第12話 王都


 次の日。


 早めに朝食を宿で取った後、みんなで駅舎に戻った。


 駅舎の窓口で信者第2号のリストのおっちゃんが何か言うと、係りの男がきのう預けた馬車を引いてきてくれた。


 その間いっぱしの御者の俺は財務大臣のトルシェに言って、馬車馬用に桶とブラシ、それに岩塩を駅舎で購入させている。


 準備が整ったところで、みんなが馬車に乗り込んだのを見届け、御者台に座った俺は馬車を発車した。



 王都目指して、


 パッカパッカ、パッカパッカ。


 今日も朝から良い天気。


 スケルトン時代だったら相当まぶしかったのだろうが、今はさほどでもない。



 さすがに、二度の遭遇で山賊ラッシュは終わったようで、あれ以降何も事件もなく馬車は王都に向かっていった。箱馬車の中はそれほど広くもないので、トルシェも『つまんない踊り』やら『山賊出てこい』ぶしひかえているようだった。


 変ったところと言えば、たまに馬車の窓から空に向かって特大のファイアーボールが打ち上げられるくらいである。


 トルシェの花火は研究中のようで、空中で爆発しても昼間でもあるし色とりどりのきれいな花が咲くという訳ではないようだ。罠魔法の方は既に完成しているそうだが、やたらと街道にセットするなとトルシェに言っているので、実物がどんな塩梅あんばいなのかは今のところ分からない。



 途中立ち寄った宿場町で俺たちにちょっかいを出してきたバカ者たちを半殺しにしたのが何回かあったくらいでいたって平穏な旅が続いた。



 そしてテルミナを出発して15日目の昼過ぎ、なだらかな坂を上り切ったところで白い外壁と運河に囲まれた王都が見えてきた。それからしばらく進み、馬車は夕方前に乗合馬車の終着の駅馬車駅舎に到着した。駅舎の前から王都へ続く道の先には運河にかかった石の橋があり、その先に王都市街へ通じる大きな門が開いていた。


 リストのおっちゃんが、俺たちに王都内にある自分の屋敷に逗留とうりゅうするよう勧めてくれたが、これからすることを考えると、信者に迷惑をかけるわけにはいかないのでそれは断って、駅舎で二人とは別れることにした。


 馬車については、おっちゃんが新しく御者を駅舎で雇ったので、そのままおっちゃんたちを乗せて自分たちの屋敷に帰って行った。


 馬車の窓からしきりに頭を下げるおっちゃんに、トルシェが、


「礼はいいから礼拝しないと」


 それから、窓から体を半分乗り出した親娘おやこが二礼二拍手一礼をした。


 フォウ! フォウ!


 うーん、気持ちいいーー! もしも信者が100万人にもなって礼拝されたら、俺は気持ちよさで死んでしまうかもしれんぞ。




「さーて、いままで退屈だったが、そろそろお仕事の時間だな。まずは、アズランのなんとかいう暗殺ギルドだな」


「『赤き左手』です。まだ拠点の場所は変わっていないでしょうから案内します」


「アズラン、そこには目ん玉の飛び出るようなお宝はあるかな?」


「うーん。私自身そういった目でアジトの中を見回したことがないから、金目のものがあるかどうかはわからない」


「それじゃあ、根こそぎ作戦だね!」


「どっちでもいいが、作戦は暗くなってから。アズラン、ここからそのアジトやらに歩いていくとどれくらいかかる?」


「ゆっくり歩いて一時間くらいだと思います」


「まだ夕方だから、暗くなるまでもう二、三時間は潰してからだな。ここの駅舎は泊まれるようだから先に部屋をとっておこう。夕食を食べてから一仕事だ」


「はい」「はーい」



 駅舎で四人部屋をとったあと、部屋には向かわず食堂に直行した。


 ここが王都の駅舎のためか、メニューを見たトルシェにいわせると若干お高い値段設定だったそうだが、その分味に期待は持てる。


 飲み物は無難にワインを頼んでみた。



 出された食事もワインも結構おいしかった。


 ただ、今の俺の舌では何を食べても飲んでも大抵のものがおいしく感じてしまうので、あまりあてにはならない。


 トルシェもアズランもワインを飲もうとしないので、旅の最後に試しに一口飲んでみろと言ったら、渋々しぶしぶ二人がグラスに口に付けた。


 進化して二人の嗜好しこうが変わったのか、一口ひとくち口をつけた後はごくごくと一気飲み。そこからは三人で酒盛りが始まってしまった。


 一仕事の前にアルコールなどは本来厳禁なのだろうが、アルコールの負の作用というものに俺たち三人は一切影響を受けない。ただ気持ち良くなるおいしい飲み物というだけなので何も考えずにパカパカ飲んでしまった。やはり、一人で手酌てじゃくで飲むより三人でいでがれて飲む方がおいしい気がする。




 駅舎の食堂で酒盛りをしつつ三時間ほど粘り、時刻は午後八時半。


「それじゃあ、そろそろお開きにして仕事に行くか。アズラン、案内頼むな」


「任せてください」



 駅舎を出て、星明りの中、いい気持ちで夜道を歩いて運河に架かる石橋を渡り、大きな門を過ぎて市街地に入った。門には門衛はいたが、特に何か言われることもなく門を通ることができた。


 夜間、市街では二人組の夜警がカンテラをもって見回っているそうで、あまりそういった連中に出くわしたくはない。その結果、それなりに回り道もしたようで、星明りだけの暗がりの中、入り組んだ小道をたどり、小一時間王都の中を歩いていった。



 最後にゆるい坂道を登った先、周囲にまばらに家の建つ一画にアズランがかつて所属していた暗殺ギルド『赤き左手』のアジトへの出入り口であるというあばら家があった。



 中に突入する前の最後の打ち合わせ。


「ずいぶんちゃちな建物だな」


「ここの地下にトンネルを縦横じゅうおうに掘ってそこを組織で使っています。この建物はタダの出入り口です」


「よかったー。こんなのの中にお宝なんかなさそうだもんね」


「わかった。それじゃあ突入前の確認だ。作戦は『殴り込んで皆殺し。そのあと『神の怒り』で焼き払う』いいな」


 シンプル・イズ・ベターだ。ベストとは往々にして言えないものな。


「ま、待ってください、ダークンさん。皆殺しの前に、『闇の使徒』のアジトを聞き出しましょう。知っていそうなヤツの心当たりはありませんが幹部なら知っている者もいると思います」


「忘れてた。そこらは臨機応変にいこう」


「ダークンさん、焼き払う前に、金目のものは回収しますよ」


「それも、忘れていた。ところで、トルシェ。おまえの花火は完成したのか?」


「ダークンさんがここを焼き払う前にお見せしますよ。わたしもまだ夜空で試していないので実際どんな感じになるのか分からないけど、まあ、期待してもらって大丈夫です」


 さすがは魔法の天才。自信満々のようだ。


「それじゃあ、『装着』」


 俺もナイト・ストーカーを着込み、右手に、エクスキューショナー(注1)、左手にリフレクター(注2)を構えて用意万端だ。


 暗がりの中で自分の体を見下ろすと、ナイト・ストーカーの血管が浮き出たような赤い模様が薄く発光していてわれながらカッコいい。




注1:エクスキューショナー

ダークンの愛用する片手剣。通常右手に装備する。正式名は「ソード・ブラック・エクスキューショナー」

特性として、クリティカル率大幅アップ。特に首を狙ったクリティカル率は異常に高い。

命を奪うことにより強化されるが、現状ほぼ最大まで強化されている。自己修復機能付き


注2:リフレクター

ダークンの愛用するこん棒。通常左手に装備する。正式名は「ブラック・クラブ・リフレクター」

特性は、敵の攻撃をはじき返し、ダメージを返す。

命を奪うことにより強化されるが、現状ほぼ最大まで強化されている。自己修復機能付き

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