第39話 王都冒険者ギルド2、三人組強盗団


 宿屋で酒盛りをした翌朝。朝食を済ませ、


「隣の建物は前からちょっとだけ確認したくらいでいいだろう。もし後で誰か入っているようなら追い出すだけだしな。板で出入り口を塞ぐのはそのうちでいいだろ?」


「そうですね。はやく冒険者ギルドに行ってみたいな」


「アズランは冒険者ギルドの場所は分かるか?」


「はい、あそこならわかります」


「冒険者ギルドは二十四時間営業だろうから、そろそろ行くか」


「はい」「はい」



 宿を出て、隣のマイルズ商会の建物を見たが、人の気配はなく、ちゃんと廃墟していてくれて一安心。


「それじゃあ、次は、冒険者ギルドだ。

 アズラン、案内頼むな」


「はい」




 アズランの案内でやってきた王都冒険者ギルド。テルミナの冒険者ギルドと建物の大きさはさほど変わらなかった。


「王都の冒険者ギルドというから、よっぽど立派な建物かと思ったら、あんまり大したことないのな」


「迷宮都市テルミナにはその名の通りダンジョンがありましたが、この王都の近くにはダンジョンがありませんから、冒険者自体の数はそんなでもないのでしょう。ここでは事務作業を主にやっているんじゃないでしょうか」


「それなら納得だな。だけど、冒険者がいなけりゃあんまり遊べないな。そういえば屯所のヤツがここ王都の冒険者ギルドにはAランクの冒険者がいないとか言ってたぞ」


「あちゃー、それじゃああんまり遊べそうもありませんね。とはいえ冒険者なんてAだろうがBだろうがそんなにかわらないから一緒か」


「だな。それじゃあ、入るか」




 俺たちがそろって、開け放たれていた出入り口から冒険者ギルドのホールの中に入ると、中にいた連中がぎょっとした顔をして俺たちをジロジロ見る。


 こんないい女と、美少女二人が入ってきたんだからジロジロ見るのは分かるが、ぎょっとしたのは何でだ? まあ、どうでもいいか。


 挨拶がてら、受付でも冷やかしてやろうと思い、人のあまり並んでいない列の後ろに付こうとしたら、俺たちの周りから誰も人がいなくなった。丸テーブルの周りに座っていた連中はなぜか立ち上がって、俺たちを遠巻きに囲んでいる。


「なんか雰囲気が変だな。これだと俺たちに絡んでくるような連中はいなさそうだな」


「仕方ないですね。今回はあきらめましょう」


「ま、いいか。なんだか、みんな逃げるようにいなくなって、列の一番前になってしまった。美人は便利でいいな。それじゃあ、トルシェ。何か面白そうな依頼でもないか受付嬢に聞いてくれるか?」


「はーい。任せてください。

 ちょっと、お姉さん、わたしたちは、テルミナから来た三人団っていうAランク冒険者の三人パーティーなんだけど、わたしたちに向いた依頼がなにかないかな?」


 トルシェがAランク冒険者の金カードを見せて、受付嬢に話しかけたのだが、『Aランク冒険者』の言葉で、俺たちを囲んでいた連中に動揺が走った。


「???。なんだ?」


「あ、あのう、テルミナの冒険者ギルドから先日『三人団』と名のるのパーティーに所属する三人がAランクに昇格したとの連絡がありました。みなさんは本当にその『三人団』の方々ですか?」


「そうだけれど、

 ダークンさんとアズランも、カードを出して見せてくれます?」


「はいよ」「はい」


 俺とアズランも、Aランク冒険者の金カードを出して受付嬢に見せてやった。


「お三方は間違いなくAランク冒険者の方々のようで安心しました。

 実は昨日、マイルズ商会という大きな商会に賊が押し入ったそうで、それが女ばかりの三人組。一人は相当な美人で後の二人はお二方のような美少女だったようです。ようはお三方そっくりな賊だったそうです。その賊に対して、討伐のため依頼がマイルズ商会から出されているんです」


 何だよ、まんまだよ。押し入ったのは俺たちだから俺たちにそっくりなはずだよ。


「Aランクのお三方なら、その凶悪な三人組を討伐できるのではないでしょうか? 今現在、この冒険者ギルドではAランクの冒険者は不在ですので、是非お三方にその盗賊団を討伐していただきたいのですが」


「少し考えさせてくれ」


「はい。よろしくお願いします」



『おい、二人ともどうする?』


『うーん、そこいらから適当に三人見繕みつくろって、ファイヤーボールで吹っ飛ばして、破片を持って帰って、討伐したというのはどうでしょう』


『さすがはトルシェ、いいんじゃない』


『だがな、そのあと俺たちがあの建物と土地の所有者になるんだが、それだとミエミエじゃないか?』


『その時はその時、王都で大災害でも起きればみんな忘れますよ』


『おいおい、ここで大災害を起こすのか?』


『たとえばですよ、たとえば』


『まあいいや。それじゃあ、その依頼受けるんだな?』


『面白いじゃないですか、自分で自分を討伐するなんて』


『前代未聞とはこのことだろうが、確かに面白そうだな。よし、やろう』



「わかった。その依頼を受けよう」


「ありがとうございます。期限は1カ月です。未達の場合でもペナルティーはありません。達成報酬は金貨500枚です。賊の生死は問いませんが、生け捕りにした場合、一人頭金貨100枚が加算されます。あと、みなさんはその賊とそっくりですから間違われないよう首から冒険者証を下げておいた方が安全です」


「そうだな、ちゃんと首からかけておくようにするよ。

 ところで、強盗を勝手に冒険者が処分していいものなのか? 裁判とかそんなものはないのか?」


「冒険者ギルドはあくまで依頼を冒険者に斡旋する組織ですから、そういった諸々もろもろの法的な責任は当事者、この場合は依頼主が負いますので、冒険者および冒険者ギルドは一切責任を問われません」


「なるほど。とんでもないが、そういったものだと理解しよう」


 これだと、冒険者ギルドと暗殺ギルドの区別はないんじゃないか? お金さえ積めば相手を殺せるんだものな。違法な場合だと、冒険者ギルドを通すとあとで依頼主がしょっ引かれる可能性があるわけか。そしたら少々高くとも暗殺ギルドに頼むわけだな。なるほど、経済合理性の上に成り立っているわけだ。よくできている。


 本当のところ、マイルズ商会からすれば後腐れなく暗殺ギルドに依頼したかったんだろうが、あいにくと俺たちが暗殺ギルドを叩き潰したから、そこに頼めなかったのだろう。アッハッハ。因果は巡るとはこのことか! いや、少し違うか。


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