第14話 殴り込み2


『赤き左手』のアジトの地下通路はそれなりに入り組んでいたが、アズランの案内で迷うことなく目的の下水への抜け穴の入り口近くまでたどり付いた。トルシェは一人フラフラとどこかに消えたが、金目の物を物色しているんだろう。


「ダークンさん。ここが抜け穴の入り口ですから適当にふさいでください。私はもう一つの抜け穴の入り口にまわります」


「わかった、任せておけ」


 すぐにアズランはフェアを連れてどこかへ行ってしまった。


 このアジト内にそれなりに骨のあるやつがいれば楽しいのだが、ここに逃げてくるようなヤツではそれも期待薄だ。


 そこは我慢がまんするとして、まずはここをこわしておこう。要はつぶせばいいんだろ?


 少し後ろに下がって、リンガレングが一度使った『神の鉄槌(注1)』を発動することにした。特に凍らせる相手はいなかったが凍らせた方がきれいに粉々になるだろう。


「発動、『神の鉄槌!』」


 俺の着る全身鎧ナイトストーカー。明かりの少ないここでは血管状のカッコいいぶきみな模様が漆黒地の上に浮き出ている。そのフルフェイスのヘルメットの額の真ん中から青い光が発射され、目の前の通路を凍らせていく。続いて発動した超重力。


『神の鉄槌』の中心点からそれなりに離れている俺も、一瞬だけだが一気に増した自分の重みを支えるために無意識に踏ん張ってしまった。


 グシャン!


 物が割れながら潰れるとこういった音がするのかといったいかにもな音がして、通路そのものが潰れてしまった。一度潰れた後も奥の方で何かが砕けるような音が続いている。


 初めて使った『神の鉄槌』だが、威力の抑え方もちょうどいい塩梅あんばいだったようで、きれいに通路を塞ぐことができた。


 よし。ここはこれでいい。


 アズランとトルシェが今どこにいるのかは正確にはわからないが、そこらをブラブラ歩きながら出会った連中を処分していけばそのうち見つかるだろう。なにせ、俺と眷属けんぞくのあの二人はたましいで繋がっているから、どのあたりにいるのかは、だいたいの距離と方向くらいは分かるのだ。


 まずはアズランに合流して、組織の構成員たちの最後の脱出路を塞いでしまえば、ここの連中は袋の中のネズミ。後は『闇の使徒』の情報を聞き出せそうなヤツを二、三人とっ捕まえて概ね作戦終了。地上に撤退したあと、ここを『神の怒り(注2)』で焼き払えば作戦完了だ。


 おっと、アズランはこっちだな。


 通路を歩いているとたまに組織の人間を見かけるが、向こうが俺を認めると、すぐに逃げてしまう。


 アサシンは隠密行動は得意なのだろうが正面切った戦闘では、俺のような全身鎧のいかにもな戦士が相手では分が悪いだろう。


 集団戦闘が得意なら少しは俺にダメージを与える可能性があったかもしれないが、アサシンの集団戦闘などあまり聞いたことはないからな。


 こいつらであと数時間の午前零時まで生き残っているヤツはおそらくいないだろうからせいぜい逃げまどってくれ。


 しかしこうやって俺が無防備にふらふら歩いているんだから、罠とか仕掛ければいいんじゃないか? 後ろから忍び寄ってくるヤツもいないし。


『足らぬ足らぬは工夫くふうが足らぬ』なんてな。



 余裕をかましてアズランのいる方向に歩いていたら、ゴツイ大型のクロスボウの乗った台車が三人がかりで俺の真正面に押し出されてきた。


 こういうのって、お城に備え付けたりするものじゃないのか? 名前は何だっけなー? ここまで出かかって、思い出せない。


 目の前の大型のクロスボウを興味津々きょうみしんしんで眺めていたら、いきなり俺を狙って槍のような棒が撃ちだされてきた。


 危ないじゃないか!


 ボールだったら打ち返したのだが、飛んできたのが槍では撃ち返せない。


 いきなり突入した戦闘状態で加速した知覚と思考の中で、エクスキューショナーで切り飛ばそうか、リフレクターで払おうかと考えていたら、その槍が俺の腹の辺りにぶち当たって、


 ガシャーン!


 えらい大きな音がした。


 もちろんただの槍が俺のナイトストーカーを撃ち抜けるはずもなく、先端の折れた槍が床に転がった。さすがの俺も、いまの槍の衝撃に耐えかねて半歩後ろに下がってしまったがな。


 半歩下がっただけで俺がまた普通に歩き始めると、三人組はクロスボウの台車を放って逃げて行った。


 そうだ、こいつは記念にもらっておこう。キューブに収納してやった。


 大型クロスボウ付き台車、ゲットだぜ!


 なんとなく嬉しくなったのだが、これはトルシェの病気が伝染したのかもしれん。マズいな。



 アズランはこっちだな。もう少し急ぐとするか。しかし、なんでここはこんなに広いんだ?


 台車に乗った大型のクロスボウ、なんていったっけなー。なんか特別な名前があったよな。思い出せない。こういうのって、一度気になり始めると、頭からはなれなくなるんだよなー。




 目星をつけて進んでいったら、通路の行き止まりの手前に立っていたアズランをやっと見つけた。アズランのまわりをフェアが飛び回っている。


「待たせたな。どうだ? ここに逃げてくるヤツはいたか?」


「さっき三人組がやってきただけです。そこに転がっています」


 アズランと俺の立っている場所の途中に、三人分の体がまとめて転がっていた。切り飛ばされた頭は、少し離れたところに転がっていた。みな一様に両目を見開いて驚いた顔をしていた。恐怖にひきつった顔で死ななくてよかったんじゃないか? さっき、クロスボウから槍を俺に撃ち込んだヤツかどうかははっきりしないが、多分こいつらだろう。


「アズラン、この先もこれからすぐに壊すから、こっちに来てくれ」


「はい」



「それじゃあ、『神の鉄槌』発動!」


 グシャン!


 さっきと同じ音がして、通路の先が崩れ落ちた。


「ダークンさん。凄いですね」


「だろ? これで逃げ道は全部塞いだから、『闇の使徒』の情報を持っていそうなヤツを早いとこ捕まえようぜ。ぐずぐずしていると、トルシェが間違ってみんな殺しちゃうかもしれないからな」


「急ぎましょう。ついて来て下さい」


 もちろん、アズランの本気のスピードには俺はついていけないのだが、俺の足の速さのことも考えたスピードでアズランとフェアが先を進んでいく。


 


 何回か通路の角を曲がったところで、前の方から機嫌きげんの悪そうなトルシェがやってきた。


「なんだ、トルシェ。金目のものがなかったのか?」


「全然ありませんでした。ここの連中、人をバカにしてんのかー!」


「まあ、そう言うなよ。おそらく下っ端は質実剛健、上の方は甘い汁を吸って贅沢三昧ぜいたくざんまい。それこそが組織の醍醐味だいごみだろ? これから贅沢三昧の幹部連中を捕まえに行くから、期待してていいぞ」


「ほう、さすがはダークンさん。そういう考え方もありますね。ウヘヘ」


 トルシェの機嫌も簡単に直ったようだ。


「あのうー、私も一応組織のナンバースリーだったので幹部だったんですが」


 アズランが申し訳なさそうに自己申告。


「アズランの一言で、やる気が一気になくなっちゃったじゃない」


 また、トルシェがぶー垂れ始めた。こいつは放っておくしかないな。



「しかし、タダの暗殺組織にしてはここの規模がデカくないか? チマチマ暗殺するくらいで維持費いじひをペイできるのか?」


「うーん、そういったことは考えたことがありませんでした。でも、一度請け負った暗殺に成功すれば、依頼者から契約料の倍が成功報酬として支払われていたはずですから結構な金額になったと思います」


「ふーん。俺たちも、金が無くなったら暗殺業でもすれば儲かりそうだな」


「ダークンさんはいちおう・・・・女神さまなんだから、副業はマズくないですか?」


「それもそうか。というか、『いちおう』は余分だ」




注1:神の鉄槌

神滅機械リンガレングが終末回路を活性化ロードすることにより発動可能となる特殊攻撃。対象を超低温で凍りつかせて脆弱ぜいじゃく化し、超重力で押しつぶす。なお、現在のダークンはリンガレングの特殊攻撃は全て発動可能である。


注2:神の怒り

天空からの業火により対象を原子レベルから素粒子レベルまで破壊することができる。超高温。破壊力を抑えない場合、有害放射線が発生する。

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