第50話 魔術師ギルド


 人の出入りがそれなりにある開けっ放しの扉から、魔術師ギルドの玄関ホールに入ってみると、相当金をかけた立派なホールだった。


 そこそこの人がホールの中にいるが、若い男女が多いようだ。ギルドの中では魔術の教育もしているようだから、いわゆる学生なのかもしれない。


「ダークンさん。ワクワクしますね!」


 もう、トルシェはニコニコだ。


「トルシェ。受付に行って、道場破りにきたとでもいえばいいのかな?」


「強そうなヤツを出せとか言って、ここらで暴れていたら荒事専門の連中とかもっと上の誰かが出てくるんじゃないですか?」


「そうかもしれないが、ここをあんまり壊したくはないな」


「ダークンさん、気持ちはわかりますが、遠慮していては思わぬ不覚を取るかもしれません。目的達成のための尊い犠牲と思いましょう! 大丈夫です。金目のものはちゃんと救い出しておきますから」


「そこはトルシェに任すけどな。ただ、ここを少し改造すればそれらしい神殿ができるかと思っただけだ」


「それらしい神殿じゃなくて、大神殿そのものじゃないと」


「それもそうか。それでも、とりあえず受付に行ってみないか?」


「分かりました」


 俺たちが受付に行くと、美人の受付嬢が、


「どういったご用件でしょう?」


 と、聞いてきた。ご用件は、この建物と敷地一式をいただくことなので、正直に言えるわけはない。どう答えようかと思っていたら、横からトルシェが、


「ここをもらいに来たの」


「はい?」


 もうここはトルシェに任せたよ。


「だから、ここ・・、魔術師ギルドの土地と建物をもらいに来たの。だから、一番偉い人を出してくれるかな? その人とわたしが魔術勝負してわたしが勝ったらわたしの方がここのトップにふさわしいてことだよね?」


 トルシェがふざけたことを言っていたら、応対していた受付嬢が隣の受付嬢に目配せし、その受付嬢が階段の裏手の方に走っていってしまった。


 普通なら少女に見えるような相手は適当に窓口であしらって『はいさようなら』なんだろうが、真面目に対応してくれるらしい。まんまとトルシェの作戦に引っかかったわけだ。


「少々お待ちください」


 きっと今走っていった受付嬢は、荒事専門部隊の何人かをここに連れてくるんだろう。


 もちろん、トルシェもそのくらいは承知しているので、ニヤニヤ顔をしてずいぶん機嫌が良さそうだ。



 何が出てくるのかと待っていたら、階段の裏手から、白色のローブに目元を覆うように白色のフードをかぶった男たちが、先ほどの受付嬢と一緒にやって来た。


 男たちの数は三名。ずいぶん軽くみられたものだ。いや、若い女と少女二名が相手だ、普通なら過剰な戦力なのかもしれない。


 三人組の白ローブがホールに入ってきたところを見た学生風の若い連中が雲の子を散らすようにホールから逃げ散っていった。ここで暴力沙汰が起こることを予想しての行動だろう。大声を上げるでもなく速やかな反応だったところを見ると、こういった状況に慣れているのだろう。


 大して迫力もなさそうな三人が相手なら、トルシェもここではスッポーン魔法や大型強力魔法は使わないだろうから、わざわざナイト・ストーカーを装着する必要はないだろう。


 今となっては、ナイト・ストーカーはベチャベチャが当たってもコロが簡単にきれいに汚れを食べてくれるので、ベチャベチャ体の部品よけになってしまったな。


「お前たち、当ギルドに用があるようだが、今すぐここから立ち去るか、さもなければたたき出されるか。たたき出された場合、痛いでは済まないかもしれないがな」


「おじさん、それ、わたしたちに言ってるの?」


「そうだ」


「フ、フフフ。どうやって?」


 トルシェの左右の指ぬきの手袋から出た左右合計十本の指の先からバチバチとスパークが走り始めた。


 スパークの青白い光を浴びたトルシェの美少女顔が不気味にひずんで迫力満点だ。


 さすがにこのパフォーマンスに男たちも受付嬢二人も驚いたようだ。


 とはいえ、男たちも立場上引き下がるわけにはいかないのだろう。何だか口の中でブツブツ唱えたら、急に雰囲気が変わった。


 ほう。これが身体強化魔法なのか。男たちの筋肉が盛り上がり体格が一気にがっしりしたものに変わった。


 肉弾戦が得意とは言えないトルシェだが、この程度の敵はなんてことはないだろう。


「アズラン、トルシェが危なくなったら加勢してやってくれるか?」


「了解です。でもダークンさん、トルシェの生の身体能力でもあの程度の連中相手では、そんなことにはならないと思います。しかも、ほら」


 アズランの言葉と同時に、トルシェの指先でバチバチいっていたスパークがなりを潜めたかと思ったら、トルシェの体全体、いたるところから青白いスパークが飛び始めた。


 見ているこっちが痛くなりそうなほど大きな音でバチバチして、トルシェの銀髪も逆立ってしまっている。これは怖い。


 これでは誰も直接手で触りたくはないだろう。


 体にスパークをまとったトルシェが、男たちに向かって、右手の平を上に向けてコイコイをして、挑発し始めた。口元が笑っている。


 いままでのところ、横暴なことを口にはしているが、それ以外は何もしていない。ましてや暴力を振るったわけでもない。もしも相手が先に手を出したら正当防衛成立だ。やろうとしていることは乗っ取りだから、その程度のことは誤差ではあるな。


 今まで暴力はふるっていないのだといっていたはしから、トルシェのヤツ、自分から男たちを殴りに行った。


 男たちは身体強化で相当動きも良くなったのだろうと思ったのだが、あにはからんや、動きが非常にぎこちない。しかも三人の動きがバラバラで、これではまるで素人だ。要はこれまで素人相手に俺ツエーしていただけで、真面目に修練しゅうれんなど積んでいなかったのだろう。


 トルシェの動きも決して良いとは言えないのだが、それでも一撃必殺状態で手足をやたらと振り回してくるため、男たちは防戦一方になっている。


 バッチッーーン!


 トルシェが身にまとった放電現象スパークは人、物、関係なく突起物でっぱりに飛ぶようで、トルシェの振り回した手の近くにあった受付のカウンターのかどが吹き飛んだ。


 キャー。


 カウンターの後ろにいた受付女性が黄色い悲鳴を上げながら逃げていった。今ごろ逃げるくらいなら最初からどっかにいっとけよ。




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