第49話 広い土地がどこかに落ちていないかな?


 万能薬を使って、一見奇跡の大奮発だいふんぱつをしてやった。


 俺たちが一仕事終えて部屋から出ていったら、信者1、2、3号のおかげだろう、この三人の礼拝に合わせてみんなが俺に向かって二礼二拍手一礼の礼拝をきれいにおこなった。信者たちの体も七色に輝き、初めて見たものは、神の奇跡を目の当たりにして打ち震えていた。おそらく、たぶん。


 そして、まさに天にも昇るような快感が俺の体を突き抜けて行く。


 フォフォフォフォフォフォーーー!


 白目をいてほうけてしまいそうだ。


 快感で身震いした後、


「おそらくこれでお前たちの体は元に戻った、あるいは戻るはずだ。せいぜい頑張って生きろ」


「ははーー!」


 俺のありがたい言葉を聞いたみんなが一斉に頭を下げた。


 何だか時代劇のようになってきたがこれはこれで楽しい。後ろに控えているトルシェとアズランはさしずめ助さんと格さんだな。


「ほっほっはははっ!」


 気分も上々なので、二代目黄門さまを真似てみた。誰も知らないので受けは良くなかったが俺自身は大満足だ。



 みんなが頭を下げて俺たちを見送る中、高笑いしながらリスト商会を後にして、大通りに出たものの、これからすることが特にない。


「さて、これから何をしよう?」


「瓶を探すんじゃなかったですか?」


「面倒だからもういいや」


「それなら大神殿を建てるための土地の下見でもしませんか?」


「そうだな。『闇の使徒』の連中が墓場の地下に大穴を掘ってなければ、あそこまでボコボコにならずに済んで使えたんだがな。他にまとまった土地が王都内のどこかにないかな?」


「そうですねー、王都の北西の辺りにまだ土地があったかな」


「今日はもうすることも何もなくなったから、ブラブラ歩いてそこらの様子を見に行くか」


「はーい」「はい」




 そういうことなので、三人で広い空き地がないかと王都の北西に向かって歩いていたら、少し先にかなり大きな建物が見えてきた。本体の建物も大きいのだが、その奥に塔のようなものが何本も立っていて、そいつらがまた、ここらでは見ないほど背が高い。


「アズラン、あの大きな建物は何だ? 背の高い塔のようなものが後ろに離れて何本も立ってるだろ」


「あれは、この国の魔術師ギルドの本部です」


 いままで、遠くから何だろうなと思っていたが魔術師ギルドの本部だったのか。この国の本部ということは、よその国にも本部があるのか?


「魔術師ギルドは、冒険者ギルドと違って他の国の魔術師ギルドとの横のつながりがないようです」


「そうなんだ」


「いずれにせよ排他的な組織のようです。トルシェ、そうだよね?」


「その国の魔術に関することは全て独占してるんです。魔術書も魔術師ギルドでなければ買えませんし、魔術師の教育や訓練も魔術師ギルドでないとできない決まりになっています」


「違反するとどうなるんだ?」


「魔術師ギルドの中にある荒事専門の連中がやって来て家を焼かれたり、大怪我おおけがさせられたり、ひどいときは殺されたりします」


「ということは、少なくともその荒事専門の連中は世間から憎まれているわけだ。そんな連中を飼っているなら、それと同じことをされても文句はないはずだよな?」


「ダークンさん、やっちゃいますか?」


「建物がこれほど大きいなら敷地もそうとう広いんじゃないか? ちょうど良さそうだろ?」


「一応、魔術師ギルドの中でも真面目に魔術の研究をしている連中もいますから、さすがに皆殺しはやめた方がいいんじゃないでしょうか?」


「あのね、アズラン。はっきり言って、あの連中の研究しているような魔術なんかわたしならぜーんぶ簡単にできちゃうような魔術だよ。いてもいなくても一緒」


「さすがは、魔法研究家のトルシェだな。まあ、中身を見てからそこらは考えればいいだろ。少なくとも敷地からは出ていってもらうことは変わりはないんだから」


「そうでしたね。今度こそお宝見つけるぞー!」


「そうだ、トルシェ。折角だから、魔術師ギルドの中の一番できそうなやつと魔術くらべなんかしてみたらどうだ? ああいった連中は、鼻っ柱だけは高いんだろ?」


「おそらくそうなんでしょう。ウフフ、楽しくなりそー」


「トルシェ、頑張ってね!」


「アズラン、任せて」


「それじゃあ、中に入ってみるか。

 トルシェ。中に入って見学するくらい文句は言われないんだろ?」


「さあ、わたしは入ったことはないので良く知りません」



 建物の扉は開け放たれていたので、中に入っていってもよさそうだ。


 入り口前の石の階段を上って建物の中に入ると、大きな建物にはどこにでもあるような広々とした玄関ホールになっていて、吹き抜けの天井からは大きなシャンデリアが下がっていた。シャンデリアには魔道具らしい照明が昼間だというのに無数に点いてホールを明るく照らしている。ホールの正面には大きな階段があり、途中の踊り場を経て二階に通じていた。


 どこにでもある玄関ホールには違いないのだが、床は磨き上げられた石、おそらく大理石でできていて、壁際に飾ってある置物などもそれらしく見える。かなりの価値があるのだろう。この魔術師ギルドは相当羽振りがいいようだ。まだ俺たちの物になったわけではないが、ちょっと壊すのがもったいない。


 ホール正面の階段横に受付のようなものがあり、そこに若い女が二人立っていた。受付嬢にはどこも力を入れているのか、どこに行ってもそれなりに美人が受付嬢をしているような気がする。



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