第78話 探検2


 廊下づたいに何部屋か見て回ったが、傷んでボロボロの部屋があっただけで、いわゆる廃屋そのものだ。そろそろ変化が欲しい。


 皆殺し事件の起きたというかなり広い部屋も見つけたが、中はテーブルや椅子などがボロボロになりながらも綺麗に並んでいた。テーブルの上にはクロスが広げられていた。そのクロスは昔は白かったのだろうが今は色褪せところどころカビかシミで黒くなって、その上に皿やグラス、酒の入っていたであろう瓶が倒れたり割れたりしていた。しかし、部屋のどこにも惨劇を思わせるようなものはなかった。


「事件があって、その後誰かが死体を片付けたのかな?」


「あの後中に入った人間は誰も出てきていないという話でしたから、死体などは回収されていなかったと思います」


「じゃあ、そもそも、どうしてこの屋敷の中で惨劇があったと世間が騒いだんだろう? みんな死んでいるんじゃ、何が起こったのか想像することしかできないんじゃないか?」


「不思議ですねー」


「考えられることは、誰かが故意にそういったうわさを流したってことか。理由はこの屋敷に入ってほしくないとかそんなところで」


「盗賊団のアジトにするにはもってこいの場所なので、そういった線も考えられますが、盗賊団にさっきの動く像みたいなものをどうこうできるとは思えません」


「確かに。あいつは少なくとも人間じゃなかったしな。ということは、誰かが故意にうわさを流したにせよ、ここはやっぱりヤヴァいところってことだな」


「何十人も死んだというのは、確認されたわけじゃないんでしょうが、何十人も行方不明というのは事実なんでしょう。やっぱり、死体もないところを見ると、何かが死体を利用するため運んで行ったのかも」


「利用というと?」


「食べるためとか、何かの儀式に使うためとか、いろいろ」


「『闇の使徒』みたいな連中ならできそうだし、やりそうだよな」


「それじゃあ、ネクロマンサー的な何かが絡んでいるんですかね?」


「ありうるな。そのうち出くわすだろうから、その時にでも本人に聞いてみよう」



 そういった話をしながら俺たちは一階をくまなく探したのだが、ボロボロの部屋があっただけで、何か変わったものはどこにもなかった。そして最初の玄関ホールに今は戻ってきている。


「一階は何もなかったが、上に何かあるかな?」


「二階、三階は床が傷んでところどころ抜けていそうですね」


「ここまで来た以上、とりあえず、全部の部屋は確認してみよう。人が入ったまま出てこれなくなるというならその原因を確認しないと、ここの解体工事なんか業者に頼めないからな」



 階段を上り二階に上がってみたら、アズランの言うように床が木製だったため、かなり傷んでいた。見たところ、穴が空いているところはないようだが、アズランやトルシェならともかく俺が乗ったら、床が抜けてしまいそうだ。床が抜けて下の階に落っこちてもなんともないが、そこから跳び上がって床の上に着地したらまたそこが抜け落ちそうだ。


「この先を確認したいが、ちょっとこの調子だと歩けそうもないな。空中浮揚的な魔法ってないのかな」


「はい、はーい。ここはわたしの出番ですね。それじゃあ、

『メジャー・レヴィテーション!』」


 俺たちの足が床から数センチ浮いている。


「これが空中浮揚、レヴィテーションか。こんな魔法も使えるんだな」


「これはうちにあった魔術書に書いてあったものをわたし風にアレンジしたものです」


 わざわざ『わたし風の』とつけたあたり、アレンジの内容を聞いてもらいたいのだろう。ここは素直に乗ってやるか。


「どんなアレンジをしたんだ?」


「ダークンさんやアズランには必要だと思ったので、浮いたままでも体を踏ん張れるようにしました。感覚的には、石の上でなく土の上で動き回るみたいなものと思います。体重を乗せた足は少し沈みますが、違和感がほとんどなく普通に体を動かすことも戦うこともできると思います」


「ほう、実に実戦的じゃないか。さすがは大賢者トルシェ」


「エヘヘヘ」


 褒めれば伸びる。伸びなくてもこれだけ嬉しそうな顔をされると褒めがいもある。



 ものは試しに、足を一歩踏み出して体重を乗せたりその場で軽くジャンプしてみたが確かに違和感はない。


「これはなかなかいい。この魔法は、何時間くらいもつんだ」


「うーん。おそらく半日かそこらで切れると思います。スケルトンくんの時のような失敗はしません。好きな時に解除もできます」


「半日でも十分長いが、別に支障はなさそうだから構わないぞ。それじゃあ、部屋を一つ一つ当たっていこうか」



 それから俺たちは、ひと部屋ずつ中を確認していったが、一階同様、部屋の中がボロボロなだけで、何も変わったことがなかった。


「それじゃあ、三階に行ってみようか。この調子だとなにもなさそうだよな」


「本当に何もなかったらどうします?」


「そうだなー。また玄関ホールに戻って、あの辺りを良く調べてみよう。それでも何もなかったら中庭を当たってみよう」



 結局三階も他の階同様変ったところはどこにもなかった。


 一階の玄関ホールに戻り、また像の台が置かれていた辺りを確認してみる。トルシェに言って空中浮揚を切ってもらったら、石の床に足がついた。


「さっき見て結局何もわからなかったから、今見て何かわかるわけはないものな。中庭を調べる前に、どれ、この床の石を叩き壊して中を確認してみるとするか」


 真っ黒いこん棒、リフレクターを両手で持って、思いっきり白いまま汚れていない床の部分に叩きつけてやったら、床の石材が砕けて、そこに直径六十センチほどの穴がいた。覗いてみると穴はそのまま筒になっていて、壁に梯子がついている。中は真っ暗だが俺たちにとっては問題がない。穴の底はこの穴がただの穴ではなく、横穴に繋がっているように見える。


 台座を動かしたり上に乗った時「カチッ」とか音がした理由は今のところ分からないが、下にりればなにか分かるかもしれない。



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