第40話 三人組強盗団討伐


 ひょんなことから、俺たちは俺たちを討伐することになった。


 世の中何が起こるかわからんものだ。王都の天地は複雑怪奇だったわけだ。


 冒険者ギルドで、誰も俺たちに絡んでくるやからがいなかったのは残念だったがいい経験ができそうだ。



 俺たちは冒険者ギルドを出て街を歩きながら、


「それで、これからどうする?」


「わたしたちを討伐させようとしたマイルズ商会の、おそらくは会長をもう一度ふんづかまえて、ギャフンと言わせなくちゃいけませんね」


「ギャフンで済ますわけじゃないだろ?」


「最低でも身ぐるみ剥がさないといけません!」


「それじゃあ、いまあの会長がどこにいるのか調べなけりゃな。どうすれば居場所がわかるかな?」


「あの建物に住んでいたみたいですから、他に屋敷は持っていなかったのでしょう。ということは昨日きのう今日きょうですから、どこかの宿屋に泊まっている可能性があります」


「きっと高級なところだろうから、目星はつきそうだな」


「ですね。それじゃあ、目ぼしい宿屋をしらみつぶしにあたってみましょう」


「がんばるぞー!」「エイエイオー!」


 この世界にもエイエイオーってあるんだな。




 大通りを歩きながら、通りに面した宿屋を当たっていく。


「この宿屋にマイルズ商会の会長泊ってないかな?」


 美少女二人組のトルシェとアズランが受付で可愛らしい声を出して宿泊客にじじいがいないか尋ねると、この世界は、個人情報の扱いはいい加減なようで簡単に教えてくれる。まあ、単純に『いないよ』と言われるだけなのでそんなに個人情報が流出しているわけではない。


 次に入った宿屋で、宿泊していないことを確認して、次の宿屋にいこうと通りに出たところで、隣の宿屋にあの頭皮に活力を失った小太り男が入っていくのを見つけてしまった。


「隣の宿屋だな」


「あの宿屋は、王都で一、二と言われている宿屋です」


「そこで決まりだな。よし、いくぞ」


「はい」「はい」




 その宿屋の中に入ると、そこは結構立派なロビーになっていて、床などもツルツルの白い石でできていた。今回もトルシェとアズランが受付で係りの女性に、


「この宿屋にマイルズ商会の会長が泊っているはずなんだけど、手渡したいものがあるんで部屋を教えてくれるかな?」


「マイルズさまは、誰とも面会なさらないとのことでしたので、お荷物は当方で責任を持ってお渡しいたします」


「直接手渡さなければいけないものだから、それはできない。それじゃあ、もういい。ありがと」


「そうですか。申し訳ございません」


 係りの女性はちゃんと教育されているようで非常に人当たりが良く好感が持てる。


 一応、この宿にじじいが泊っていることは確認できた。あまり宿には迷惑かけたくないので、派手なことはここではしないようにしよう。


「ダークンさん、私が会長の泊っている部屋を確認してきます」


「頼んだ。俺たちはここのロビーにいるから」


「はい」


 アズランが、その場で姿を消したので俺とトルシェは、ロビーの隅にあったソファーに腰を掛けてアズランを待つことにした。


 ここではさすがのトルシェも、落とし物だといってそこらの調度を拾ったりしないようで、おとなしくソファーに座ってピスタチオもどきを食べ始めた。むろん殻は床の上に投げ散らかしている。ベルトに擬態中のコロがいつもなら片付けるのだが、ここでそんなことをするわけにもいかないので、殻は投げ散らかしたままだ。


 しばらく、そうやってソファーに座っていたら、アズランがフェアを肩に乗せて不意に現れた。


「ダークンさん、見つけました。最上階の4階にいるようです」


「よし、それじゃあ、行ってみよう。

 トルシェも行くぞ」


「はーい」



 アズランの案内でロビーの奥にあった階段を上り、4階まで上り着いた。


 階段から廊下がまっすぐ伸びて、扉が左右に並んでいる。並んでいるといっても、左右三個ずつなの全部で6個ほどだ。一つ一つの部屋はかなり広いのだろう。


「右側の一番奥の扉です。中は何部屋かに別れた続き部屋スイートになっています」


 スイートでしかも通りに面した角部屋だ。見晴らしも日当たりもいいのだろう。じじいのくせに贅沢なヤツだ。昨日身ぐるみ剥ぎ忘れたっけ?


 部屋の前までいって、いつものように扉を蹴破ろうとしたところで、


「ダークンさん、その扉は外開き見たいですから、ダークンさんが蹴っ飛ばすと枠組みごと外れちゃいますよ」


 まずい、まずい。第三者の宿屋には迷惑はかけられないな。


「それじゃあ、どうやって開ける?」


「任してください」


「なに? アズランは鍵開けができるのか?」


「宿屋の鍵はそれほど複雑じゃありませんからなんとか私でも開けられると思います」


 そういったアズランが、キューブの中から布袋を取り出して、中からピンセットの片側のような形の金属製のヘラのようなものを取り出した。


 そのヘラを鍵穴に差し込んで、少しひねったり、引っ張ったりしてカチャカチャして、最後に大きくヘラを回した。


 カチャリ。


「うまくいったようです」


「アズランはいろんな特技があるなー」


「鍵開けは得意ではないんですが、必要に迫られて一応練習しました」


「大したものだ。俺やトルシェだと壊すことしかできないものな」


「ダークンさん、それはわたしを甘く見ています」


「なんだ、トルシェも鍵開けできたのか?」


「いいえ、できません。できるわけないでしょ」


「そこで何を威張る?」


「言ってみたかっただけですよ」


 ややこしいヤツだ。


「どうする? 大っぴらに入るか、こっそり忍び込むか」


「中でどんなことを話しているのか気になりませんか? こっそり忍び込んで聞きましょうよ」


「それもそうだな。それじゃあ音を立てないようこっそり忍び込むぞ」


「はーい」「はい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る