第151話 セントラル


 タートル号の中は電化ならぬゴーレム化がやたらと進み非常に住みやすくなった。


 調理道具などなかったため料理は諦めていたのだが、何でもトルシェが作れることが分かったので、結局、各種の鍋、フライパン、包丁なども全部そろえることができた。


 宿屋に泊まっていた時はそこで汚れ物は洗濯してもらっていたのだが、長いこと出歩いていたので、洗濯物がだいぶ溜まってきている。洗濯の問題さえ片付けば、わざわざテルミナのワンルームに帰る必要もない気がする。


 ということで、今度は風呂上がりでいつものようにマッパのトルシェに洗濯機ゴーレムを作ってもらった。場所は浴室の隅だ。給水タンクにパイプでつなげた樽型のゴーレムの中に洗濯物を入れると、水が溜まって、洗濯物が中でくるくる回るだけのものだが立派な洗濯機だ。


 今のところ洗剤のたぐいがないのでそこまできれいになるわけではないだろうが、コロちゃんの触手による汚れの捕食では対応できない、汗やシミなどはある程度きれいになりそうだ。


 洗濯物の乾燥は、浴室入り口横に置いたドライヤーゴーレムの前に洗濯物を持っていって床に適当に並べておけばドライヤーゴーレムが温風で乾かしてくれる。


 こうなってくると、メイドゴーレムを作って家事を任せたくなってくる。


 トルシェに言ったところ、ゴーレムよりスケルトンの方が融通が利くというので、ブラックスケルトンナイトをメイドにするため召喚してもらった。主な仕事は、タートル号内部の掃除と洗濯だ。


 料理も作らせたいところだがスケルトンでは味が分からないのでやはり諦めた。


 迷宮外で名づけの効果があったかどうか忘れてしまったのだが、試しに俺が直々黒ちゃんと名付けたらメイドスケルトンが一瞬青白く光ったあと、黒光り度合いが黒々から、黒テカにランクアップしたような気がする。


 とりあえず、鑑定してみたところ、


名前:黒ちゃん

種族:オブシディアン・スケルトン

種族特性:非常に強靭。力、素早さ、巧みさが圧倒的。スケルトン種のなかの最上位種

職業:メイド


 進化の項目がないので、進化はしないようだが、一気にスケルトン最上位種になってしまった。職業のメイドというのはまんまだが、なにか特別な意味があるのかもしれない。いや、そんなわけないか。



 考えたら、マリアは魔界ゲートでスケルトンを見た時も、黒ちゃんを見ても全く怖がらない。俺がありがたい加護をマリアに与えたから、そういったものへの耐性がマリアに付いたためだと俺は思っている。


 そんなこんなで時間を潰していたら荒れ地も過ぎて、辺りは立ち木の繁る山の中。


 ずいぶん街道から離れたところを進んでいるようだが、どうもタートル号はセントラルに向かって直進しているようだ。


 後ろに部屋を作った関係で、後方の確認が難しくなってしまったため直接は見ていないが、タートル号の後ろにはなぎ倒された立ち木が連なっているのだと思う。


 重さも増してパワーアップしたタートル号が時速三十キロで立ち木をバタバタなぎ倒していくのだが、あまりうるさい音はしない。


 今タートル号には前方の半円部分に何個所かスリットが開いているがそこからではタートル号の中に木々をなぎ倒す音が入ってこないようだ。


 タートル号の中でも立ち木にぶつかった振動も感じないので、気づかなければ、何を踏みつぶしたかまるで知らずに通り過ぎていることも考えられる。


 それから丸一日、タートル号は目の前のものをなぎ倒し踏みつぶして順調にセントラルに向けて進んでいき、とうとう遠目にセントラルの外壁が見えてきた。


 今はもう真夜中なのでマリアは既に寝室のベッドの中で眠っている。


 このままタートル号で王都の北門まで行ってそのまま王宮に顔を出すのは王宮の連中が可哀かわいそうだと思い、北門手前で一夜を明かすことにした。マリアは寝室で寝ているので気兼ねなく明日の朝まで俺たちは酒盛りを続ける予定だ。



 翌朝。


 みんなで朝食をとり、タートル号はセントラルの王宮に向けて出発した。朝食には俺がハムを小さく切った物を入れて野菜炒めを作ってやった。塩コショウは無かったが、ハムの塩味がきいてそれなりに美味しかった。もちろんマリアも喜んで食べてくれた。スープは時間がなかったので作らなかった。スープの素のようなものがあれば便利なんだがな。


 当初は北門から進もうと思ったが、やはり女王さまは王都の正門である西門から王宮に向かった方がいいだろうと思い、タートル号を西門に向かわせることにした。


 西門では、朝早くから馬車や通行人がひっきりなしに出入りしていたが、わがタートル号を見て、その場で停止して道をよけてくれた。


 タートル号が女王さまお召の乗り物だということが周知されているようで非常に喜ばしい。


 西門ではまだブラックスケルトンたちが警備を続けていた。非常に頼もしいが、もうじきこの連中も隊長格のブラックスケルトンナイトを除いて消えていくので、一般兵に引継ぎをしっかりする必要がある。



 王都の大通りに入ってからは、行きかう馬車はタートル号の通り過ぎるのを邪魔しないよう通りの脇に寄って停止している。タートル号は大通りの真ん中を進み王宮の門前に到着した。


 このまま王宮の中まで入っていくと門が壊れそうなので、門の前でタートル号から全員で降りた。もちろんメイドの黒ちゃんも一緒だ。今のところ黒ちゃんには服を着せていないので、黒ちゃんはスーパーマッパのまんまだ。


 サティアスオウムの籠をまた忘れるところだったが、今回は黒ちゃんが持って来てくれた。中に籠を置いたまま、タートル号がゾウガメモードになったところで、サティアスも小さくなるはずなので放っておいてもいいと思うのだが、黒ちゃんはメイドだけあって気が付いてくれたようだ。


 何かあってもどうせサティアスだから、今度わざとサティアスを置き忘れてどうなるか確かめてみよう。



 マリアは王宮の門を見上げている。


「マリア、ここがおまえの新しい家になるトラン王国の王宮だ」


「わたしが、こんなところに住んでいいんでしょうか?」


「何度も言っているだろ? お前は俺の準眷属だ。威張ったり横柄になる必要は無いが、そこらの王族などよりよほど高貴なんだからな」


「はい」


 マリアは頷いたものの、半分呆けたような顔をしている。『地位が人を作る』という言葉があるが、時間があれば自然と自覚していくはずだ。


 俺たちを遠くから認めたスケルトンや王宮の兵隊たちが門の前に出て、整列して俺たちを出迎えている。その中をタートル号から降りた俺たち四人プラス黒ちゃんアンドサティアスオウムが門をくぐり宮殿に向かって歩いていく。最後にゾウガメモードになったタートル号がついてきているのは言うまでもない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る