第150話 ゴーレム化


 トルシェのタートル号改造工事も無事終わった。


 今日は俺自身が何をしたわけでもないが、気疲れしてしまったので、昼食後はソファーに腰かけてまったり過ごしてしまった。


 ボーとしていたらそのうち陽も傾いてきたので、


「少し早いが、湯舟にお湯を入れて、マリアとアズランは先にお風呂に入って来いよ」


「はい」「はい」


 マリアとアズランが二人連れだってお風呂に向かった。


 トルシェと一度試したところ、かなりの勢いでガーゴイルの口からお湯が出ていたから、湯舟にお湯の溜まるのはかなり速いだろう。ただ、上から配管された給水パイプがガーゴイルのお尻につながっており、ガーゴイルの体内を通るうちに適温まで温められて口から流れ出しているところが何だか微妙だ。よく考えれば、口から入ってお尻から出てくるよりはいいのかもと思い直した。結論としてはいいお湯が出てきているので問題はないだろう。


 いまのところ脱衣所は無いので、二人は風呂場の外で裸になって風呂に入っていった。二人とも脱いだ衣服はまとめて入り口の前に置いている。


 野人のトルシェの辞書には「脱衣所」という言葉がそもそもないはずなので、タートル号の中に脱衣所がつくられることはこれからも誰かが強く言い出さない限り無いと思う。


 脱衣所はどうでもいいが、少なくとも風呂場の入り口には、棚と脱衣籠が必要だろう。使っていればいろいろと必要なものが見えてくる。さらに欲を言えばボディーソープやシャンプーが欲しいが、似たものは雑貨屋で売っているがあまり良いものはない。さすがのトルシェでも、石鹸関係は難しいかもしれない。


 そんなことを考えていたら、風呂の中からアズランが、


『お湯ってどうやって湯舟に入れるんですかー?』


 風呂に入った二人ともガーゴイルの使い方を知らなかったようだ。それにトルシェが答えて、


「ガーゴイルはお湯専門のゴーレムだから、ガーゴイルに向かって、『出ろ』とかそれなりの言葉を言えばお湯が出て『止まれ』とか言うとお湯が止まるよ」


 風呂場のガーゴイルもそうだが、そのほかの蛇口関係も全てゴーレム製だ。そいつらも言葉で開閉するのだが、全部にタートル号並みのなんちゃってAIが実装されているのかもしれない。あり得る。


 そのあと、俺が何も言わないうちから、トルシェが魔法だか魔術だかで風呂場の前に棚を作ってしまった。『より良いものを作り上げる』そういった芸術家の矜持きょうじがトルシェを突き動かしているに違いない。あたりかまわず汚れ物を投げ散らかすトルシェにしては上出来だ。


「そういえば、トルシェ?」


「なんです?」


「ガーゴイルとかお湯を沸かしているけど、魔力で沸かしているんだろ? すぐに魔力がなくなってお湯が出なくならないか?」


「わたしたちが一日一回入るくらいじゃ何ともないんじゃないかな。ああみえても、あのガーゴイルはタートル号なみの魔力を込めて作ったから、放っておいても周りの魔力を取りこんで魔力が回復するはず」


 無駄に、とは言わないまでもかなりのハイスペックなガーゴイルだった。いざとなったらお尻に突っ込まれたパイプを外して、戦うことができるかも知れない。


 そんなことを話していたら、アズランとマリアが風呂から上がってきた。


 気を利かせたトルシェが二人をドライヤー魔法で乾かしてやっていたので、


「トルシェ、風呂の出口にドアイヤー魔法が使えるゴーレムを置いてれば便利じゃないか?」


「それはいいかも。すぐ作っちゃいましょう」


 さっき作った棚の反対側に置かれたゴーレムは、樽を横に寝かせて台の上に置いたような形をしていた。後ろから入った空気が温められて前から出てくる。暖かい空気でなくただの風が出てくるなら羽のない扇風機のようなものだ。


 ただ、温風の勢いはかなり強い。これならすぐに全身乾きそうだ。トルシェ製のゴーレムなので試しに「もう少し緩やかに」とか言ったら温風が弱くなった。動かすときは適当に「送れ」でもいいし「始め」でもいい。止める時は「め」でも「止まれ」でもいいようだ。


 体を乾かしてもらって服を着たマリアも、さすがに今回は驚いてくれたようだ。ドライーヤーゴーレムが扇風機型だったら『われわれはうちゅうじんだ』とか言って笑わせることができたが残念だ。



「トルシェ、ぽんぽんゴーレムを作っているけど、ゴーレムって材料がいるんじゃなかったっけ?」


「材料があればそれだけ簡単だけど、ホムンクルスのトルシェ2号を創った要領で魔術だけで作っちゃいました」


「ということは、これからたいていのものは、魔術で作れるってことか?」


「ダークンさんに言われてみればその通りでした」


「それじゃあ、金の延べ棒も作れるってことか?」


「さすがにそれは無理でしょう?」


「試してみないうちから、無理ってことはないだろ? 俺からすれば、トルシェ2号の方が、金なんか作るよりよほど難しそうに見えるがな」


「そうかなー? それじゃあ試してみましょう。……」


 そう言ってしばらく考え込んだトルシェがいきなり右手を一振りした。足元に金の延べ棒が一本転がっている。俺の目では本物の金に見える。自分でも驚いているトルシェに代わって、それを拾ってみたがこの重さは金だ。鑑定するまでもない。


「金の延べ棒ができたように見えるぞ」


「あれ? ほんとだ。今まで苦労して金目のものものを拾ってきたけど、あれはいったい?」


「まあいいじゃないか。俺たちにとっては、かねなんてあんまり意味ないってことなんだろ」


 これを見たマリアが、またまた口アングリしていた。


 一連のトルシェの働きで、タートル号が第2ワンルームマンションと化してしまった。その後俺とトルシェで風呂に入ったのだが、相変わらずトルシェはそこらに服を脱ぎ散らかしていた。それを見かねたマリアがトルシェの脱ぎっぱなしの衣類を脱衣籠の中に入れてやっていた。


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