第149話 タートル号、空間拡張2
昼食の前までに、トルシェの独壇場でタートル号の内部拡張工事が進み一応の完成を見た。これから使っていって不具合があれば直していけばいいだろう。
二階に置いたタンクには水は満杯に入っている。そこから、一階の風呂場、トイレ、キッチンにパイプが伸びている。
浴室は、広さは四メートル四方。浴槽の大きさは縦横三メール×二メートル、深さは七十センチほどのものだ。洗い場は三人分ついている。浴槽の脇には温水器代わりのゴーレム製ガーゴイルが鎮座して、その口から適温のお湯が浴槽に流れ出るようになっている。
浴室の洗い場の脇には、金物製の桶が何個かひっくり返して重ねてある。さすがに純金ではないのだろうが、金でできた桶のようだ。トルシェがどこかで
浴室の隣に水洗トイレ。これは俺たちには不要なものだが、マリアのような一般人のためのものだ。これでマリアも一々トイレ休憩をしなくて済む。
一応小さいながらも流し台の付いたキッチンが浴室の反対側に作られた。
全ての排水は下に拡張した部分に収まっている汚水タンクに流れ込むようになっている。汚水タンクはタンクと言っているが、下に空間を拡張しただけのものだ。
便器以外の排水パイプはご丁寧に臭いが逆流しないよう一度上向きに曲がった上で再度下向きに曲がっている。便器については便器内部に水たまりを設けそのオーバーフローが排水パイプに流れ出るように作ってあった。俺も気付けなかったが、やけに細かいところまで作り込んでいる。
「トルシェ。できたな」
「えへへ」
「ところで、汚水タンクの中の汚水や汚泥は最終的にはどうするんだ?」
「今のところ全く考えてません。いっぱいになる前にタンクを二倍、二倍って大きくしてけばいいかなーって」
「確かに、トルシェならタンクをどこまでも大きくできそうだから、それでもいいのかもしれないが、タートル号はその分重くなるんだろ?」
「その都度タートル号を強くしておけば大丈夫」
確かにトルシェの言うことも一理ある。常に二倍、二倍と賭けていくことのできる財力があれば最終的には勝負に負けないものな。そのはずなのだが、なにか間違っているような気もする。とはいえ、何かあっても汚水がそこらにぶちまけられるだけだろうから大したことない。たぶん。
「それじゃあ、試しにキッチンを使ってマリアに何か温かいものを作ってやろう。
トルシェ、包丁とかフライパンとか持っていないか?」
「すみません、そういったものは良く落ちてたけど、わざわざ拾ってません。魔導コンロはあるから、直火で串焼きを焼き直すことはできるかも」
「それでもだけでもいいから、やってみよう」
大皿に盛った串焼きを俺のキューブから取り出し、調理台の横に置いてあった魔導コンロに火をつけて片手に一本ずつ持ってあぶっていく。網でもあれば楽なのだがそういったものは無いらしい。肉汁が垂れてしまいコンロやら回りが汚れたがそこは仕方ない。あとで適当な布を布巾にして掃除すればいいだけだ。
今日の昼食は温かい串焼きがメインで、それにいつもの酒の肴、マリア用にトマトと果物、パンといったところを並べてみた。台所の横にトルシェがどこからか拾ってきた四人用の高級テーブルと椅子を並べたので、そこで食事することになった。
マリアはトルシェのやっていることを半分口を開けてずーっと眺めていたが、そのうちそういう物だと達観したようで、一々驚かなくなってしまった。少女の驚く顔を見るのも何だか楽しいので、それはそれで残念だ。
「やはり温かい方が美味しいです」
とかマリアが言っていたが、スープぐらい作ってやった方がいいよな。あと一日半でセントラルだ。それまで我慢してくれ。ということは、セントラル到着は深夜か。まっ、いっか。
今回は仕方ないが、こうなってくると食器やら、包丁、鍋、フライパンパンなどを揃えたくなる。そして極めつけは何といっても冷蔵庫だ!
「トルシェ、冷蔵庫ってできないかな?」
「冷蔵庫?」
「厚めの板でできた食材用の箱で、中が冷たいんだ。冷たいところに入れておくと腐りやすい物でもある程度長持ちするからな。箱の材質は、熱の伝わりにくいほどいい。木材でもいいがな」
「それなら簡単。適当に魔術で箱を作ってその中に氷を入れておけばいいでしょ?」
「それでもいいが、それだと氷が解けた水を排水できる仕組みがいるな」
「うーん。どうせ作るなら、食糧庫にしちゃいましょうか? 空間拡張で部屋を作れば冷気が漏れるのは出入り口のある面だけだし、排水も排水溝を作って排水タンクにつなげるだけだし、氷も大きいのを作っておけば長持ちするし」
「できるならその方がいいだろうな」
「それなら、パパっとやっちゃいましょう」
まだ食事中だったが、トルシェは席を立ち、台所の脇を高さ三メートル、幅三メートル、奥行き五メートルほど拡張してしまった。新しくできた部屋の両側の壁に沿って溝が作られ排水溝もでき上った。排水溝の先はマスになっていて、その底が排水タンクにパイプでつながっているそうだ。
食糧庫の一番奥には、奥の壁全体を覆うような大きな氷の塊が置かれている。これなら何日も食糧庫の中は冷たく保てる。さらに氷の塊の底の床は他より一段低くなっていて、排水溝につながっているので、食料庫の床が水浸しにはならないようになっている。
「トルシェ、細かいところまですごいじゃないか」
「えへへ。ちょっと頭を使っちゃった」
「それで、この食糧庫の出入り口はどうなるんだ?」
「そうですね。冷気が漏れないように密封しちゃいますか?」
「密封?」
「このまま新しくできた部屋を閉じちゃうんです」
トルシェの言っている意味が分からなかったが、目の前に元の壁ができてしまって食糧庫は消えてしまった。
「閉じちゃうのは分かったけど、開くときは?」
「こんな感じ」
目の前の壁が消えて、食糧庫が現れた。
「これだと、冷気の漏れはなさそうだけど、トルシェしか出し入れ出来なくないか?」
「今はそうだけど、ダークンさんもアズランもちょっと練習すればできるようになるハズ」
「えーと、トルシェに魔術だか魔法を教わるってことか?」
「そう」
うーん。あの教え方のトルシェだ。それは無茶ってもんじゃないか?
食糧庫の担当はトルシェに専任してもらうほかないな。
「それじゃあトルシェ、キューブに入れている食材なんかを冷蔵室に並べておいてくれ」
「はーい」
いい返事でトルシェがキューブから取り出した食材などを並べていく。
「棚もあった方がいいな」
「肉は臭いが出て他に移りそうだから、別に容器を作るか」
「野菜や果物はあまり冷やさなくても良さそうだから、出口あたりでいいかな」
一人でブツブツ言いながらがら十分ほどで作業が終わったようだ。
「トルシェ、ご苦労さん。きれいに並べられてるじゃないか。そしたら閉じておいてくれ」
「はーい。えへへ」
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