第13話 殴り込み1、『赤き左手』


 アズランが以前所属していた暗殺ギルド『赤き左手』のアジトほんぶに突入だ。


『闇の左手』となったアズランが古巣の『赤き左手』をこれから壊滅させるわけだ。感慨深いものがある。いや俺には全く感慨などないが、アズランの心の中を想像しただけだ。


 今回はアズランの復讐の意味もあるから、俺とトルシェは手伝うだけで脇役だ。まあ、トルシェはそういったことにお構いなしで、殺しまわって、金目の物を回収したいだけだろう。


『闇の左手』まで進化したアズランは昔の面影を体形以外ほとんど留めていない。復讐するにあたって、相手に認識させた方がインパクトはあるが、いずれにせよ殺す相手だ。そんなに差はないだろう。


『アズラン、出入り口はここ以外にはないのか?』


『下水道に抜ける通路がこの中に二カ所あります』


『まずそこを潰してしまいたいところだな。何かいい手はないかな?』


『ここを最初に塞いで、ダークンさんとアズランでその先の一カ所を塞ぎ、その後アズランはもう一カ所で待ち伏せる。ダークンさんはそこから暴れ回る。これでどうでしょう?』


『その間トルシェは何してるんだ?』


『わたしは、目についた相手を殺しながら目ぼしいものを拾っていきます』


『まあいいか。できればでいいが次のターゲットの「闇の使徒」の情報があるかもしれないから注意しておいてくれ』


『任せてください。金目かねめのものはのがしません』


 そっちはなにも心配してないんだがな。まあいいや。


「それじゃあ、行くぞ!」


「はい!」「はい!」



 目の前のあばら家の扉を思い切り蹴飛ばしてやった。


 以前なら、扉が蝶番ちょうつがいから外れて吹っ飛んだのだが、今回は扉を蹴破ってしまった。少し先の方から何かが崩れるような音が聞こえてはきたが、逆に破壊力が落ちたか? 


 仕方ないので、大孔おおあなの空いた扉の健全な部分に左手のリフレクターをたたきつけて枠組み諸共もろとも壊してやった。


「このままここをぶっ壊してやるから、おまえたちも中に入れ」


「はーい」「はい」


 俺も中に入ってみたのだが照明がないようで真っ暗だ。


 もちろん真っ暗だろうが俺たちには関係ないので、目につく柱に蹴りを入れ、壁や天井にリフレクターをたたきつけてやった。


 柱や天井からミシミシと音がしたと思ったら、屋根の重みか何かに柱が耐えかねて、入り口から五メートルほどが崩れてしまい、人の出入りはできなくなった。


「よし!」


 まずはここを塞いだ。


「アズラン。急ごう。

 トルシェはほどほどにな」



 入り口から十メーターはホールになっていて、その先は下り階段になっている。


 先にトルシェとアズランを行かせ、柱を叩き折りながら階段まで進み、階段を下りる前に最後の柱を数本叩き折ってやったら天井がゆっくり下がってきた。


 そのまま下まで階段を跳び下りてその先の通路を数歩進んだところ、俺の後ろで天井やら屋根やらの部材が音を立てて崩れてきた。ちょっとやそっとでは、誰もここからは出られまい。


 跳び下りた先の通路には明かりがついて照らされていた。


 その中を数名の男が武器をもってこっちに急いでいる。あれだけ大きな音がしたんだから当然か。


 目の前にトルシェと一緒に立って俺を待っていたアズランが、


「私がいきます」


 そう言うと、フェアともども目の前からいなくなった。


 と、思ったら前方からやってきていた男たちの首がゴトゴトと廊下に落っこちコロコロと転がった。残った剛体は首からは盛大に血を吹き出しつつ通路につんのめって倒れてしまった。アズランはその先に立っている。急いでアズランを追って、


「今のやつらは、簡単に殺したけれど、情報を持ってなさそうなやつらだったのか?」


「私が知らない連中でしたからたぶん下っ端でしょう。幹部が見つかったら拘束して聞き出します。それ以外は殺しても問題ないと思います。

 話していたら、ちょうど一人、私の知っている男がやってきました。軽くあしらって捕まえてきます」


 確かに前の方から、つるっぱげの体格のいい男が歩いてきていた。肩の筋肉などが盛り上がって筋肉の塊のような男だ。武器を持っているようにはみえないが、相手は暗殺者。どこに武器をひそませているのかはわからない。暗器あんき程度で俺たちに危害を加えることはありえないので、気にしても仕方ないがな。


「だれだー? おめえたちは?」


 普通、殴り込みをかけた相手は一々相手と会話なんかしないと思うんだがな。こいつバカなのか? いや、見た目通りの脳筋ってやつか。


「そこのハゲボウズの名前は忘れましたが、ここの幹部の一人です。こいつは、体が頑丈なので少々傷めつけても情報をかないかもしれませんが、どうします?」


「いちおう、試しに捕まえてみるか? アズランはそこで見ててくれ」


 俺とアズランがハゲ男を無視して会話していたら、ハゲ男が、こぶしを握ったり開いたりしながら近づいて来る。


「おまえたち、おれをまえにして、えらいよゆうだな?」


 ハゲ男ひとりが相手だ、余裕ではあるよな。


 こいつはどうも力自慢か何かで俺と素手でやり合うつもりのようだ。


 そのハゲ男が俺のエクスキューショナーの間合いに無造作に入ってきた。ハゲ男はどうも髪の毛と一緒に脳みそもなくしてしまったようだ。


 脳みそがないなら役に立たないので、殺してしまってもいいかと思ってエクスキューショナーを振り下ろそうとしたら、男が一歩踏み込んできて、右手でパンチを繰り出してきた。普通の人間から見れば十分早い踏み込みとパンチなのだろうが、相手は俺だ。


 軽くリフレクターをハゲ男の繰り出した右のこぶしに合わせてやったら、痛そうな音と一緒にこぶしが砕けてしまい、ついでに手首も折れてしまった。


 アズランが言うように、ハゲ男は随分タフな男のようで、折れた右手に構わず左手を繰り出してきた。


 根性だけは褒めてやるが、それだけだ。軽くエクスキューショナーを振って、肘から先を切り飛ばしてやった。


 そしたら今度は頭突ずづきをかまそうとしてきた。ウザい。


 左足を上げてツルピカ頭を軽く蹴っ飛ばしてやったら、首の骨が折れてしまったようであらぬ方向に首がねじれてしまった。


 簡単に殺すつもりはなかったんだがな。



 てっきり殺してしまったかと思ったハゲ男だが、五メートルほど吹き飛んで尻餅をついたあと、一度動きを止めたのだがまたのそりと動き出した。


 腕が使えないので、あらぬ方向に向いてしまった頭を自分の両ひざに挟んで、ゴリッと変な音をさせて首を元の位置に戻してしまった。


 そして立ち上がり、また頭を先にして突進してきた。


 今度は右足でツルピカ頭を蹴飛ばしたら、首が体の中にめり込んでしまった。それでもまだ生きているようだ。一体全体こいつの体はどうなってるんだ? 俺もゾンビ経験者だが、こいつもゾンビの資格が十分あるな。



 相手をしていてもウザいだけので、ケリをつけるか。


 今まで二度も蹴り・・飛ばしてケリがつかないのは何かのジョークだな。


 人間離れしたやつであるが、それでも所詮は人間。エクスキューショナーで首を刈れば、それまでだ。と思ってみれば、首が体にめり込んで見えなくなていた。


 こいつ、やるな。


 ということで、心臓を一突き。


 吹き出る血がかからないようにけ、ベルトに偽装中のコロに残骸を食べさせてやった。


 俺とハゲ男の熱くもなんともないバトルを後ろで見ていたアズランが、


「ダークンさん、幹部もたおしちゃったので、逃げ出す者が出てくるかもしれません、急ぎましょう」


 確かに、奥の方でドタバタ何やら慌ただしく走り回っているような音がする。


 俺たちはまず下水道へ通じている抜け穴を塞ぐべく、バタバタしている連中の方は放っておいて先に進んでいった。


 途中出くわしたザコはアズランが瞬殺していった。


 思うに、こういった暗殺組織の連中は、陰から相手を仕留しとめていくときは能力を発揮してそこそこ強いのだろうが、こうやって攻め込まれることは全く想定していないようで、随分弱い。ザコしかいないようだ。


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