこらにいる観客と差別化がはかれないので、二人で体育座りで眺めていることにした。女神さまとしては体育座りに対して多少の抵抗感があったのだが、一人ならまだしもこうして二人並んで座っていると、それほど気にならないものだ。


 じじいは、トルシェの後ろで体育座りをしている俺たちを一睨ひとにらみして、


わしが魔術師ギルドの評議会の議長を務めている者だ。おぬしがこのギルドに難癖をつけてきたヤカラか?」


「おっしゃる通りの難癖だけど、いちおう道理は通っているでしょ?」


「確かにお前の言う通り、儂らがおまえに魔術勝負で負けてしまえばそうかもしれんな。だが、そういうことはまず起きん。

 出でよ、グレーターデーモン!」


 この声を聞いたとたん観客たちが我先にと建物の中に逃げ帰ってしまった。いいところを見逃したからといってもビデオがあるわけじゃないからもう見れないんだぞ。


 じじいがどこからか取り出した玉のようなものを両手に握ってそれを高くかかげて何やら召喚したようだ。影のようなものが集まってきて高さ二メールほど人形ひとがたになってきた。手に握った球は形を失って崩れてしまい砂がこぼれるように地面にこぼれてていった。砂が目に入ったら痛いから、わざわざ高く掲げない方がいいんじゃないか? 高ければ高いほどいいってもんじゃないだろ?


 ほう、これがグレーターデーモンか。


 さーて、どれほどのものなのか? こいつは期待できそうだ。


 グレーターデーモンは仲間を呼ぶぞー、無限増殖で経験値ウハウハのおいしいヤツだ。っと、ここはゲームではなかったな。だがしかし、ゲームにも真理は隠されているはずだ。ということで、いちおうトルシェには注意しておこう。


「トルシェ、グレーターデーモンは仲間を呼ぶぞ。それは止めようがないが、あいつが呪文を唱えられないようにしてしまえば、呼ばれた仲間も呪文が使えなくなるはずだ」


「ダークンさん、詳しいんですね」


「いや、タダの俺の勘だ」


 ただの勘といってはいるが、タダのゲーム知識なのでそれがここで当てはまるのかは分からない。いや十中八九は当てはまらないだろう。


「こいつが喋れないようにする魔法は思いつかないので、こいつが忙しくて何もできないようにしてやります」


 トルシェでも奇跡の魔法・・・・・は使えなかったか。天才には不可能はないはずだ、トルシェなら何か凄いことをやってくれる。信じているぞ、トルシェ!


 ぼーっと立っているじじいにここからスティンガーを投げて殺しても良いがそれだと他の連中が納得しないしな。目的はここの土地建物の接収だから盾つくヤツは処分すればいいだけだが、『慈悲』の心が俺を押しとどめる。





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