第148話 タートル号、空間拡張1


 魔界ゲートも封鎖できたし、今後の見通しもほぼ・・立った。


 グリフォンたちは思い思いにつがい同士連れだってどこかに飛んで行った。そのうち、この世界いっぱいに広がったら面白そうだ。グリフォンが大繁殖してしまうと生態系の破壊につながるかもしれないが、たった十匹じゃあそこまで繁殖しないだろう。多分だけどな。いずれにせよ、女神さまの俺が大目に見てやるから問題なーし!



 夜もすっかり明けてきた。そろそろマリアも目がさめて起きだすころだろう。


 マリアにトイレを済まさせたら、セントラルに帰ろう。



 長椅子で寝ていたマリアが目覚めたところで、アズランがマリアを連れてハッチバックから出ていった。二人が帰ってきたところでタートル号は腰を上げてセントラルを目指し南に歩きだした。





「これで、何とかなるかな?」


 トルシェが何かひらめいたらしい。マリアに朝食を食べさせてからそんなに時間は経っていない。


 そのトルシェを見ると、独り言を言いながら何やら始めるようだ。


「試しに、模型を作ってみればいいかな? でも失敗するハズ・・ないからこのままやっちゃお。前方を伸ばしてしまうと前が見えなくなるから、後ろを長くすればいいな」


 トルシェの右手のひらの上に、パチンコ玉くらいの青白い光の球が一つ現れた。そいつはとにかくギラギラと眩しい。トルシェの体の陰になった部分以外、タートル号の内部が青白く照らされている。



 トルシェの作業をアズランと隣に並んだマリアも見ている。マリアは半分口を開けてぼーとしているのだが、将来女王になるんだから、人前でのほうけ顔は感心しないぞ。こういったところも、セントラルの王宮に帰ったらちゃんと帝王教育で学んでもらわないとな。



 トルシェの右手の眩しく光る球が、タートル号のハッチバックの先に向かって撃ちだされた。球が進むに連れて、甲羅の内側の天井が高くなり、さらに球が進むと玉の先に新たに真っ白な床と壁、天井ができ上っていった。球が消えた時、縦横三メートル奥行き十メートルほどの細長い部屋ができていた。


「トルシェ、すごいじゃないか」


「エヘヘヘ。もうちょっと広い方が良さそうだから、もう少し手を加えてみまーす」


 かなりウキウキ感が出ている。


 これで外から見てタートル号の外見が後ろにグーっと伸びていたら大変だが、スリットから後方を覗いたところ外見に変化はないようだ。ただ、ハッチバックの位置が相当高くなってしまったので、今のままではアズラン以外では使えない。



 次にトルシェは、青白く輝く球を今できた長ぼそい部屋の左右に少し離して一個ずつ飛ばした。その結果、元の部屋が左右に拡張されて、高さ三メートル、幅八メートル、奥行き十メートルほどの広間ができあがった。これに仕切りをつければ八十平米のマンションのでき上りだ。


 まあ、水回りが今のところないのでマンションとは言えないが、すごいものだ。タートル号の内部の平面図はU字型をにひっくり返したような形をしていて、前方が半円、後方が長方形をしている。


「トルシェ、ハッチバックの位置が高くなってアズラン以外には使い勝手が悪そうだからどうにかならないか?」


「ハッチバックはやめて、サイドハッチにして横から出入りできるようにしましょう」


 そう言ったトルシェはすぐに何やらつぶやきながらサイドハッチを作ってしまった。


「外からは見えないものの、後ろがあんなに広くなって、タートル号のスピードは変わらないのか?」


「重くなった分遅くなりますが、それ相応にパワーアップしておきます。それでこれまでと変わらないはず」


「だったら、もっとパワーアップすれば、その分速くなるんじゃないか?」


「あんまりそれをやっちゃうと、チャカチャカ動いてカメらしくなくなるんですよねー」


 なるほど、トルシェ的美学ってやつだな。芸術家によくあるこだわり・・・・なのだろう。タートル号が高速機動でチャカチャカ動いてたら確かに巨大Gに見えるものな。


 ゆっくり進むと言っても時速三十キロで無休で目的地に向かって歩くことのできるタートル号だ。しかもほとんど指示する必要もない。これ以上贅沢は言うまい。


 とか考えていたら、トルシェが新しくできた広間にキューブから取り出したベッドを四人分一番奥の方に並べ始めた。そこはベッドルームにするらしい。


 トルシェにはなんでもアリだな。こうなったら、思い付きでも良いから要望をどんどんトルシェに言っていこう。


「トルシェ、ベッドルームとの仕切り壁が欲しいな」


「はーい」


 すぐに仕切りができて扉がついた。


「良いじゃないか。欲を言えば風呂とトイレだよな。それに台所もあった方がいい。上の方に大きな水タンクを作ってそこにトルシェが魔法で水を作る。

 それをうまく配管して水回りを整備して、汚水や排水は下にタンクを作って溜めておく。どうだ?」


「いいですねー。それやっちゃいましょうー」


 一度上向きにあの光の球を打ち上げて天井を高くしたトルシェは、すぐに階段を作って上っていき、今度はそこから後ろに向けて部屋を作っていった。簡単に二階部分ができ上った。


 二階に上がったトルシェが俺を呼ぶので階段を上がってみたところ、


「ダークンさん、水のタンクはどれくらいのものを作りましょう?」


「それはトルシェの水を作る魔法能力によるけれど、どの程度の水が作れるんだ?」


「うーん。『暗黒の聖水』もあるし、ほぼ無尽蔵かな?」


「だと思った。そしたら、そうだなー、あんまり大きくして何かあっても困るから、縦横高さ二メートルくらいの箱を作って、五十センチくらいの台の上に置くようにしたらどうだ。それだけでも八トンの水が貯まるからそれなりだろう?」


「八トンだと、お風呂に使ったらすぐじゃないかな? あんまり回数水を作るのは面倒だからわたしとしたらもっと大きい方がいいなー」


「それなら、高さはそのままで縦横三メートルにするか。それで十八トンだ」


「それでいきましょう」


 すぐに台に乗ったタンクができ上り、トルシェはそのタンクにパイプを繋げて下に伸ばしていった。


「ダークンさん、ワンルームにあった蛇口の仕組みが分からないんですけど」


「俺も良くわからないから、ここはトルシェお得意のゴーレムを作ればいいんじゃないか? タンクからパイプを繋げて命令すれば口から水が出てくるような感じで」


「それなら簡単。台所やトイレも蛇口なんかは小さくないといけないけれど、お風呂の湯舟用はせっかくだからガーゴイルっぽくしよっと」


 このタートル号もそうだし、グリフォンもカッコよかった。芸術的センスもトルシェは持ち合わせているようなのでカッコいい蛇口ができ上りそうだ。


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