第79話 地下通路


 梯子はしごがあったということは、当たり前だがここが屋敷への出入り口になっていたということだ。明確に人の関与があったと考えられる。事件の前からこの穴があったのならば事件に直接関係あるかは不明だが、事件後にこの穴ができたのだとしたら、惨劇のうわさは誰かが意図的に流した可能性が高まる。いずれにせよ、俺の敷地に勝手に出入りされてはかなわない。ちょっくら穴の底にいって、関係者がいたら痛い目に合わせてやろう。


「中に入って調べてみよう」


 新しい展開に、二人とも嬉しそうな顔をしている。


「なにが出てくるのかなー?」


「期待大ってところですね」


「屋敷の中にいたのはさっきの鎧の戦士だけだったし、その台座が最近動かされた感じもなかったから、いま穴の下で誰かが活発に活動してるってことはないと思うぞ。いたとしても、メンテナンス不要のゴーレム系のモンスターくらいじゃないか」


「それでも、何もないよりはましだから急ぎましょう」


 穴の径が六十センチほどしかなかったためかなり狭い。ナイトストーカーを着たままではつっかえそうなので一応収納して、おれは普段着になった。アズランを先頭に、トルシェ、最後に俺の順で梯子を下りて行く。梯子の長さは二十メートルほど。かなり長い梯子だった。


 穴の底は上から見た時と違いうっすらと光があるようで真っ暗という訳ではなかった。その程度の光でも俺たちなら周りが良く見える。


 梯子を下りた場所は石組みの小部屋で、うっすらと光が見えたのは、壁自体が淡く発光しているためだったようだ。梯子以外部屋の中には何もなかったが、梯子とは逆の位置に金属の扉が取り付けられていた。


 この程度の扉なら蹴破ることもできるが、いちおう取っ手を回して扉を押したら何事もなく扉が開いてしまった。



 アズランが立ち止まって扉を確認している。


「ダークンさん。この扉には毒針の罠が仕掛けられていましたが、作動しないように解除されていました。おそらく、上で音がしたのは、これが解除されたり、元に戻ったりした音ではないでしょうか。因みに塗ってあった毒は『暗黒の涙』のようです」


 俺たちにはどんな毒も無効だが、完全に殺しにきている罠だな。


「カチッと、音がしたのは二回だったが、最初は罠が作動しない状態だったのかな?」


「いえ、最後に床をダークンさんが壊した時にもう一度スイッチが入ったのだと思います」


「なるほど」


 毒なんかをかけられて、大事な普段着が汚されてはかなわないので、ここでナイトストーカーを装着しておいた。


 そういえば、トルシェもアズランも、普段着の下に鎖帷子チェーンメイルを着込んでいるだけだ。その割に普段着が汚れていない。アズランなら器用に飛び散る飛沫などをかわせそうだが、トルシェまで普段着が汚れていないのは解せぬ。



 扉の先に進むと、そこは階段の踊り場になっていて、石でできた下り階段が続いていた。かなり長い階段のようで、下の方は瘴気か何かでかすんでいて、どこまで続いているのか分からない。


「下の方が霞んでいて俺たちのダンジョンによく似てるんだが、まさか、また三百段あるってことはないよな?」


「可能性はあるんじゃないですか?」


「どこにも、ダンジョンの出入り口は無かったぞ」


「それでも、タダの人間にはこれほど深い階段は作れないでしょう」


「そう言われればそうだが、それじゃあ謎は深まるばかりだな。とにかく、俺の大神殿の下に勝手に穴を掘られてはたまらないから、相手が何であろうと叩き潰してやる。行くぞ!」


「はい」「はい」



 階段を一段一段俺たちは下りていく。下りた段数の勘定はアズランに任せているので数えてはいないが、なかなか下の方に見える霞の先の階段の底が見えてこない。


 ふと気になって後ろを振り返って見上げたら、階段の降り口が、四、五十段上にあった。


「二人とも、また・・先に進めないトリックに引っかかっているようだぞ」


「前の方に向かって、ファイヤーボールでも撃ち込んでみましょうか?」


「うーん。それをすると、ぐるりと回って後ろから俺たちに向かってファイヤーボールが飛んで来そうだからやめていた方が良くないか?」


「その時はその時で、撃ち落しますから大丈夫です。念のため、あんまり速くないファイヤーボールでいきましょう」


「そうだな。何かわかるかもしれないから、やって見るか」


「それじゃあ、イッケー!」


 トルシェの右手のひらからソフトボール大の火球が階段の下に向かって撃ちだされた。


 確かに、いつもとは速度が違って、そこいらの魔術師の放つファイヤーボール並みのおとなしい火球だった。


 俺たちはその火球を足を止めて眺めていたのだが、火球はそのまま下の方に飛んでいき、霞の先で小爆発が起こったようで、ボンとか音が聞こえてきた。


「ファイヤーボールは階段の底に届いたようだな」


「そうですね。ということは、この階段の上に立っているからわれわれは先に進めないのかも」


「トルシェ、試しに『メジャー・レヴィテート』をみんなにかけてみてくれ」


「はい。『メジャー・レヴィテート!』」


 自覚はほとんどないのだが、足がわずかでも階段の段の上から浮かび上がったはずだ。


「よし。これで、後ろの方を確認しながら下っていこう」



 ゆっくり階段を下りながら、いくども後ろを振り返る。着実に階段のり口は遠ざかっている。今回は階段そのものがスイッチになっていたようだ。どこかにこの仕掛けを停止するスイッチもあるのだろうが、空中浮揚レヴィテートで何とかなってしまったのでそれで良しとしよう。


 

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