第41話 三人組強盗団討伐2


 俺たちはマイルズ商会のじじいが泊っている宿屋の部屋スイートの入り口あたりに忍び込んで、じじいと番頭風の薄毛男が隣の部屋で会話しているのを盗み聞きしているところだ。


『昨日の連中はどうなった?』


『冒険者ギルドに討伐依頼を出していますし、あれだけ目立つ連中ですから、近いうちに討伐されると思います』


『暗殺ギルドがあんなことになっていなければ、後の面倒な冒険者ギルドに依頼せずともよかったのにな。しかも、かなりの金を掴ませていた屯所の連中までいなくなってしまうとは』


『屯所のほうですが、たまたま昨日休みをとっていたもの以外全員行方不明になっています。

 それと、屯所の前の通りに、砕けたすみがかなりの量散らばっていたそうですが、中から警邏の短剣やベルトのバックルなどが見つかっています』


『それは、どういうことだ?』


『どうやらその炭は、警邏の連中の成れの果てではないかとそこいらの連中が噂していました。それと、あの三人組のうちの二人らしきものが屯所前で炭を踏んづけていたところを見たという話があります』


『あの連中がやったってことか?』


『そこは分かりませんが、もしそうなら、とんでもない連中だと思います』


『そうでなくともとんでもない連中だろ』


『失礼しました。いずれ、屯所の連中がいなくなったことについて警備隊の本部が調査を始めると思います』


『それはまずいな。妙な書類があの屯所にある可能性があるぞ。警備隊の本部に何としても伝手つてを作っておかなかったのが悔やまれるな。警備隊の本部から屯所にやってくる調査員にはちゃんと金を握らせておけよ』


『お任せください』


『店の方はどうなっておる?』


『それが、一切のものがなくなっていたのは同じでしたが、不思議なことに今日は窓が付いていました』


『誰かが手配したわけでもないだろうに謎だな。それよりも権利書やら免許状はやはりみあたらないのか?』


『申し訳ございません。伺っていた保管場所には何もありませんでした』


『三人組はリスト商会のゆかりの者だろうから、その線で連中の尻尾を捕まえることができないか?』


『あそこを見張らせていた連中のうち一人がひどい死に方をしたようで、残った連中が怖気づいてしまって、今は何もできません』


『使えない連中だったな。うちで雇っていた用心棒もまるで役に立たなかったようだし、この国にはロクなヤツがおらん』


『申し訳ございません』


『おまえが謝ってどうする。それで「粉」も連中に盗まれたそうだが、ここ王都の「闇の使徒」がああなってしまっては新しい荷の目途が立たん。当面は本国から調達する必要があるな』


『本国にはその旨使者を出しております』


『わかった』




「本国とか言ってましたが、どこなんでしょう?」


「話しぶりからすると、『闇の使徒』の本山のあるハイデンとかいう西にある国じゃないか?」


「ということは、マイルズ商会はハイデンの手先?」


「手先かどうかは分からないが、つながりはあるんだろうな」


「やはり、いまだ羽振りがよさそうですから、どこかにお金を隠しているんでしょうか?」


「商業ギルドに口座を持ってそこにたくさん預けてるんじゃないかな」


「トルシェ、俺たちも商業ギルドに口座を持ってるんだろ?」


「新階層踏破での報奨金受け取り用にこの前作りましたから。かなりの金額が入ってますよ」


「ふうん。そこらはトルシェに任すよ。

 そろそろ、じじいたちを締めあげるか?」


「ですね」




「おっす! じじい、また会ったな」


 頬の大きさが左右で違うようで、じじいの顔が微妙に歪んでいる。しかも、頬がじじいのくせに内出血しているように紫だ。じじいは足元がしっかりしないからけつまづいて転んで顔を打ったかな?


「お、お前たちは!」


「さっきから、お前らの話を聞いてたぜ。俺らを、冒険者ギルドに討伐させるんだってな? その討伐を請け負った冒険者のパーティーがいるんだが、知りたいか?」



「お、お前たちは。あっ! 三人とも、金カード! まさか」


「そのまさかだよ。わたしたちがじいさんの言う『賊』を討伐してやるよ。いちおうここで前払いしてくれないかな」


 トルシェがいい笑顔でじじいにカネを要求する。


「そういえば、屯所の前のすみ。そこの薄毛のおっちゃんで試してあげようか?」


「お、お助けくださいー!」


 薄毛のおっちゃんはじじいを放って隣の部屋に逃げ込んで行った。


「い、いくらほしいんだ?」


「有り金全部。商業ギルドにカネを預けているなら全額引き出せるよう一筆書いてくれるかな? 死んじゃあお金は使えないんだからいいでしょ」


「金を渡そうが渡すまいが儂を殺す気なら、払う必要は無かろう」


「払えば苦しまずに殺してやるよ。払わなければ、『パルマの白い粉』を口の中に突っ込んで薬漬けにして廃人にするか、『暗黒の涙』っていう毒であんたを殺してやるよ。知ってるだろ『暗黒の涙』。苦しんで死ねるよ」


 トルシェの脅迫は実に堂に入っている。まるで本職の八ちゃんヤーさんだ。


 トルシェがキューブの中から一枚の紙と付けペンとインクをじじいに手渡した。


 それを震える手で受け取ったじじいが、トルシェのいう通りその上に字を書いていき、最後にサインをした。


「ありがとさん。それと、じいさん。じいさんのいう『本国』ってどこ?」


「ハイデンだ」


「なんでこの国で工作みたいなことをしているの?」


「この国の国力を抑えるために決まっているだろう」


「わたしたちには関係ないからそれはどうでもいい」


「儂はここで死ぬのだろうが、この国もいずれハイデンに滅ぼされる。おまえたちもいずれ同じ運命だ」


「それが、最後の言葉?」


「ふん!」


「ダークンさん、いちおう今のが最後の言葉だそうです。楽に殺してやるといった手前、楽に殺しちゃいますね」


「任せた。コロが片付けるとはいっても、あんまり周りを汚くしないようにな」


「分かりました。それじゃあ、コロちゃんは凍っても食べられるだろうから、『フリーズ』」



 トルシェの右手から青白い光の粒々がじじいに向かって放たれ、じじいは目を瞠ったまま凍り付いた。ひっくり返って粉々に砕けると溶け始めて周りが汚れるので、


「コロ、そこの氷を急いで食べてくれ」


『急いで』付きで食べるように言ったからか、ベルトに擬態中のコロから数十本の触手が伸びてほんの一瞬でじじいの氷漬けは目の前から消えてしまった。


 俺たちが何かするよりよっぽ速くて清潔だな。


「さて、後は薄毛のおっさんか。しかし、雇い主のじじいをおいて我先にと逃げ出すのはいただけないな。気持ちはわからんでもないが、どうせ、黒いことをやってきた男だろう。確かめることはできないが『疑わしきは罰せよ』だな」


「ダークンさん、私が連れてきます」


「頼む」



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